コロナ禍が明け、円安という追い風も重なり、日本を訪れる外国人旅行者の数は急速に回復しています。2025年には訪日客が4,000万人を突破。政府は「観光立国」を成長戦略の柱に据え、「2030年に6,000万人」という目標を掲げており、それも現実味を帯びています。この流れに乗るように、宿泊の「受け皿」…民泊施設の数もまた増加の一途をたどっています。
【民泊トレンド2026・その①】記事はこちら
ただ、民泊をめぐる賛否は以前から燻り続けていました。日帰り・観光の素通りではない「滞在による経済効果」という期待の裏側で、騒音やごみの不法投棄、マナー違反といった問題が各地で積み重なり、住民の不満は年々高まっています。民泊に関する苦情件数が数年で10倍以上へと急増した自治体もあり、施設が増えるほど、住む人の暮らしへの影響も大きくなっていったのです。
そんな状況もあり先ごろ、観光庁は「住宅地などの居住環境が損なわれる恐れがある場合、自治体が条例によって民泊の営業を事実上禁止する」ことを容認する方針を固めています。民泊新法が施行された2018年以来、国は「民泊振興」の旗を掲げ、自治体による全面禁止は「法の目的を逸脱する」として認めてきませんでした。その方針が、約8年を経てついに転換されたのです。

「家主不在型」と言われる民泊は国内全体の6割超(観光庁:住宅宿泊事業の実態調査より)。無人でのチェックインやキッチン周りなどの付帯設備も特徴のひとつ
規制が、市場の「地図」を書き換えている
今回の観光庁の方針は、突然の出来事ではありません。都市圏では、規制の波がすでに動いています。渋谷区では住居地域での営業日数を、民泊新法で設定されている年間180日から60日程度に制限する案が検討されています。また、墨田区・江東区・台東区といった都内の東部エリアでも、管理体制の厳格化や営業日数制限の条例改正が予定されています。
一方で、地方はどうでしょうか。都市部のような住宅密集地での「民泊」とは少し受け止め方が違います。過疎化が進む農村地域や、空き家問題を抱える観光地では、民泊を「地域の課題解決の手段」として積極的に活用しようという動きが強まっています。規制が強まる都市部と、誘致に動く地方——制度という視点から見ると、民泊市場の「地図」は今、大きく塗り替えられようとしているのです。
ふるいにかけられる時代の「勝ち残り」条件
もうひとつ、見逃せない動きがあります。観光庁は、無届けで営業する違法民泊を予約サイトから排除するシステムを早期に運用開始する方針を打ち出しています。民泊新法・特区民泊・旅館業法という異なる制度ごとにバラバラだったデータを一元化し、Airbnbなどのオンラインプラットフォームと連携して違法物件を締め出す仕組みです。
これは、グレーゾーンで生き延びてきた施設にとっては致命的。しかし同時に——適法に、誠実に運営してきた施設にとっては、競争環境が健全化するという側面でもあります。「安く出せばいい」「多く出せばいい」という発想の施設が市場から退出していくことで、本当に質の高い民泊が評価される土台が整っていくのです。
これからの時代に選ばれ続ける民泊には、どんな条件があるのか。まず挙げられるのは、地域との共生です。「観光客を泊める場所」としての機能だけでなく、近隣住民の生活環境を守る視点がなければ、今後の規制の波にさらされるリスクが高まります。ルール順守・近隣配慮・清掃品質・緊急対応体制——こうした「基礎体力」が整った施設ほど、規制が強まる環境の中で相対的に有利になります。
次に、都市集中からの脱却です。大都市の住宅地では規制圧力が一段と増す中、地方の観光地や自然豊かなエリアには「規制が厳しくなく、競合が過度になく、中長期滞在ニーズに応えられる」という三重の優位性があります。分散型観光の受け皿としての地方民泊への期待は、政策的にも高まっています。そして、空き家という資源との組み合わせです。全国に約900万戸存在する空き家は、新築投資に比べて初期コストを抑えられ、かつ地域に溶け込んだ「文脈のある場所」として旅行者に選ばれやすい。単なる部屋ではなく、その土地の記憶や物語を宿した滞在体験——そこに、これからの民泊が生み出せる価値があるのではないでしょうか。
規制の時代だからこそ、問われる「本物の運営」
規制強化というニュースは、ともすれば「民泊の冬」の到来のようにも受け取れます。しかし見方を変えれば、それは「本物の民泊がようやく評価される時代」に入ったということ。数を競う時代は終わり、地域に根ざした質の高い一施設が問われているのです。
エンジョイワークスが開業や運営サポートに携っている施設が多い鎌倉・葉山・逗子エリアは、そのまさに最前線にあります。都市部ほど規制圧力は強くないものの、観光地としての需要と閑静な住宅地としての住環境が交差するこのエリア。実際に、地元自治体では規制強化を求める動きもあります。私たちが今春、別府で開業した「TOJIHAUS」もそのうち1棟が民泊施設ですが、別府市を含む大分県では、民泊を含む宿泊施設に「宿泊税」を課税する方向で検討が進んでいます。これは観光施策の財源となるだけでなく、見方を変えれば「きちんとやっている施設が報われる環境づくり」の一環です。
エンジョイワークスの関連会社、場の運営や開業を手掛けるグッドネイバーズウェブサイト
https://good-neighbors.link/

私たちの運営する宿泊施設は、空き家や空き物件の活用手段という位置付け。運営の現場では社員やアルバイトが奔走しています
各地の条例や制度の変化を正確に把握し、地域とともに歩む運営を続けること。それが、これからの民泊が生き残るための、最も確かな道筋なのではないでしょうか。開業の判断から日々の運営まで——複雑化する制度と地域ごとの現場感覚の両方を踏まえたサポートが、これからの民泊にはますます必要に。私たちエンジョイワークスは、ひきつづき、その伴走役でありたいと考えています。
2026/07/07
2026/07/07