まちというのは、そこに長く住んでいる人だけで構成されていくものではありません。外からやって来た人の暮らしや滞在が複層的に重なって、少しずつその表情を変える。ヨソモノがウチモノに混じり合っていく。エンジョイワークスが別府で展開する「TOJIHAUS」は、空き家を湯治文化のある温泉地ならではの中長期滞在拠点として再生し、点在する宿がまち全体の機能を取り戻していく——「点から面へ」という考え方のもとに進められているプロジェクトです。今回は、その現地担当として今年1月に湘南から別府へ移住し、開発から運営までを一手に担う事業企画部の藤川結華に、これまでの歩みと今の暮らしについて、遠隔インタビュー。
(聞き手:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)
——「別府×TOJIHAUS」のプロジェクトが本格始動したのは昨年秋ごろですが、プロデューサーとして現地に赴任した経緯を教えてください
昨年の4月頃だったでしょうか。突然、福田さん(エンジョイワークス代表)に「ふじこ、別府行く?」と言われたのが、自分にとってのはじまり(*「ふじこ」とは苗字由来の社内での愛称)。びっくりしたというか、「別府ですか!?」という感じでした。もともと、建築(設計)の大学と大学院出身で、前職は一棟まるごとリノベーションを手がけている会社。設計だけでなく企画から施工まで一気通貫の仕事に携わっていました。その中でたまたまエンジョイの仕事を知って、「もっと面白い会社があるな」と思って。会社説明会に参加したのですが、事業企画部と設計部、両方の業務内容を聞いて、どちらかというと(事業企画部の)プロデューサーを志望していました。社内事情的に設計部が人材を必要としていたようで、「設計をやってからプロデューサーっていう道はあると思うよ」と、うまく誘導されて、設計で入社したという経緯がありました。
別府の話を聞いた当時は、事業企画部と設計部横断の「エンジョイヴィレッジ」のチームでスケルトンハウスの設計を担当していました。もともとプロデューサー業をやりたくてエンジョイワークスに入社したわけですが、かれこれ4年近く設計業務がメインとなっていて、「湘南エリアでAP(アシスタントプロデューサー)から改めてスタートするというのも、自分の中であまりイメージがつかないな」と思っていたタイミング。新しいプロジェクトを新しい土地でやるというのは一つのチャンスかな、ご指名いただいたからには楽しくやりたい、と思いました。
——実際にプロジェクトが動き出してから、どのように進んでいったのでしょうか
その話が舞い込んできてすぐ、昨年5月ごろに福田さんや川辺さん(エンジョイワークス業務パートナーの建築家、川辺直哉さん)と一緒に別府へ出張しました。すでに「TOJIHAUS」という名称や「100棟やるぞ」という構想も出ていて、その視察だったのです。そこではとにかく、空き家の物件を数多く見て回りました。その後しばらくは鎌倉を拠点に事前準備を進めました。まず市場にある物件の価格や条件をひとつひとつ洗い出すところから着手。「TOJIHAUS」に適した空き家をさまざまな角度で点数化できるよう「チャート」を作成しました。地場の温泉(公衆浴場)への近さや立地、アクセス、建物状態といった項目を見える化。一定基準にあるかどうかだけでなく、尖った特徴も見ていくと面白いなと。具体的な物件が決まってからは設計・工事、開業準備までをフルスピードで進めました。
工事の途中で別府に移住したので、現地ではいきなり本格稼働となりました。施工の監理や開業準備、開業後の備品の買い足しなど、細かい対応に追われるスピード感。宿運営の開業なので、GN(エンジョイワークスの関連会社グッドネイバーズ)のスタッフにも別府まで出張してもらって、まさに「いろは」を教えてもらいながら、です。設計して開業して業務が終わり、ではなくて、清掃アルバイトの面接や手配のサポート、宿泊前のチェックなど、「私、何屋さんだっけ」と思ったり。アルバイトの都合がつかなくて、週に何回か清掃に入ることもあったのですが、正直、自分には向いていないなと思いました(笑)。ただ、自分以外にできる人はいないし、もちろん丁寧にやってゲストを迎えたいので、やるしかないなと。ちょっと憂鬱になった時もありましたけど。同時に、現地のことは全部自分が引き受けるということは認識していましたが、「全部」の範囲が想像できていなかったとハッとしました。

「TOJIHAUS」候補物件の内覧やまちのポテンシャル探し、運営施設の案内や営業、そして設計に関する管理までフル回転の藤川。写真右下は、宿泊運営や発信などでサポートするエンジョイワークススタッフたち
◾️TOJIHAUSウェブサイト https://tojihaus.jp/
——移住という大きな選択について、自分ではどう感じていましたか
TOJIHAUSのプロジェクトを任されて、この業務に専念し始めたのは昨年の秋頃なのですが、実際に移住したのは今年1月半ば。その期間、気持ちはもう向こうに置いてあるし、現地で動きたいのに体はこちらにある、というのがすごくもどかしかったですね。
九州はそれまで縁のない土地だったんですけど、自分としては、そもそも「場所」にこだわりがなくて。名古屋出身なのですが、学生時代は大阪、そして転職して関東へ。あちこち行ったり来たりしていたのと、自分で選んで別府に行くことはないと思ったので、こういう土地との出会いもいい機会かなと思いました。周囲からは、「え、別府!?」「本当に住むの?」という反応が多かったです。ランニング仲間からは、別府と聞いて「別大マラソンがあるよね」と言われたり。名古屋の母はちょっとショックを受けていたようで、「遠くなる」って。関東との距離はともかく、行き来の時間はそんなに変わらないんですけどね。自分としては、旅行でも訪れたことのない初めての場所ではあったのですが、意外とポジティブに受け止めていました。
初めて別府を訪れた時は、車で目的地を巡って、空き家をどんどん見ていくだけだったので、あまり「まち」や「暮らし」に触れることはなかったのですが、印象として、いろんなものが混じり合った「濃そうなまち」だなとは思いました。実際に暮らし始めた今も、その印象はあまり変わらないです。やっぱり「濃いまち」だなと思います。
実は、001と002(1棟目・2棟目)の作業中、別府で自分の住まいのリノベーションも同時並行で進めていました。築40年くらいのマンションです。設計の仕事を長くやってきて、一度は自分が手がけた家に住んでみたいというのはずっとありました。今回、その機会にはなったんですけど、年末年始の1週間でフルスピードに設計したのと、自分の家のリノベなのに、全然現場を見ていなくて。もうちょっと気合を入れてやればよかったなとは思っています。ただ、リノベは終わることがないので、住みながら手を入れていくというところですね。

今春開業したTOJIHAUS001と002の2棟。3棟目の「003」は7月半ばに開業予定
——今はどんな業務を担当されていますか
現在の業務は、運営のサポートに加えて、新しい対象物件(空き家)の発掘、鉄輪の旧旅館再生、そして「TOJIHAUS」の拠点となるセンターハウス(仮称)の準備と、多岐にわたります。現地に自分一人しかいないので、本当に「なんでも屋」にならないといけないなと思っていて。不動産を見て回ったり、工事の現場確認をしたり、清掃もやるし、DIYもやるし、虫と戦うこともあるし、草むしりもしています。それもひっくるめて、TOJIHAUSの「プロデューサー」なのだなと。ただ、やることのインパクトとか、「面的再生」の意義は分かっているので、そこにどこまで自分が貢献できるかな、というのは常に考えています。
——別府でのこれからの楽しみや挑戦は
特に楽しみにしているのが、先日、補助金が採択されたセンターハウスのプロジェクトです。今の宿は無人チェックインなので、宿泊者の方と直接お話しする機会はほとんどありません。別府のまちなかに、TOJIHAUSの案内所というか、センターハウスという「場」ができることで、これまでと違う展開になるかなと思って楽しみにしています。どういう場所が作れるかは、まだ全然見えていないんですけど。ただ、TOJIHAUSに泊まりに来た人、観光客、地元の人たち、そして私たちが混じり合うことができると、より「面」の広がりが深まると思っています。
そうした展開を進めていくうえで欠かせないのが、地域の方々との関係づくりです。プロデューサーとしては、日々の出会いがまさに営業活動なのですが、新しい人とのコミュニケーションには、今でも少しハードルを感じます。ちょっとだけ人見知りになってしまうところもあって。まだまだ足りないなと思うんですけど、その一方で、「チャレンジ精神」は旺盛なので、そこも含めて楽しみながらやっていきたいです。
——別府での暮らしについて、湘南との違いは感じますか
「食べること」が好きなのですが、まず驚いたのが、スーパーに魚が丸々1匹並んでいたことでしょうか。お刺身も新鮮で種類も豊富。これが地元の人には当たり前なのだと思うと、その豊かさや新鮮さは、外から来た者にとっては大きなポテンシャルです。最近のお気に入りは、とり天。会社の人にも遊びに(仕事に)来てもらって、案内したいです。
そして私のこのまちの印象は「濃い」だけでなく「温かい人が多い」ところ。関西ほど(人との)距離が近いわけではなくて、でも気遣いを感じるエピソードがいくつかあります。ある日、宿泊者用に整備していたトゥクトゥクのバッテリーが移動中に上がってしまって道路脇で困っていたとき、近くの方が声をかけて自分の敷地に停めさせてくれて。別の日には、温泉組合長さんが停めてあったトゥクトゥクのパンクに気づいて、わざわざ電話をかけてくれたり。そうやって何かあるとすぐ声をかけてくれる、良い意味での「おせっかい」というか。隣の人は何する人ぞ、ではなくて、気にかけてくれる雰囲気があるなと。そんなまちの空気感が心地よいなと思っています。
仕事以外の時間は、ランニングや温泉も楽しんでいます。鎌倉の海沿いはアップダウンがあるんですけど、別府は海沿いが平坦でとても走りやすい。大学時代に運動不足を感じて時々走るようになり、社会人になってからも月1回くらいは続けていました。本格的に走り始めたのは2024年の秋頃からです。湘南で暮らす中で葉山の環境が走らせてくれたところもあるかもしれません。いまは、ランニングしながら、まちを知るといった感じ。散歩も好きで、お気に入りの場所は別府公園。自宅のリノベが終わるまで仮住まいしていた場所がこの公園に近かったので、よく散歩していましたよ。
——最後に、このプロジェクトの中での、ご自身にとっての意味や意義は
「プロデューサー業」としての専業は実際のところ初めてで、そこは自分にとって本当に大きい挑戦です。もともとプロデューサーをやりたくてエンジョイワークスに入って、ようやくその機会が巡ってきた、という感覚もあります。別府という新しい地で事業を作っていくことを、いろんな人にサポートしてもらいながら、現地担当として軌道に乗せていく。その過程で、設計や工事だけでなく、運営や清掃、開業準備まで、いろんなことを自分でやらざるを得なかったんですが、それも含めて、プロデューサーとして必要な経験値が積み上がっていると感じています。センターハウスのプロジェクトも、自分にとってのエンジンになっていきそうな予感があります。こうした経験を積み重ねながら、TOJIHAUSとともに成長していきたいですね。
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点として始まった拠点が、やがて面としてまちに広がっていくとき、そこには移り住んだ人と迎え入れた人たちとの、小さなやり取りの蓄積があるのだと感じました。藤川さんが見つけていく別府の「お気に入りの場所」が、これからどんな景色につながっていくのか——センターハウスの完成とともに、また聞いてみたいと思いました。
エンジョイワークスでは、別府で「TOJIHAUSを通じたまちづくり」に挑戦したい人を募っています。7/12(日)に別府市内で説明会を開催。詳細はこちら
2026/07/07
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