「コンパクトシティ」というワードを耳にしたことはありますか? 文字通り「コンパクト」な「まち」。住まいや医療・福祉・商業施設、公共交通などの都市機能を一定のエリアに集約し、効率よく持続可能な暮らしを維持していこうという都市政策の考え方です。国は2014年、その実行プランとして「立地適正化計画」という制度をつくりました。市町村が「居住誘導区域」「都市機能誘導区域」を定め、その内側に人や施設をゆるやかに誘導していく。これが基本的な仕組みです。
◾️国土交通省ウェブサイト「コンパクトなまちづくりについて」
https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tk1_000016.html
◾️実践自治体の事例紹介
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h26/hakusho/h27/html/n1222000.html
背景にあるのは、人口減少と高齢化。市街地が郊外へと拡散したまま人口が減っていくと、商業・医療・公共交通といった生活サービスを維持するための「密度」が保てなくなる。まるでスポンジのように、まちのあちこちに使われない土地や空き家がぽつぽつと空いていく。この現象は「都市のスポンジ化」と呼ばれています。コンパクトシティは、この虫食い状の低密度化に対する処方箋として掲げられている政策なのです。
集約の可能性と課題
集約のメリットは確かに分かりやすいかもしれません。生活サービスへのアクセスがよくなり、公共交通や上下水道といったインフラの維持コストを抑えられる。医療や福祉、子育て支援といったサービスも、一定の人口密度があってこそ効率的に提供できます。
ただ、現状の住環境の延長線では課題もあります。「コンパクト」に集中した一方の郊外では、暮らしの選択肢に差が生まれてしまう点です。生活利便施設が徐々に区域内へ集約されていくなかで、交通網の撤退や学校の統合なども起こりえます。また、駅前などのエリアは地価が上がりやすく、そこに住み替えること自体のハードルが上がるという側面も指摘されています。
この課題の表れ方は、地方都市と首都圏郊外とでかなり様相が異なります。地方都市では、人口減少そのものが深刻で、生活サービスの撤退や公共交通の縮小といった「まちの機能が消えていく危機感」が政策の出発点。一方、首都圏郊外、とりわけ高度経済成長期に大量供給された住宅団地やニュータウンでは、人口はまだ一定数いるものの、同じ世代が一斉に高齢化し、地域の中で急激な偏りが生まれているのが特徴です。「人がいない」地方と、「同じ世代に偏っている」郊外。同じコンパクトシティ政策のなかでも、向き合う課題の性質はまったく違います。

路面電車などの公共交通を軸に、住まいや都市機能の集約を進める富山市。人口減少や高齢化を見据えた、コンパクトシティの代表的な事例です
空き家・空き店舗の可能性
ここで、空き家や空き店舗の話につながってきます。立地適正化計画のなかで、既存市街地にすでに存在する空き家・空き店舗は、実は「新しく何かをつくる」よりもずっと合理的な選択肢として位置づけられています。居住誘導区域や都市機能誘導区域は、多くの場合すでに市街地が形成されているエリアと重なっており、そこにある空き家・空き店舗を活用することは、まさに区域内の人口密度・機能密度を底上げしていきます。新しく造成地を開発して郊外に人を呼ぶのではなく、すでにある建物・すでにあるインフラを生かして人を呼び戻す。これはコンパクトシティが目指す方向性と相性がいいと考えます。
空き店舗の活用も同様。近隣のショッピングセンターやまちなかの商店街に空いたままの区画があると、そこだけ人の流れが途切れ、まちの回遊性が損なわれます。逆にそこに小さな商いや居場所が生まれれば、区域内の「歩いて楽しいまち」としての価値が底上げされます。空き家・空き店舗の活用は、単なる不動産の問題ではなく、まちの密度をどう保つかという、都市政策の一部でもあるのです。
すでに全国で動き出している実践
例えば奈良県生駒市。私たちが手がける「いこみなチャレンジ」は、近鉄生駒駅南口エリアの空き家・空き店舗を舞台に、地域への想いを持つ人材そのものを発掘し、専門家が伴走しながら育成していく官民連携プログラム。すでに実績のある事業者を募集するのではなく、アイデアの種を持つ人を掘り起こすという発想の転換によって、新しい担い手がエリアに根づいていく。これは単に「空き物件が埋まる」以上の意味を持ちます。
和歌山県紀の川市でも、似た構造の取り組みが続いています。私たちが4年ほど前から関わってきたこの地域では、旧旅館をリノベーションした「紀の川三笠館」を拠点に地域活性化を進めてきました。そして直近では「FRUITS STREET KOKAWA LAB」として、地域最大の資源であるフルーツを軸に、エリア全体を再編集するプロジェクトへと発展しています。単なる施設の運営にとどまらず、商店街の回遊性や地元の生活動線まで視野に入れながら、既存の建物と地域資源を組み合わせて日常そのものを「編み直し」ていく——これも、既存市街地の密度をどう底上げするかという問いへの、一つの実践的な答えです。

上段が「いこみなチャレンジ」、下段が「FRUITS STREET KOKAWA LAB」の様子。現地での学びや対話を重ねながら、人と地域資源をつなぎ、まちの次の動きを育んでいます
こうした動きは、全国各地に広がっています。静岡県三島市では、私たちがサポートする形で、地元の建設会社が中心市街地の空き物件を掘り起こし、テナントや事業者の誘致・育成を続ける「みしますきー」というプログラムは、スタートして3年目が動き出しています。栃木県鹿沼市では、東武新鹿沼駅前活性化協議会と私たちが手がけた空き家活用アイデアコンテスト「かぬまるコンテスト」に、25組ものチャレンジャーが集まり、駅前に点在する“使いにくい”空き物件の活用案をプレゼンテーションしました。
いずれの事例にも共通しているのは、「この空き家・空き店舗をどう活かすか」という一つひとつの問いが、実は「まちの機能密度をどう保つか」という制度全体の問いと、地続きだということです。制度は「区域」や「誘導」といった大きな言葉で語られますが、実際にそれを動かしているのは、一室一室の空き家、一店舗一店舗の空き店舗に向き合う地道な取り組み。大きな制度の中に、目の前のプロジェクトがどう接続しているのか。その視点を持つことは、個別の取り組みの意味を、もう一段大きな文脈で捉え直すことにつながると思います。
奈良県生駒市「いこみなチャレンジ」
https://ikomina-challenge.jp/
「いこみなチャレンジ」から先日カレー屋さんがオープンしました
https://www.instagram.com/spice_curry_hozan/
和歌山県紀の川市「FRUITS STREET KOKAWA LAB」
https://mikasakan.com/ja/fluits-lab/
静岡県三島市「みしますきー」
https://mishimaskii.com/
栃木県鹿沼市「かぬまるコンテスト」
https://enjoyworks.jp/kanuma/