10月最初の日曜日。陽が落ちて見上げた紺碧の空。雲の切れ間から、まあるい月がそっと顔をのぞかせていました。月見台の「お月見」そのままの光景です。これは去年の「月見祭」でのこと。ジャズライブに上地克明・横須賀市長の熱唱、そして餅つき……。一昨年にこの場所の再生プロジェクトが始まって以来、いちばんの賑わいとなった一日でした。
あれから1年。2年目を迎えた月見台の秋の節目の日、昨年よりパワーアップしたお祭り「月見祭2026 BONBON TSUKIMIDAI」を10月24日・25日に、開催しました。前日の特別企画を含めた2.5日間をレポートします。
この1年は「まちを育てる」時間
その前に、この1年間の「月見台住宅*」にどんな歩みがあったのか。ひと言で表すなら「まちを育てる期間」でした。1年前の月見台は、初めて訪れる人にとって少しだけ「迷路」でした。目当てのお店はどの棟なのか、今日は開いているのか。年季の入った外壁では住戸番号も読み取りにくく、迷ってしまう方も少なくありませんでした。
まちを開いたからこそ見えてきた、こうした小さな「こうだったらな」。私たちは住民の皆さんと話し合いを重ね、ひとつずつほどいていきました。この1年で月見台に増えたものーそれは、たくさんの「目印」。海風が抜ける「SEABREEZE STREET」、夕日が見える「SUNSET STREET」。住民の皆さんと一緒に考えた通りの名前です。D棟の壁面には大きなマップ、ふたつの通りをつなぐ新しい階段、そしてこの夏にくっきりと塗り直された住戸番号。どれも派手な変化ではありませんが、初めての人が迷わず歩けるように、暮らす人がまちを誇れるように、重ねてきたものです。エンジョイワークスのスタッフによる草刈りなど地道な手入れも重ね、迷路だったまちは、歩くほどに発見のある場所へと変わりつつあります。

住民との対話からアップデートしてきた月見台住宅*。初めて訪れる人も歩きやすいまちを育てています
◼︎ひらかれたまちへ、一歩ずつ——月見台住宅、開業から1年の歩み
https://enjoyworks.jp/times/322/
裏テーマは”ディギング”——歩いて、聞いて、田浦の記憶を掘り起こす
今年のお祭りタイトルは「BONBON TSUKIMIDAI」。その名の通り、盆踊りをクライマックスに持ってきたお祭りでしたが、実は裏に流れるテーマは「ディギング」。少し耳慣れない言葉かもしれませんが、「ディグ」とは深掘りするという意味です。月見台に来て終わりではなく、このまち「横須賀・田浦」をもっと知ってほしい。奥深い歴史や人にハマってほしい。そんな思いを込めました。
月見台住宅*の最寄り、JR横須賀線の田浦駅周辺は、かつて軍港・海軍の要衝として栄えた地域です。本祭前日の10月23日に特別企画として実施したのが「田浦近代化遺産ディギングツアー」。戦前に建てられ、今も約20棟が残る旧海軍軍需部の長浦レンガ倉庫群内部と、海上自衛隊第2術科学校の資料室を、横須賀市自然・人文博物館の学芸員の解説とともに巡りました。普段は立ち入ることのできない場所に足を踏み入れる、貴重な機会。翌24日は、横須賀線の引込線やレンガ倉庫のまちなみ、トンネルをたどり、月見台住宅*へと歩くルート。どちらの日も、まちそのものが教材になりました。
24日の夕方には、集会所で歴史レクチャー「DO YOU KNOW 小栗上野介忠順?」も。来年のNHK大河ドラマ「逆賊の幕臣」の主人公・小栗上野介が横須賀で活躍した幕末から明治にかけて、田浦もまた激動の地でした。ツアーと同様、学芸員の解説に聞き入る、貴重な時間となりました。

23日・24日の2日間実施されたディギングツアーは両日ともに定員を上回る参加申込みが!「横須賀・田浦の歴史を改めて振り返れて有意義な時間でした」ーそんな感想も
2日間を通して、入居者の工房や店舗によるワークショップも。汐小商のフラワーピックづくり、TSUKIMIDAI SPAのアロマワークショップ、ハーブと発酵のお店 木花のクラフトコーラづくり、platform3のレザークラフト、切子工房 楽のパステル画、元亨利貞JAPANの古着カスタム、月だいたい八日での草山歩さんによる「地元の推し」を描き込む公開制作、そしてコーンホール体験会。それぞれの「なりわい」に、来場者が手を動かしながら触れられるプログラム。さまざまな「得意分野」のある入居者が集まっている姿を、改めて感じることができました。

あいにくの雨でしたが、2日間で300名以上の方にご来場いただきました
盆踊りに獅子舞、お囃子も
両日とも雨模様だったため、当初予定していたHARAPPAでの獅子舞や盆踊り(ぼんダンス)は集会所で。田浦・月見台で盆踊りが行われるのは約30年ぶりとのことで、事前の練習会から提灯の提供まで、地元の方々に協力いただき実現しました。お囃子の和笛や太鼓が響く月見台のまち。田浦木遣り囃子保存会の小中学生も参加してくれており、地域で続く文化を知ってもらう機会になったことも、ひとつの大きな「成果」だったと感じています。
ぼんダンスには横須賀市の上地市長も飛び入り参加。「(出身の)隣町・吉倉のお囃子と同じリズムなんです」と顔をほころばせながら、「月見台の取り組みを進めていく中で、ここは素晴らしい場所になる、という確信がありました。多くの人が出会う場として、新しい地域の未来を育てていく。そんな夢が形になっている。さらに1年、3年、10年、100年と続いていけるよう、一緒に育んでいきたい」と語りました。

雨天のため室内での実施となった獅子舞や盆踊り。狭い空間だからこそ、より臨場感のある密度の濃い空間になりました(右上写真の中央が上地市長)
“ディグ”の途中に、月見台という「居場所」を
かつて地域の暮らしを支えた市営住宅に、いまは、小さななりわいの灯りがともっています。月見台は、完成したまちではありません。訪れる人が歩き、知り、また足を伸ばす。そのたびに、このまちは少しずつ表情を変えていきます。住む人と訪れる人、地域の人、さまざまな「関わりある人」が一緒に育てていくこと。それこそが、このまちの姿だと思っています。
田浦のまちを掘り下げていくと、軍港の歴史、受け継がれてきた祭り、そしてこの土地で暮らし、営む人たちに出会えます。横須賀は、知れば知るほど奥行きがあり、まちのDNAに出会えるまちです。このお祭りをきっかけに、もっと深く田浦を、横須賀をディグしてほしい。そんな思いを込めた2.5日間でした。その途中には、月見台住宅*という古くて新しい「居場所」がある。未来につながる再発見に出会える場所であり続けたい——そう願っています。
*月見祭開催にご協力いただいた、月見台住宅入居者、田浦町1丁目自治会、田浦木遣り囃子保存会、横須賀民謡普及会の皆さん、横須賀市自然・人文博物館学芸員の亀井泰治さん、横須賀市役所の皆さん、そして、雨天で足元の悪い時間もある中、ご来場いただいた皆さん、ありがとうございました。季節によって色づきや景色も変わる月見台へ。また皆さんと出会えることを楽しみにしています。

10月なのでスタッフは仮装でお出迎え。黄色いのは、バナナではなく…月見台の「月」でした!
◾️月見台住宅*ウェブサイト https://tsukimidai.com/
◾️月見台住宅*Instagram https://www.instagram.com/tsukimidai_yokosuka/