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別府の価値は「人」と「おすそ分け」…BEPPU共創FORUMで語られたこと

Report 公開日:2026/10/13

空き家は、本当に地域の資産になるのか。大分県別府市でも住宅の2割強が空き家・空き室だという統計があります。多くは「負動産」として語られてしまうなかで、私たちがこのまちで実践しているのは、その空き家に湯治の文化を掛け合わせ、“中長期滞在”という新しい価値を生みだすこと。とはいえ、宿を一軒つくるだけでは、まちは変わりません。空き家から生まれた価値を、どうすれば地域に還元できるのか。その問いを、別府で暮らす人、まちを支える人、お金の流れを知る人と一緒に考えたい。そんな思いから10月3日に別府市内で開いたのが「BEPPU共創FORUM 2026」です。

テーマは、「空き家を資産に、地域にお金を」。登壇したのは、別府市の長野恭紘市長、共催の株式会社別大興産代表取締役社長の伊勢戸啓司さん、日本銀行金融機構局上席考査役(前大分支店長)の安德久仁理さん、日本航空株式会社大分支店長の小田和彦さん、株式会社ドーガン代表取締役の森大介さん、ベータ・ベンチャーキャピタル株式会社代表取締役パートナーの林龍平さん、そして当社代表取締役の福田和則。ファシリテーターは地域文化ブランディングプロデューサーの齊藤美絵さんです。約2時間、4つのセッションの様子をお届けします。

「正直、いいように使われるんじゃないかと」
最初のセッションは、伊勢戸さんの思いがけない告白から始まりました。福田から別府で空き家の宿をつくりたいと持ちかけられたとき、「正直、いいように使われるんじゃないかという匂いもした」。会場に笑いが広がりましたが、続けて投げかけたのは、不動産のプロとしての問いでした。「少し離れた築50年の、何年も誰も住んでいない家を、あなたは買いますか」。安く売れても、引き渡し後に雨漏りや不具合のクレーム対応に追われる。空き家が商売になりにくい現実を、地元で長く見てきたからこその言葉です。

これに対して福田がスクリーンに映したのが、TOJIHAUSの物件選定シート。「完全に業務資料ですね」と苦笑いしながら説明したのは、駅や学校への近さではなく、共同温泉まで徒歩2分以内なら10点、地元の食材が手に入るスーパーがあるか、といった採点基準です。10点満点で7点台なら相当な高評価。住むには不便でも、1週間ほど滞在したい人には、地域の暮らしに近いことこそが価値。春から稼働しているTOJIHAUSには、国内外の方が半々ほど訪れ、3泊以上の滞在も増えています。

フォーラムに先立ち、TOJIHAUSのオープンハウスを実施。再生の現場を見学し、空き家を活かすプロセスに触れていただきました

住宅地に「外の人」が泊まることへの不安には、「プロセスを開くこと」で向き合ってきたと福田は話します。事業の思いを伝え、完成したら見に来てもらう。すると「掃除があるなら手伝おうか」と声がかかり、普段は外部の人が入りにくい共同温泉も「そういう思いなら」と開いてもらえた。伊勢戸さんは「観光都市だから『旅人をねんごろに』が染みついている」と応じました。

そして伊勢戸さんが共感したのは、「外の人だからこそ見える別府の価値を、地域に戻したい」という姿勢だったといいます。県外資本のホテルが増えても、売上は本社のある場所へ流れていく。「同い年で同じ寅年、テニスもやるから一緒にやってくれたのかと思っていました」という福田に、「それも大きな要因でした」と返し、会場は再び笑いに包まれました。

「世界一の温泉があるから、世界一変な人が多い」
二つ目のセッションのテーマは、「みんなで別府の価値をつくる」。二拠点居住を実践し、今も毎月のように大分に通う安德さんは、別府の魅力を三つ挙げました。空襲を免れ、戦前の面影を残す路地の街並み。山に抱かれ、まちの輪郭がくっきりとしたコンパクトさ。そして人が行き交う活気です。長野市長も「2回目以降に来る人は、人に会いに来る。世界一の温泉資源があるから、世界一変な人が多いまち」と笑わせます。

小田さんは、一人旅のシンガポールの女性が地元の居酒屋で常連さんに声をかけられ、後日「別府の人たちが楽しそうにしていたことが最高の旅だった」と長いお礼のメールをくれたエピソードを紹介しました。体験に自分なりの解釈が加わったとき、それは「経験」になる。地元の人が自分の土地を好きでいることこそが、何よりの観光資源だといいます。

そして話題は、市内に約80か所ある共同温泉へ。財産は市が持ち、運営は地区が担う仕組みで、組合員が減ると修繕の積み立てもままならない。市がすべてを担えば地域の資産ではなくなってしまう。行政と地域の負担割合を「0.1ずつ探っている」という市長の言葉に、文化を守ることの重みがにじみました。

では、どんな観光が別府に合うのか。安德さんが提案したのは「おすそ分け観光」。一生懸命もてなして観光地として消費されるのではなく、暮らす人がまず自分たちの文化を楽しみ、それを「ちょっとつまんでいかんね」と分ける。海外の富裕層が求める「本物であること」「ここにしかないこと」「混んでいないこと」の三つを満たすのが、別府の共同温泉文化だと指摘しました。齊藤さんは、会場に来ていた在来芋の生産者や、明礬温泉で湯の花をつくる人を紹介し、その営みこそが価値なのだと結びました。

湯の花づくりも、ジモ泉も、別府の暮らしの一部。地域の人が親しむ温泉文化を、旅する人にも「おすそ分け」

ファンドは、なぜ怪しく見えるのか
「おすそ分け金融の話をします」。三つ目のセッションは、ファシリテーターを務めた福田のこんな一言で始まりました。なぜ空き家には融資がつきにくいのか。いまは銀行の検査に携わる安德さんは、「空き家は担保としての価値が見込みにくく、金融機関は『事業がどれだけ確実にお金を生むか』で判断するしかありません」と話します。しかも100万円を貸すのも1億円を貸すのも手間は同じ。だからこそ数を重ね、ポートフォリオとして示せれば見方は変わり得るーそう続けました。

九州で20年以上「金融の地産地消」を続けてきた森さんは、リターンの見通しをガラス張りで示すことの大切さを語り、「東京に行った若い人が、また帰ってこられる仕組みをつくりたい」と思いを明かしました。ご両親が別府出身だという林さんは、「目的が見えないファンドは怪しく見える。目的を語り、共感した人からお金を集めることが金融の核心」と話しました。

当日は、私たちがいま準備を進めている仕組みもご紹介しました。資金を先に集めておき、空き家が出てきたタイミングで取得・改修する。2〜3年きちんと運営し、空き家がお金を生む状態になってから、地域の方が少額から関われる形に移していく。目指すのは100棟以上。別府の空き家・空き室のおよそ1%にあたる規模です。1軒ずつの再生だけでは、まちは変わらない。数を重ねることで、事業として成り立つことを示していきたいと考えています。

立場や分野を越え、別府の未来を語り合う。それぞれの経験から、別府の可能性を探りました

「共創」で、点を面に
最後のセッションで安德さんが伝えたのは「お金と人の流れ」でした。お金は本来、人が幸せになるための道具であり、収益の生み方にも志のあるなしがある。志あるお金が事業に注がれ、その資産を地域のたくさんの人が少しずつ持てば、内と外の人が行き交う流れが生まれる、と。

長野市長が語ったのは、老朽化で撤去された商店街のアーケードの話です。住民にとっては、ここが課題であり誇りでもあった。空き家も同じで、問題であると同時に、誰かの愛着が詰まった場所です。「(アーケード撤去は)3年でできると思ったのに、10年かかった」。だからこそ、まちの意思と外から来た人の意思が重なることが大切——。市長からは、将来は県内各地の空き家を活用した宿泊施設を拠点に、1週間かけて大分を巡る湯治旅ができれば——そんなアイデアも飛び出しました。

会場からは、別府市のお隣、日出町の安部町長もマイクを握り、「変えてはいけないものを守りながら、共感してくれる人と一緒にまちを育てたい」と語りました。伊勢戸さんの「一見すると金儲けの話に見えるからこそ、『あいつらなら任せていい』と思ってもらえるところまで踏み込みたい」という言葉は、私たちへの宿題として受け止めています。

TOJIHAUSの棟番号が「001」から始まるのは、3桁までやり切るという意思の表れ。一軒の空き家から始まる話を、まちのお金の流れや暮らしの豊かさへ。その循環を、別府で出会うみなさんと一緒に育てていきます。

◾️TOJIHAUS ウェブサイト https://tojihaus.jp

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