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「蔵」を託された人たち。道後と鹿沼、まちに根ざす二人の挑戦

Column 公開日:2026/09/01

「泊まれる蔵」——The Bath & Bedは、全国各地に残る使われなくなった蔵を、大きなお風呂と大きなベッドを備えたミニマルな一棟貸しの宿へと再生するプロジェクトです。蔵ならではの静けさと非日常感を活かしながら、宿泊者を自然とまちへ送り出す。エンジョイワークスはそんな体験の場づくりを、2018年の葉山から続けてきました。地域の人たちと対話を積み重ね、自分たちの手で場をつくる。その後、小布施、佐久穂、立山と、私たちが運営をサポートしてきた4棟には、そうして培ってきたノウハウが息づいています。

◾️The Bath & Bed Team ウェブサイト https://bathandbed.team/

そして今、道後(愛媛県松山市:2024年6月開業)と鹿沼(栃木県鹿沼市:2025年7月開業)の2棟は、これまでとは違う一歩を踏み出しています。運営を、地元の事業者に託すという選択です。蔵は、もともとその土地のもの。湘南を拠点にする私たちが場をつくり続けるのではなく、「The Bath & Bed」の思いやコンセプトを守りつつ、その土地で日々を積み重ねてきた人に委ねる——そんな新しいフェーズが始まっています。

道後:スイーツと地域をつなぐ、橘さんの一手
道後の蔵を運営しているのは、株式会社Bluetoothの橘洋二さん。グループ会社で兄弟とケーキ屋、カフェ、パイ専門店、就労支援施設、不動産賃貸と、複数の顔を持って地域で事業を営んできました。ちょうど「ハロー!RENOVATION」で資金調達して立ち上げたソーシャルスイーツカフェを開業したばかりというタイミングで、蔵の運営に手を挙げてくれました。実は、宿泊施設を運営しようと物件を探していた際に出会った蔵。ここは、お風呂に大きな特徴が。道後とあって温泉の掛け流しも。室内のインテリアやお風呂に関するレビューも高評価とのこと。若者のグループから家族連れ、インバウンドまで、温泉×泊まれる蔵を楽しんでいただけているようです。このまちのポテンシャルの深さを改めて感じたという橘さん。この地域の住宅ストックと温泉を掛け合わせた新たな宿泊事業も頭に浮かんでいるようです。

伊予鉄道の道後温泉駅から徒歩6分。温泉街の情緒と歴史が息づく街並みに溶け込む蔵ホテル

鹿沼:一軒の空き家から始まった、風間さんの歩み
鹿沼では株式会社DANNAVISION代表の風間教司さんが、運営を手がけています。20代の頃、一軒の空き家から「日光珈琲」を立ちあげ、今では鹿沼市内に6店舗を構えている風間さん。マルシェの開催や起業相談、空き家相談を通じて、これまで30以上の開業を後押ししてきました。2020年には地元メンバーとともに、まちづくり会社のDANNAVISIONを設立。「仲間の輪をもっと拡げたい」という一貫した想いのもと、鹿沼という土地に向き合い続けてきた人です。ここは、母屋(風間さんたちが銀座通りで運営する、まちづくりの会員制コミュニティ拠点、kanuma commons)につながる蔵をリノベーションしたもの。大谷石の産地に近く、石造りのしっかりした蔵で、扉を開けると全く違う空間が。「まちと出会い、楽しむ宿泊施設はここ鹿沼と相性が非常に良いと思っています」。その言葉には、これまでの実践への手応えが滲んでいます。

◾️The Bath & Bed Kanuma Instagram https://www.instagram.com/the_bath_and_bed_kanuma/

鹿沼市の中心部「銀座通り」に佇む、木工のまち・鹿沼ならではの木の温もりと、モダンなデザインが調和した宿

二人に共通するもの
橘さんも、風間さんも「宿を運営したい」という思いだけで出発したわけではありません。すでにまちで積み重ねてきた自分の仕事——スイーツづくりであり、珈琲であり、開業支援であり、その延長線上に、蔵という新しい舞台が現れた。それが今回の運営移行の実像です。

これは、私たちにとっても新しい役割分担の形です。エンジョイワークスが担うのは、不動産の仕組みづくりとファンドによる資金調達、そしてブランドとインテリアデザインの一貫性。一方、日々の運営や滞在体験の設計、まちとの接点づくりは、その土地に根を張ってきた事業者に委ねていく。直営で場をつくり続けるだけでは、辿り着けない価値があります。もともと、それぞれの土地に根ざしてきた橘さんのスイーツも、風間さんの珈琲も、私たちが一から生み出せるものではありません。すでにそこにある信頼と人脈、そして本業としての実践——それこそが、蔵に新しい命を吹き込む力になるのだと思います。蔵という空間に、その土地でしか紡げないストーリーが重なっていく。それが「託す」ことの意味なのだと、二人の姿を見ていて感じます。

まちに、こういう人がいる
道後と鹿沼、離れた二つのまちで、それぞれ前を向いて歩んできた二人が、今、同じように「泊まれる蔵」という新しい場に挑んでいます。派手な立ち上げではなく、日々の仕事を積み重ねてきた延長にある、ごく自然な一歩。もしかしたら、あなたのまちにも、こんな風にまちと向き合い続けている人がいるかもしれません。The Bath & Bedが目指す100棟という数字の先にあるのは、こうした「託す」関係が全国のあちこちで生まれていくこと。橘さんと風間さんの挑戦は、そのはじまりの二つの事例です。

まちに根を張って歩んできた人たちが、これからも自分の仕事を通じて、まちを面白くしていく。私たちはその姿を、応援していきたいと思います。

蔵の再生を通じて生まれた経験やつながりが、次の担い手へと託され、新たな営みへとつながっていきます(写真はDIYワークショップや蔵の敷地内にある農園での収穫体験の様子)

◾️2つの蔵の再生に関する資金は、エンジョイワークスの「ハロー! RENOVATION」で調達しました。
(ファンド募集時のWebページ)https://hello-renovation.jp/renovations/21654

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