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夏休みに考える…「家じまい元年」から一年——大相続時代の入り口で

Report 公開日:2026/08/18

首都圏の郊外を歩いていると、ふと気づく光景があります。かつて一区画ごとにゆったりとした庭付きの家が並んでいたはずの住宅団地で、いつの間にか一つの敷地が二つ、三つに区切られ、そこに真新しい建売住宅が肩を寄せ合うように建っている——そんな風景です。多くの場合、その背景にあるのは相続です。親の代が建てた家と土地を、子の世代が受け継ぐ。けれど住む予定はなく、遠方に暮らしていることも多い。結局、土地を売却するという判断に落ち着き、それを買い取った事業者が敷地を細かく分割し、新築を建てて販売していく——という流れです。

これ自体は、土地を有効活用するひとつの合理的な手段には違いありません。ただ、その光景を目にするたびに、ある問いが浮かびます。「売却する」以外に、道はなかったのだろうか、と。住み継ぐ、貸し出す、地域に開く、といった手放す前に検討できたはずの選択肢は、本当になかったのか。それは、いつか自分自身が相続する側になったとき、避けて通れない問いでもあります。

昨年、2025年は、こうした問いが社会全体で顕在化し始めた年でもありました。住宅・不動産情報サイトLIFULL HOME’Sが発表した年間トレンド予測ワードのひとつに上がっていたのが、「家じまい元年」というキーワード。「家じまい」とは、親から受け継いだ実家や、住む人のいなくなった家を、どう手放し、どう整理していくかという営みを指すのですが、似た響きの「墓じまい」同様、モノや場所との関係を、次の世代がどう終わらせ、あるいは引き継いでいくかという問いを含んでいます。

◾️(参考記事)2025年“家じまい元年”「相続」が理由の売却査定の実態をLIFULL HOME’Sが調査
https://lifull.com/news/40522/

この言葉が2025年に「元年」として語られた背景には、団塊の世代(1947〜49年生まれ)が全員75歳以上の後期高齢者となったという、ひとつの世代交代の節目があります。住まいという資産が一斉に次の世代へと引き継がれていく。いわゆる「大相続時代」が本格的に始まる、という文脈でこの言葉は使われました。

そして、その相続を実際に受け止めることになるのが、その子ども世代にあたる団塊ジュニアと言われる年齢層の人たち。自分自身の暮らしや仕事がある中で、遠方の実家や、思い出はあるけれど使い道のない家と、どう向き合うか。冒頭の郊外の風景も、まさにこの世代交代の縮図と言えるかもしれません。多くの人にとって、これは決して「他人事」ではないテーマになりつつあります。

家じまいと相続に、実際どう向き合うか
相続した家をめぐる悩みは、たいてい似た形をしています。すぐに使う予定はないが、売るのも忍びない。遠方に住んでいて管理に手が回らない。兄弟姉妹の間で意見がまとまらない。そうしているうちに、判断を先送りにしたまま数年が経つ、というのは、決して珍しい話ではありません。

こうした状況に備えるためにできることとしては、まず、所有者が元気なうちに家族で話し合っておくことが挙げられます。誰が引き継ぐのか、住むのか、貸すのか、手放すのか。判断を相続発生後に持ち越さないことが、後の負担を大きく減らします。また、空き家バンクや空き家活用の中間支援組織など、地域に根ざした相談窓口を早めに知っておくことも、いざという時の選択肢を広げてくれます。

リノベーションして宿泊施設として再生した平野邸(神奈川県葉山町)、TOJIHAUS(大分県別府市)

これまで、相続した古い家をどうするかという場面では、「とりあえず解体して更地にする」という判断が、ひとつの定番のように選ばれてきました。更地の方が売りやすい、管理の手間がかからない、というのがその理由です。冒頭の郊外の風景も、突き詰めれば同じ発想の延長線上にあります。

けれど、実際には、更地にすることで固定資産税の住宅用地特例が外れ、税負担がかえって重くなるケースが少なくありません。加えて、更地にしたからといって必ずしもすぐ売れるとは限らず、買い手が見つからないまま、より重い税金を払い続けることになる——という事態も起こり得ます。「だから空き家のまま置いておく」という判断も生じているのも、また別の社会課題として発生しているわけですが、いずれにしても「とりあえず更地に、そして売却へ」という判断は、必ずしも合理的とは言えない場面が増えてきているのです。

住宅ストックを活かすという、第三の選択肢
「売却するか、そのまま放置するか」の二択ではない道が、少しずつ広がりを見せています。既存の建物を活かしたまま、賃貸として流通させる。リノベーションを施して、新しい住まい手や使い道を見つける。あるいは、民泊や地域の交流拠点として、住まい以外のかたちで場を再生する——建築費の高騰を背景に、新築より既存建物の活用に注目が集まる今の不動産市況とも、この流れは重なります。

それは、家を「終わらせる」のではなく、次の使い手へと「引き継ぐ」という発想の転換でもあります。大相続時代という、避けられない大きな流れの中で、家じまいが「喪失」ではなく「継承」として語られる——冒頭で見た郊外の風景も、いつか違うかたちに変わっていくのかもしれません。そんな兆しが、住宅ストック活用のトレンドの中に見え始めています。

◼︎ストック再生に関するエンジョイワークス代表・福田のインタビュー記事(2026/1/6公開)
https://enjoyworks.jp/times/253/

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