突然ですが、20年少しから始まった中学校での新しいカリキュラム、「総合的な学習の時間」を知っていますか?教科の枠を超えた探究的な学びを通じて、自ら課題を見つけ、情報を集め、整理・分析し、まとめ・表現する力を育む取り組みです。この7月、葉山町立南郷中学校で開かれた3年生の「総合的な学習の時間」に、地元のまちづくり会社として、エンジョイワークスが招かれました。テーマは「未来へ繋がるアクション」。3年間の総合学習の集大成として生徒たちが1年かけて探究する「自分たちの町」の課題について、まちの大人が聞き手として加わる場です。生徒たちが直面しているのは「インターネットで調べても出てこない」壁。町にフォーカスしたテーマならなおさらです。地域の大人たちの声に直接触れる。それが今回の「対話の場」。呼ばれたのは、空き家問題のグループ。エンジョイワークスのコミュニケーションデザイン部の二藤部知哉が参加して、約2時間、10人ほどの生徒と対話を行いました。いまの中学生は「まち」をどのようにみているのかー? 当日の気付きをレポートします。

逗葉新道の出入口近く、緑豊かな丘陵地帯にある南郷中学校。静かで落ち着いた教育環境
この「総合的な学習」には、3年間積み上げられた時間がありました。1年次は、探究学習の実践で知られる市川力先生が提唱する「Feel度Walk」。まちを歩き、自分の感覚から「気になる」課題を探し、学びそのものを始めます。2年次では職場体験。受け入れ交渉まで自分たちで行うことで自分ごとが高まります。そして3年次「未来へ繋がるアクション」。葉山町の課題や自分の関心事を1年かけて探究してきたとのこと。成果物を出すことだけを目的とせず、回り道も大切にする方針だそう。
当日は、まちで社会課題に取り組む大人が20人ほど。空き家、食、自然、ごみ、スポーツ、デジタル、医療、行事、観光など、テーマ別の車座に分かれます。空き家グループの聞き手は、二藤部と葉山町役場の空き家対策担当者の2名。生徒一人ひとりが自分なりの課題解決策をスライドにまとめ、口頭で発表し、それに対して大人がコメントを返していく形式です。出てきたアイデアは、どれも体感にもとづき、丁寧な積み上げを感じる目線でした。だったらこういうこともできそうだね、と、さらなる可能性も膨らむものでした。

車座になってトーク。中学生の手元にはパソコン。学びへのアクセスにも時代の変化を感じます
「町に自習できる場所がない」…場所を求めて逗子にいくことが多いそうです。近くにないという自身の負の体験と、少し離れたところにあるのならば、近くの空き家をそういう利用にあてられてもいいのでは、という発想。さまざまな足りていないものを、余っているものに割り当てていく。
「いずれ廃校になる学校もあるはず」…だったら学校で宿泊や飲食ができる施設もいいのでは、という廃校活用のアイデア。学校での体験は大人たちにも当然あるので、建物としての強度、さまざまな設備、学校は学び以外でどう使えるか。災害時の避難所だけでなく、宿泊施設としての機能を持つことは場の強みにもなる。
「たくさんあるなら、まとめて何かできないか」…点在する空き家を面としてとらえる、まちごとホテルのような発想。
「そもそも、空き家を使いたいときはどうすればいいの?」…制度や窓口そのものへの問い。これは大人が答えるべき、まっすぐな課題提起でした。同席された葉山町役場の担当者からは、現在の町の空き家の状況や制度についての情報提供がありました。
行政からの課題・情報提示をお任せできたぶん、私からは別のことを伝えました。まちの課題は、一人で考えすぎないこと。みんなで問題をシェアすること。別のアイデアと組み合わせてみること。そうすれば、きっと実現できる。他の人の課題も聞いてみてほしい。人の抱えている課題を解こうとすると、自分の課題と結びついて両方解けることがある。そのほうが、うまくいく。
空き家というテーマは、個々には「所有者の考えがまとまらない」「費用の問題をどうすればいいのかわからない」という数多くの壁に、すぐぶつかります。それらは点では解けません。けれど、子育て、教育、観光、食といった他のテーマと重ね合わせたなら、事業として成立する道筋が見えてくることがある。私たちが日々向き合っていることです。
後日、学校を通じて生徒のみなさんから嬉しい感想が届きました。いくつか紹介させてください。
・空き家に対しての考え方が変わり、持続可能な条件で空き家を活用しようと考えるようになりました。
・簡単ではない、理想と現実の差を感じました。
・場所によって必要なものが変わるから、カフェだけじゃないものもあるよと言っていただき、学べました。対話の場のおかげで、空き家を再生させる活動があったら積極的に参加しようと思いました。
・元々は葉山のよさは何かと聞かれたら、海、山と答えていて、逆にいうと海と山ぐらいしかないと思っていました。ですが今回の意見交流で、葉山は都会みたいに大きいデパートも遊園地もないけれど、人の関わりや人の良さなど、他には生み出せない良さがあるのが葉山の良さなんだなと思えることができました。
今回お声がけいただいた、南郷中学校区協働活動推進員の秋山綾さんからも、お礼のお手紙をいただきました。そのなかに、こんな一節がありました。
「子どもたちの問いは、十分に整理されていなかったり、未熟に感じられたりするものもあったかもしれません。それでも、その問いを軽く受け流すことなく、一人ひとりの言葉に耳を傾け、本気で考え、ご自身の経験や思いを交えながら丁寧に答えてくださいました。地域には、このように子どもたちを温かく受け止め、本気で向き合ってくださる大人がいる。その姿こそが葉山の魅力であり、このまちの大きな財産なのだと改めて感じました」
そうありたい。人が本気で向き合ってくれたなら、それは資産になる。不動産の価値は建物や土地に宿ると考えがちです。けれど、実際にプロジェクトが動くかどうかを決めているのは、人です。今後、町にフォーカスした探究テーマは増えていくでしょう。今年度をきっかけに、子どもたちと地域の方々がつながるプラットフォームのような場所をつくれたらいいな。まちと学校と企業が組めば、前進する可能性がある。その環境を活かせたなら、きっと生徒たちのアイデアも実現できる。……そんなことを改めて考える機会になりました。
学校が地域と連携しながら学びを設計していく流れは、国の議論としても進んでいます。文部科学省の中央教育審議会では、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動を一体的に進める「地域と学校の連携・協働の更なる推進方策」が検討されており、今後、学校教育のなかにこうした場が組み込まれていくことが見込まれます。
私たちエンジョイワークスは、不動産の課題解決や、まちの人が主体になるプロジェクトづくりに取り組んでいます。今回のような場に「まちの大人の一人」として関わり続けることも、私たちの仕事の一部です。「まちの大人に話を聞きたい」という先生や生徒の思いと、「協力したい」という地域側の思いは、放っておいても出会いません。あいだをつなぐ人がいて、はじめて場になります。一人のスーパーマンがいることよりも、つなぐ人と応じる人がそれぞれに存在すること。そのほうが、間違いなく力強いものとなります。
貴重な機会をいただいた葉山町立南郷中学校のみなさま、お声がけくださった秋山綾さん、ご一緒した地域のみなさまに、あらためて御礼申し上げます。彼らの視点や気付き、まちを思う気持ちが、いつの日か「じぶんごと」として、循環していくことを期待しています。
(文・二藤部知哉/エンジョイワークス コミュニケーションデザイン部)