まちづくりの担い手がいま、変わりつつあります。かつて、地域活性化の主役は行政でした。計画を立て、予算をつけ、実行する。住民や地元の商工団体はその補完役で、民間企業が関わるとしても建設会社やデベロッパーなど、地域開発と本業のつながりが見えやすい業種が中心でした。それ以外の業種が入ってくることは「異業種参入」と呼ばれ、どこか場違い感をともなう言葉として使われていました。
転機は重なるように訪れます。2014年の地方創生政策、そしてコロナ禍を経たリモートワークの普及。人口減少という課題がいよいよ待ったなしの規模になるにつれ、行政だけでも、地元の団体だけでも、従来型の業種だけでも、もはや担いきれなくなっています。不動産会社が広義のまちづくりに取り組み、通信会社が地域に拠点を開き、鉄道会社が移住支援を手がけ、流通企業が関係人口づくりに乗り出す。いまでは「なぜその会社が?」という問いかけ自体が、少しずつ意味を失ってきています。いわゆる「業際」が柔軟になっています。
そんな変化の最前線にあるのが、日本航空株式会社(JAL)が2026年4月に設立した「KANTSUNA(関係・つながり共創株式会社)」。JALが2024年に立ち上げた、関係人口の創出と地域共創を専業とする新部署(関係・つながり創造部)が、さらなる事業領域拡大を目指して新会社として立ち上げたしたもの。なぜ航空会社が、この領域で会社を立ち上げるのか。そして、その動きはいま日本の地域にとって何を意味するのか——。KANTSUNAの事業推進部長・青木漱介さんに話を聞きました。
(聞き手:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)

(写真左から)関係・つながり共創株式会社 事業推進部アシスタントマネージャーの大久保和哉さん、部長の青木漱介さん
——「関係・つながり創造部」は2024年7月に立ち上がった部署ですね。改めて、どのような背景からスタートしたのでしょうか
ここ数年、国内ではコロナ禍を経てリモートワークが広がり、「どこに住むか」「どう働くか」という選択肢が大きく変わりました。一方で、地方の過疎化や東京一極集中という課題は深刻さを増すばかりです。JALはもともと移動を通じて人と地域をつなぐ事業をしていますが、単に飛行機を飛ばすだけでなく、「移動した先で関係・つながりが生まれるウェルビーイングな社会をつくる」ところまで関わりたい。そういう思いから、この部署が生まれました。だから「関係・つながり創造部」という名称になったのです。実際にこの部が立ち上がった2024年7月にJALは「FUTURE MAP」という未来予想図を公開しました。そのキャッチコピーは「つながりは、未来への翼だ」。その先の「関係とつながり」の視点が欠かせないという姿勢です。
その取り組みの一つとして、昨年「つながる、二地域暮らし」を実施しました。複数の自治体と連携して、JALマイルで移動費を支援する二地域居住のお試しプログラムです。国内の6地域を対象にしたもので、当初、想定していた定員は45名だったのですが、最終的に114件162名の応募があり、約3倍の反響になりました。実際に62名の方に参加していただいて、参加者の86%がプログラムに満足したと回答しています。
なかでも印象的だったのは、応募者の42%が、希望する滞在先にそれまで一度も行ったことがない方だったという点。特定の地域への愛着があってというより、「二地域居住というライフスタイルそのものをやってみたい」という層が、私たちが想定していた以上に存在していることがわかりました。
一方で、課題もありました。参加者アンケートで特に低い評価が続いたのが、地域内の二次交通と、地域の人と交流するきっかけの少なさです。マイルでの支援で移動費のハードルは下げられましたが、着いてからの移動と、地域との「つながり」をどう作るかは、引き続き大きな宿題となりました。そして、動き始めてみると、航空会社という立場のまま地域活性化に関わることの難しさが見えてきました。自治体と話していると、どうしても「路線を増やしてほしい」「便数を維持してほしい」という期待が前に出てきます。それ自体は当然のことなのですが、地域活性化を目的とした判断と、航空事業を維持するための判断とでは、スピード感も優先順位も変わってきます。地域と対等なパートナーとして向き合いたいのに、「航空会社」が主語になってしまうと、入り込む距離感が変わってしまう。関係人口を本気で広げていくためには、JALグループではあっても、地域活性化そのものを事業の目的に据えた専門組織が必要だと判断しました。そこで、「関係・つながり創造部」を会社として独立させることになりました。社名はまさしく「KANTSUNA」です。

関係・つながり共創株式会社(KANTSUNA)ウェブサイト
https://www.kantsuna.com/
JALによるリリース(2026/2/27付)
https://press.jal.co.jp/ja/release/202602/009378.html
——改めて「KANTSUNA(関係・つながり共創株式会社)」の方向性とこれから、について教えてください
昨年度、実証実験を行った「つながる、二地域暮らし」の取り組みは、私たちKANTSUNAが運営主体となって、継続拡大することになりました。参加者のニーズと有効性が確認できたので、次は本格的に広げていこうとなったわけです。今年は、7月17日から参加者の募集を開始しており、北海道から鹿児島の奄美群島まで、36の自治体が参加してくれます。今年度の私たちのテーマは、「6地域でできたことが、36地域に広げても成り立つのか」を検証すること。そして来年度に向けては、JALおよびKANTSUNAの事業として自立できるかどうかが、大きなチャレンジ。その先、ビジネスとしてどう成立させるかを、見極めていきたいと思っています。
◾️参加者募集中!
つながる、二地域暮らし2026(全国36地域)
https://www.jal.co.jp/jp/ja/dom/kantsuna/2chiiki/tsunagaru/
西日本、二地域暮らし(松江市のみ対象、JR西日本との共同プログラム)
https://www.jal.co.jp/jp/ja/dom/kantsuna/2chiiki/nishi-nihon/
◾️冒頭の写真は、JALの二地域居住プログラムに参画する熊本県多良木町の風景
地域の課題に向き合う際には、航空会社として向き合うより、対等な共創パートナーとして関わる方が本質的な関係が作れます。KANTSUNAはJALグループですが、たとえば鉄道会社を紹介することも、他社を紹介することもあっていいという立場で動きたいと考えています。地域と人をマッチングするというのが、KANTSUNAの一番の存在意義ですから。実際に、JR東日本やJR西日本との共同プログラムも同時に動かしています。鉄道会社も私たちと同じように、「人を運ぶ」で終わらせてはいけない、その先を見据えた事業展開が必要だという危機感があります。そこで手を携えて「二地域居住シリーズ」として展開させる予定です。
また、特定居住支援法人として7月1日時点で25の自治体から指定を受けています。これはおそらく全国で最多数。一つの地域に根差した事業者がその地域から指定を受けるというのが従来のモデルでしたが、広域でこれを担うというのは、KANTSUNAにしかできない形だと思っています。
*特定居住支援法人とは、二地域居住を促進するために市町村長が指定する法人。二地域居住に関する情報提供や相談対応、地域との交流促進などを通じて、地域への人の流れをつくる役割を担います。
——エンジョイワークスとの接点について、改めて聞かせてください
全国の移動の先を考えた時、どこに行っても、宿泊拠点と居場所の問題は避けて通れません。二地域居住を実践しようとしたとき、「どこに泊まるか」「どこを拠点にするか」というのは最初にぶつかる壁で、ここはKANTSUNAには手が届かない領域です。二地域居住で人を運ぶ、動かすといっても「その先」の受け皿がないと、循環した実践にはなりません。そこを担っているのがエンジョイワークスだと思っています。
別府でTOJIHAUSをハブに中長期滞在や二地域居住の「居場所」を増やしておられる中で、今後、私たち自身も「点から面へ」という視点で、ぜひ連携を深めていきたいと思っています。「移動のハードルを下げる」KANTSUNAと、「居場所のハードルを下げる」エンジョイワークスが組むことで、二地域居住の実践がぐっとリアルになると思っています。
——最後に、KANTSUNAが目指す社会の姿を聞かせてください
部署として立ち上がった時から変わらず、「関係・つながり」が日常化することでウェルビーイングを感じられる社会、というのが私たちのゴールです。移住や定住ではなく、「複数の居場所を持ちながら生きていくことが、特別なことではなくなる社会」。そこに向けて、移動という手段からその先まで関わっていくのがKANTSUNAの役割です。
人口減少という課題は、いかなる施策をもってしても一朝一夕には変わりません。ただ、地域と都市のあいだを人が動き続け、つながりが積み重なることで、地域の経済と文化は確かに動いていきます。航空会社が「なぜまちづくりを?」と問われた時代は、もうすぐ終わるかもしれません。課題に立ち向かって、業種の壁を静かに溶かしていくことで解決を見出していけるのだとすれば、KANTSUNAはその最前線に立ちたいと思っています。
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改めて、「移動のハードルを下げる」KANTSUNAと、「居場所のハードルを下げる」エンジョイワークス。この二つが重なる場所に、二地域居住の未来があると、今回の取材を通じて感じました。空き家再生や地域共創に取り組む私たちにとって、継続的に地域と関わる関係人口の存在は、まさに事業の根幹に関わる問いです。業種の境界(業際)が溶けていくなかで、私たちもまた、地域を共に支えるプレイヤーとして、KANTSUNAとの連携をさらに深めていきたいと思います。