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「持ってるだけ」では、もう回らない。賃貸市場の今と、これから

New Topics 公開日:2026/06/16

いま、あなたが住んでいるのは持ち家ですか?賃貸ですか?
近年、賃貸という選択肢が、変わりはじめています。住宅市場における「借りる」と「買う」の比率は、長らく一定の均衡を保っていました。国土交通省の調査によると、日本の総住宅数に占める賃貸住宅の割合はおよそ35〜38%程度で推移しており、持ち家志向が根強い社会構造にあるなかでも、賃貸は確固たる存在感を持ち続けていました。ただ最近、その「賃貸」をとりまく空気が、静かに変わりはじめています。変化の震源は、市場の外側にあります。人口構造の変容、ライフスタイルの多様化、そして「定住」という概念そのものの揺らぎ——これらが複合的に重なり合い、賃貸住宅の意味を少しずつ書き換えはじめているのです。

時代が「賃貸」を選ぶ理由
人口動態でいうと、単身世帯の増加は、その象徴的な変化のひとつ。国勢調査では、単身世帯がすでに全世帯の約38%を占めるとされており、今後もその割合は拡大していく見通し。大きな家を買って家族で住む、というモデルが自明でなくなる時代において、賃貸の「身軽さ」や「可変性」は、リスク回避の手段ではなく、ひとつの合理的な選択として再評価されはじめています。加えて、テレワークの浸透や多拠点居住の広がりは、「住まい」の定義そのものをも変えています。都市に一点集中で住む必然性が薄れ、働く場所と住む場所が分離・複数化するなかで、賃貸という形態の持つ柔軟性は、むしろ時代の感覚と共鳴しやすいものかもしれません。「どこに住むか」ではなく、「どう住むか」が問われる時代、その問いに向いた器を持っているのかもしれません。

大家さんの現実と、管理業務の変容
一方で、賃貸物件のオーナー側——いわゆる「大家さん」が置かれている状況は、決して楽観的ではありません。その最たるものが、空き家問題。全国の空き家数は約900万戸に達しており、賃貸物件を含めた総住宅数に占める空き家率は緩やかに上昇を続けています。地方エリアだけの話ではなく、都市近郊でも築年数の経った賃貸物件が入居者を集められず、そのまま放置されるケースが増えています。「持っていれば、誰かが借りてくれる」という前提は、すでに成立しません。

「賃貸住宅」の代表格がこのようなアパート。投資物件として市場でも依然として人気ですが、中長期的な対応も必要

築年数の経過による老朽化、修繕費用の増大、管理コストの上昇——こうした課題は、特に個人オーナーにとって重くのしかかります。建物の価値を維持するためのリノベーション投資は必要でも、その費用を賃料に転嫁することは難しい。かつては「安定した収入源」として語られることの多かった賃貸経営は、今や能動的な判断と継続的な関与なしには成り立たない事業へと変わりつつあります。設備やデザインへの要求水準は上がる一方で、競合物件との差別化は難しく、収益構造のジレンマは深まっています。さらに、オーナーの高齢化や相続による管理意欲の低下も重なり、「誰も使わないが、どうすればいいかもわからない」という物件が静かに増え続けている現状もあります。空き家は、個人の資産問題であると同時に、地域の景観や安全、コミュニティの持続可能性にも直結する社会的な課題です。

こうしたオーナーの課題と並行して、「管理」の業務そのものも変容しています。かつての賃貸管理は、入居者の募集・契約・家賃回収・クレーム対応といった業務を淡々とこなすことが中心でした。しかし今、その範囲は大きく広がっています。入居者の多様化に伴うコミュニケーションの複雑化、設備トラブルへの対応、オーナーへの収支レポートや改善提案——管理会社に求められる役割は、「管理する」から「経営を支える」へと質的に変わりつつあります。

そこで、現場で積み重ねられてきた実践知も、改めて注目されています。空室対策や修繕・再生のノウハウ、地域との連携で生まれた事例——これまで各社・各現場に分散したまま十分に共有されてこなかった知見を活かそうという動きも、業界全体で広がっています。管理業務の変容は、賃貸市場そのものの変革期と重なっています。管理会社が「経営パートナー」としての役割を求められるようになった延長線上に、賃貸という仕組みが地域や人とどう関わるか、という問いが見えてきます。

「貸す」から「関わる」へ
ひとつの方向性として求められているのが、物件を単なる「居住空間」として切り離すのではなく、地域やコミュニティとの接続点として捉え直す視点です。入居者が物件を介して地域と関わり、オーナーが地域に根ざした存在として再定義される——そうした賃貸のあり方は、空室対策としての有効性にとどまらず、地域の持続可能性という観点からも意義を持ちはじめています。

シェアハウスやコリビング、あるいは宿泊機能を持つ複合的な物件の広がりは、「個人の暮らしの場」という一義的な機能を超えて、物件が人と人、人と場所をつなぐ結節点になりうる可能性が、少しずつ形になっています。空き家だった建物が、地域の交流拠点や小商いの場として生まれ変わる事例も、各地で静かに増えています。たとえば、私たちが手がけた旧市営田浦月見台住宅(現:月見台住宅)は、公営賃貸住宅を「なりわい住宅」として再生させた取り組みです。まさに、地域の持続性を体現する事例のひとつと言えるでしょう。投資家・オーナー・入居者という、これまで別々の利害関係者として分断されがちだった存在が、ひとつの場所に「参加者」として関わる。そのとき、賃貸はもはや「資産の貸し借り」という取引の枠を超えて、地域に関わるための入口になりえます。

住宅市場は今、構造的な転換期にあります。売買か賃貸か、という二項対立を超えたところで、「住まい」の意味そのものが問い直されている時代なのです。賃貸がこれまで担ってきた役割——流動性の確保、多様な暮らし方の受け皿はこれからも変わりません。ただし、それを支えるオーナーと仕組みのあり方は、大きな刷新を求められています。「持っている」から「関わり続ける」へ。賃貸の未来は、その問いに向き合うところから開けていくのだと思います。

参考資料
◻︎公益財団法人日本賃貸住宅管理協会ウェブサイト https://www.jpm.jp/
◻︎令和6年度 住宅市場動向調査報告書 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001900667.pdf

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