別府という温泉地に、少し変わった宿が生まれています。それがエンジョイワークスのTOJIHAUSプロジェクト。「湯治」の本質——非日常を「消費」するのではなく、自分のペースで温泉のある日常に浸る——を現代に再構築した、暮らすように滞在する場所。その空間をゼロから作るという選択を、私たちはしていません。土台となるのは、空き家です。まちに点在する空き家の課題と、滞在体験を掛け合わせる。そうは言っても、建物を補修する・内装を刷新して終わり、ではありません。土地の空気感や、近隣との程よい距離感を継承しながら、現代の滞在に応える環境を整える。床に何を張るのか、どの樹種の香りに包まれるのか、その一つひとつを「また帰りたい」という感覚につなげてもらう。
そこで欠かせないのが、地元の素材と職人を知り尽くし、その継承にこだわる存在。大分県内で事業を展開する日本ハウジング株式会社は、大分県産の杉材や珪藻土、そして職人の手を活かすことで、地域を見つめ直してきた工務店。エンジョイワークスとの出会いから、協働に至った経緯、そして両者の根底にある共通の哲学について、代表の馬場鉄心さんに聞きました。(聞き手:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)
TOJIHAUSウェブサイト https://tojihaus.jp/
——湘南と別府、エンジョイワークスとの関わりはどのように始まったのですか?
本当に偶然の出会いでした。友人がエンジョイワークスさんがリノベーションして所有していた物件(横須賀市にある旧秋谷テラス)を購入するという話を聞いたのがはじまり。現地の写真のほかに立地条件などを聞いて「騙されているのではないか?」と最初は思っていました。その友人のためにと、自費で横須賀まで足を運んだんです。実際に現地を訪れてみると、社員のみなさんが本当に「気持ちのいい方」ばかりで。不動産や建築会社の営業というと、売ることばかり考えてギラギラしている印象があったんですけど、そうではなくて、事業への思いや社会性といった部分もすごく伝わってきたんです(もちろん、この物件に関しても)。建築や不動産というのは手段で、ちゃんと「目的として何がしたいのか」をはっきり持たれていた。まわりのコミュニティのことを考えて進めてくれるんだという信頼ができたんです。(*友人はこの物件を購入して拠点にしています)
その後、別府でプロジェクトをスタートするということで福田さん(エンジョイワークス代表)がこちらに会いに来てくださいました。それを前にしたタイミングで、建築関連業界で講習の案内があって、その中にエンジョイさんの事例があったんですよ。実際にお会いして話した印象もそうでしたが、こういう場面で紹介される会社なんだ、と全貌がよくわかって。地域を活性化させるっていうところに飛び込んでいって「つながり」を地道に作られている。それって、本当に面倒くさいし、大変だし、リスクもある。本来であれば地元の私たちがやるべき事なんだけど、なかなかそこが手つかずになっている、そう思っていたところでした。
——そんな時に舞い込んできたTOJIHAUSのプロジェクトについて、最初に聞いた時の印象は?
点から面へというのはなるほど、と思いました。高級な宿をドンと作るんじゃなくて、点在する宿があると、まちとしての機能が元に戻る、維持できる気がする。そんな人の流れができたら、機能として別府らしさ、町らしさが残せるんじゃないかなと感じました。再生したところだけが賑わって儲けても、あんまり意味ないんですよね。それがどう波及してどう繋がるか。そこが大事で、はじめて街全体の活性化が実現できると思っています。さらに、リノベーションの思考(志向)と私たちのこのまちの素材への思いもうまく重なることができそうだな、と感じました。
——実際にTOJIHAUSには床材に県産の杉、壁には地元の素材で開発した珪藻土を使っていますね。その「素材への思い」が宿っています
実は、地方の若者「あるある」かもしれませんが、高校までは本当に大分が嫌いで、大学で上京しました。最終的に30歳過ぎに大分に戻ってくることになったのですが、その時に、大人になった分、地元を見る目が変わっていて。東京にもいたし、福岡にも住んだんですけど、ようやく大分の人柄の良さ、気候風土の良さが分かったんです。スイッチが入ったというのかな。自分の生まれ育った故郷だからかもしれないけど、贔屓目ではなく本当に食べ物もおいしいし、緑も綺麗だし。温泉があるし…みたいな感じで、魅力的な場所なんです。やっぱり外に出させてもらったから僕も気づいたんですよね。

TOJIHAUS001、002のリノベ後の様子。木をふんだんに使い、シンプルかつ温かみのある空間
父が創業したこの会社を継ぐことは決まっていたので、「だったらこの大分を守りながら、大分らしい家を作ることで、少しでも恩返しができるんじゃないか」と思ったんです。それなら頑張れるなという感じがあってね。父の代はメーカーのフランチャイズだったんですけど、2年目で脱退して、「府内町家」というブランドを立ち上げました。
大分って実は1次産業が優秀なんです。水産業だけでなくて農業も豊か、林業も強い。特に、杉はとても身近にある自然素材だから、メンテナンスする際も手に入りやすい。さらに良質な珪藻土が取れるんですけど、一般的に建材として売られているものは、添加物が入っていることがあるようで。私たちも昔、それを使って、お客さんの家の壁を塗ってしまって、成分分析したらほとんど接着剤だったんですよ。そこで、自分たちのオリジナルの「湯布珪藻土(https://www.yufu-keisoudo.jp/)」を作ってしまいました。本当にいいんです、これ。カビが家の中につかなくなるんです。温泉地で湿度が高いところだからこそ、そういう地域の素材を選ぶことが理にかなっているんですよ。
一般的には工務店は、大手建材メーカーさんから部品を買って取り付けるというのが仕事だと言われています。でも地元のものを動かそうと思うと、素材から掘り起こして部品や商品を作りたくなる。そうすると経験のある職人さんが必要になるんです。職人さんが途絶えてしまうと、文化がなくなってしまいますから。そこのところを一緒に巻き込んで、ちゃんと生き残れるような業界としてやっていければなと思ってます。
——こうした想いを、どのように実践しているのですか?
地産地消にこだわる地元の工務店と連携して、「木繋会(きづかい)」という活動団体を立ち上げました。普段はバリバリの競合なのですが(笑)。子どもたちに向けた「木育」の絵本を作ったり、バスツアーで山に行ったりしながら、1次産業応援隊として活動しています。山の自然やそこにある可能性をお客さんや次の世代にちゃんと見てもらえるような場を作ろうと汗をかいているところです。地元の資源を活かし、それを継承していく。個別の企業だけでは難しいことも、一緒になれば、大分全体を盛り上げていくことができるんじゃないかと考えているんです
木繋会ウェブサイト https://www.kidukai.jp/
やっぱり、大分の良さを次の世代、その次の世代にちゃんとバトンタッチしないと、全部工業製品や輸入製品になってしまって、山にお金が戻っていかなくなるという危機感があります。そして、職人さんたちも高齢になって継ぐ人がいなくなる。その結果、どこかのまちのコピーみたいになってしまう。

九州は温暖で雨が多く、山の斜面もスギの育成に適した環境。県内の日田は「九州三大美林」と言われるエリアだ。そして、珪藻土や明礬などは温泉(火山)に由来するもの。それを住まいにも活かす–ごくごく自然な流れ
ある大学の先生に、ハウスメーカーがこのまちで建てた物件と、私たちが地元の素材を使って造った物件で、どれだけ経済波及効果があるかを計算してもらったんです。当たり前のことですが、(ハウスメーカーは)この地域外の素材を組み立てる訳ですから、やっぱり資本も外に出てしまう。だから、私たちが頑張って地産地消の家づくりをしていかないと、どんどん負けていって、貧しくなっていくという危機感があります。だから「徹底的に大分を守る、大分にこだわった家を造ろう」と信念のようなものをずっと持ち続けています。
——宿泊施設のリノベーション(TOJIHAUS)は、これまで手がけられてきた戸建てとはまた違う挑戦だったとのこと。泊まった方にはどう過ごしてもらいたいですか?
泊まった方に空間の中で素材をどう感じ取ってもらえるのか、気になります。実は、杉ってすごく不思議な素材です。それがわかるのが足触り。夏場はベタベタしないから、素足で歩いてほしい。樹脂を貼っていたり、コーティングしている床と比べると、夏など足の裏が汗をかいているような時、その気持ちよさが全く違うからびっくりすると思いますよ。反対に、冬は体温が床に吸い取られることがなくて、暖かく感じるのです。だから、ちゃんと暖房していてあげれば、足元がヒヤッとせず気持ちいい温もりがあります。
これは、日本人ならではの「足裏感覚」かもしれません。海外(西洋)の方は家の中でも靴を履いています。日本人は必ず脱いで上がりますよね。ここの差が大きいと思うんです。だから木材の選択肢が違うんですよ。海外は、チークとかマホガニーとか硬い海外の樹種が好まれますけど、あれは室内を靴やブーツで歩くから。でも日本は針葉樹の柔らかい木を多く使います。それはまさしく足の裏の肌触り。畳もそうですよね。だから海外の方、特に靴を脱いで裸足で歩いてもらえると、この「日本的な気持ちよさ」も体感してもらえると思います。
あと香りの要素も大きいでしょうか。フィトンチッドというのですが、例えば、檜(ひのき)は覚醒する匂いなんですよ。一方、杉はリラックスさせる香りです。心身を鎮めてくれる。これは、TOJIHAUSとしても理にかなってるんですね。(宿泊滞在で)くつろぎに来ていただいているんだから、空間の佇まいも含めてゆったりしてもらいたいですね。
——つまり…この宿自体が、大分の素材を使ったモデルルームになりますね
これまで自社のブランドをメインでやってきたからこそ感じる難しさもありますが、根っこのところが一緒だから、どうやってクリアできるかを、試行錯誤しながら進めているところです。最初の1軒、2軒(TOJIHAUS 001/002)は、実は慣れないやりとりで本当に大変でした。それを反省材料にして、意思の疎通を含めて前向きにできそうな「タッグ」になってきていると思います。いろいろトライをしながら、いま3軒目に着手したところ。そんな良い関係性で4軒目、5軒目と広げていけるといいなと考えています。
この過程を通して感じたのは、地域への「思い」を共にする会社と一緒にやっていけるというのは、大分にとっても、日本全体にとっても、すごく大きな財産になるんだろうなということ。地元だけではうまく取り組めなかったところに、再生や活用の「仕組み・仕掛け」を持ってきてくれた。エンジョイワークスとの出会いは本当に奇跡的だったなと思います。地元の素材を使っていきたい・職人さんをもっと活かし継いでいきたい。私たちにとっても、これは新しいステージの挑戦と言えるでしょう。
——改めて、別府のまちの良さを教えてください
別府の良さは、他の有名な温泉地、例えば熱海とは決定的に違う点にあります。熱海は完全に観光地で、住民の姿は薄いように感じます。だけど別府は、おじいちゃんおばあちゃんから子どもまで、普通に暮らしているんです。そこに観光客や滞在者が入ってきて、「普通の」まちの営みと交差する。そういう「暮らしとのシームレスな繋がり」がもともと、別府にはある。別府八湯として、温泉が街に点在しているのも特徴ですが、TOJIHAUSも同様で、「湯を感じる滞在体験」が散らばっていて、まちそのものが「一つの大きな温泉旅館」になっていく感覚になっていくのだなと期待しています。
あとは、その「暮らし」も外から来るとよくわかると思います。例えば新鮮な魚はまちにあるスーパーでも種類豊富に買えるし安い。そういう日常の豊かさの中に、温泉がある。別府はそういう場所なんです。だから、私たちもTOJIHAUSに大きな期待を感じています。競合を超えた協働、地道な「つながり」「巻き込み」づくり。試行錯誤のなかで、別府という場所の本当の魅力が立ち上がっていく期待感があります。その現場で、一緒にこれからのまちのかたちを描いていければいいなと思います。
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日本ハウジング株式会社
https://nihonhousing.co.jp/
ウェブサイトのトップページに掲げられているのは、「大分から、新しい価値を創る。大分の暮らしに関わる産業から、地域経済の循環を創造する。」
1972年創業で、注文住宅「府内町家」を中心に、新築・リノベーション・不動産事業など、地元産の素材や技術を活かした住まいづくりのほか、住宅にとどまらず、インテリアや庭、素材開発なども手がけるなど、地域の暮らしと経済の循環を生み出す事業を展開中。

写真は同社が手がける住まい。どの物件も床の杉材がぱっと目に入ります
◼️府中町家ウェブサイト https://funaimachiya.com/
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馬場さんの言葉の中で、特に印象に残ったのは「徹底的に大分を守る、大分にこだわった家を造ろう」という一言。地元の素材、職人、それらの「これから」を見据えた思いと、「外に出たから、ようやく地元の良さがわかった」という言葉も、多くの人が共感するのではないでしょうか。そして、TOJIHAUSの床に込められた思いを、私たちだけでなく、多くの滞在者(宿泊客)のみなさんにも感じていただけるといいなと思いました。そして、こうした地方の「プレイヤー」の信念を伝えていくことの大切さも。