「このままだと、まちは静かに衰えていく」。どの自治体も抱えている危機感かもしれません。人口約115,000人の奈良県生駒市。近鉄生駒駅南口はかつて、門前町として栄え、宝山寺参詣客で賑わっていました。いまも木造アーケードに飲食店や土産物屋が立ち並ぶ風景は残っているものの、少しずつ、確実に変わってきている。新しい事業者が生まれにくい。空き物件が増える。若い世代の挑戦が育たない。まちの“これから”が見えない──そうした危機感のなか昨年度、生駒市とエンジョイワークスが着手したのが「いこみなチャレンジ(生駒駅南口エリア伴走型事業者育成プログラム)」でした。
多くのまちづくり事業が「物件を埋める」ことをゴールにしているなか、このプログラムが違うのは、「プレイヤーを育て、それを応援する地域の力をつくること」を重視した点。1年目の今、その挑戦がどんな芽を生み出したのか、そしてこれからどこへ向かっていくのか──その軌跡をお伝えします。

かつての賑わいから空き店舗の課題…「どういうまちでありたいか」をこの地域に関わるひとたちが考えるきっかけに
まちの潜在熱量を一気に可視化
いこみなチャレンジの募集がスタートしたのは昨年6月。市場流通していない5つの特徴的な物件(旧公設市場の木造アーケード内の町家、路地裏のスナック物件、ケーブル駅近くの3坪物件など)を用意し、これらを活用して事業をしたい人を募りました。実は、想定していた参加規模はもっと小さかったのですが、キックオフイベント(オンライン・現地開催)には申し込み92名、参加82名。エントリーは25組。それだけでなく、「応援したい」というサポーター登録も21名が手をあげてくれました。「生駒で挑戦したい」「このエリアを好きになってもらいたい」「古い建物を活かした事業がやりたい」。まちの中に潜在していた熱量が、一気に可視化された瞬間でした。
その先のプロセスも、従来のプログラムとは異なります。単純な書類審査ではなく、25組ひとり一人と丁寧に個別ヒアリングを実施。メンター陣(まちづくり・物販・飲食・建築・融資相談など複数分野の専門家)が「どんな経験とまちへの想いを持っているのか」をじっくり確認し、8月の一次選考で12名が通過しました。
「共感が支援に変わる」仕組みで、個人の挑戦を支える
選考通過者は、8月から11月まで約4カ月間、メンターとの公開メンタリングや個別面談、駅前でのテストマーケティング(アンケート調査)を重ねながら、事業計画をブラッシュアップしていきました。重要なのは、メンター自身も「プレイヤーの事業を通じて、自分たちもまちづくりに前のめりになっていった」という点。伴走とは一方向ではなく、双方向の関係性の中で生まれるもの。このプログラムは、挑戦者だけでなく、それを支える側も巻き込む設計になっていました。
その結果、12月の最終審査・公開プレゼンイベントでは、6組の個性的な事業が登壇。そのうち2組である「IKOMA ART BASE」(旧公設市場の長屋を舞台に「誰もが気軽に訪れ、アートを見て、触れて、語り合える場」)と「SPICE CURRY 寶山」(「一皿のカレーをきっかけに、人と人、店と店がつながる循環」を創出)が、「実装」に向けて動き始めています。メンター陣からは「熱量こそが人を巻き込み、まちの文化をつくる」「店づくりはスタートであり、続けることでまちの歴史になる」といったエールが寄せられました。
プログラムのもう一つの工夫は、資金調達の仕組みです。空き店舗再生には改修費や設備投資が不可欠。個人が用意するには大きなハードルになります。そこで、ガバメントクラウドファンディング(GCF)という選択肢も提案しました。ふるさと納税を活用したもので、単なる融資ではなく、市民が「この挑戦を応援したい」という共感を、直接的な支援に変えられる仕組み。これもまた、官民連携プログラムが創意工夫した部分です。

空き物件の見学から事業プレゼンへ。リアルな一歩を「可視化」できた1年目
1年目の課題から次のステップへ
実際の動きとしては、1年目の成果目標「新規事業化件数1件」に対して、現在3件の見込み(1月末時点)。最終プレゼンだけがゴールではありません。参加者には継続の支援を行っており、事業化を目指すプレイヤーは計12組に拡大しています。注目すべきは、「新しいつながりやコラボ事業が生まれている」という点。参加者同士による連携イベントの企画、サポーター側からの自発的な協力、市周辺地域への波及効果──プログラムが終わった後も、その”熱量”が継続的に動いています。
見えてきた課題も、同時に明確になりました。地域とのさらなる相互理解や調整、連携の必要性です。継続してまちに根付いた事業を増やしていくためには、ここが不可欠。遊休不動産の継続的な発掘、サポーターが主体的に関わる仕組みの構築、応募者に対応できる効率的な体制づくりや、自治体全体のまちづくり計画やハード整備事業との連携も必要です。そして、プレイヤーの自走化も見据えた支援へのシフトが重要になります。こうした課題に向き合うため、3カ年計画の2年目となる今年度は、「実行力あるまちづくり組織の構築」「ファイナンス仕組みの検討」「エリアプラットフォームとの連携強化」を軸に、新たな段階へ一段ステップアップします。将来的には、民間主体で自走し、公共空間の管理収益をエリア全体に投資し続ける組織体制の構築を目指しています。
「まちが新しい動きを始めるプロセスそのものが価値になる」
これは、このプログラムを支える基本的な考え方。完成した成果や数字だけでなく、挑戦者(プレイヤーやサポーター)とまち、メンター陣、市民が育ち合っていく過程そのものが、本当の資産なのです。今、生駒駅南口では、確実に何かが動きはじめています。昭和の記憶を宿した空き物件は、「埋めるべき課題」ではなく、「新しい営みを迎え入れる可能性」へと変わってきました。
その過程を、これからも見守り、共に育てていく。新しい挑戦者の募集はこの5月からスタート。生駒市とエンジョイワークスの協働プロジェクト、2年目の挑戦にも注目していただけると嬉しいです。
■いこみなチャレンジ公式サイト
https://ikomina-challenge.jp/
◼️生駒市広報(2026年5月号)*今年度のプログラムへの参加者募集記事掲載
https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000004/4970/260501_all.pdf
2026/05/05
2026/05/05