春が来ると、葉山の町全体が色付きます。4月下旬から5月中旬にかけて開催される「葉山芸術祭」は、この時季の風物詩。34回目を迎えた今年も、個人の家や庭、ギャラリーが展示会場に変わり、地元のアーティストや住民たちが自由に表現を発信します。大規模な現代美術展とは違い、「自分たちの町で、自分たちのペースで」という、どこか気軽で温かい雰囲気が特徴です。それは、葉山という地域に「まちを楽しむカルチャー」が根付いているからかもしれません。そこに、この芸術祭の一番の価値があると私たちは考えています。
実はエンジョイワークスは、この芸術祭に10年以上、毎年参加し続けています。不動産事業者がアートイベント?と思われるかもしれませんが、私たちが長年取り組んできたのは、かなり広義な「まちづくり」です。そのプロセスで最も大切にしていることの一つが、「地域を知る」「まちを再発見する」という地道な歩みです。過去には、町内のまち歩きツアー、地元シェフによる食をテーマにしたマルシェ、親子で葉山の魅力を発見する「動画撮影ワークショップ」、地域住民やクリエイターとともに「葉山小屋ヴィレッジ」で1カ月間にわたり小商いやワークショップを開催するなど、毎年「まちを知る・まちを楽しむ場」を企画してきました。
なぜこうした取り組みが続けられるのか。それは、葉山芸術祭というプラットフォームがあるからです。この芸術祭には、参加者のアート感度だけでなく、「自分たちの町を楽しもう」というローカルな志向が息づいています。そうした地域の土壌があるからこそ、私たちの「まちづくり」への想いも共鳴し、ともに取り組む仲間が少しずつ増えていくのです。
「葉山の声を聴く」企画が生まれた理由
そして今年も、この「葉山芸術祭」に参加しました。毎年、企画に頭を悩ませているのですが、今回は「葉山の声を聴く」というテーマ。これまで10年以上続けてきた「地域を知る」というアプローチを、さらに一段階深める試みです。
昨年、葉山町は町制100周年を迎えました。私たちは、これを記念した対話プロジェクト「nowhere HAYAMA 100」の制作に協力しています。葉山に根ざして活動する30人へのインタビューを通じて、この土地に共通する「思い」と「願い」を丁寧に拾い上げたウェブサイトを作成しました。時間をかけて聴いた、30人それぞれの言葉。それをもう一度、リアルな場で「語り合い」「聴く」機会をつくりたい——そんな想いから、芸術祭参加企画が生まれました。
nowhere HAYAMA 100ウェブサイト https://nowhere-japan.com/hayama/
イベント当日(4/26)は、プロジェクトの発起人・長沼敬憲さんと藤田一照さんによるトークをはじめ、映像作家・井島健至さんのスライド映像、音楽家・真砂秀朗さんの演奏、そして30人の参加者たちとの対話へ。いずれも葉山に暮らす人たちです。話を聴く、映像を観る、音楽を感じる。この「対話」のコーナーでは、長沼さんによる30人の「言葉」のAI分析も。そこで導き出されたのは、「手放す・根ざす・渡す・続ける」というワードでした。濃淡はあれど、葉山の町に息づく人たちの共鳴ポイントを言語化するおもしろい試みに、会場の参加者も大きく感銘したようでした。

(写真左から)ネイティブフルート奏者の真砂秀朗さん、葉山ふるさと絵屏風継承会の大八木俊也さん、そしてトークで登場した編集者の長沼敬憲さん・僧侶の藤田一照さん
建物から考える、まちの未来
そしてもう一つのポイントが、会場となる旧東伏見宮葉山別邸です。私たちが保存・再生・継承を手がけてきた旧皇族の別荘であり、昨年リニューアルを終えて新たなステージへと進みました。この建物を舞台にすること自体に大きな意味があると考えています。大正期に建てられた別邸を、どう守り、どう活かし、どう次の世代に伝えていくのか。老朽化や維持管理の課題から、一時は解体も検討されたこの場所は、葉山という「地域のこれから」を考える象徴的な存在でもあります。この「別邸」を通じて、この町をどのように育てていきたいのか——そんな問いを共有する場にもしたいという狙いもあり、一般の見学会も設定。約50名の方が参加されました。
旧東伏見宮葉山別邸ウェブサイト https://bettei-hayama.com/
旧東伏見宮葉山別邸Instagram https://www.instagram.com/bettei_hayama/

改修後、宿泊や一棟貸し施設として生まれ変わった旧東伏見宮葉山別邸。限定の「見学会」には町外から多くの人が。貴重な場所(と造り)とあってカメラや携帯を手に興味深く見ている方が多かったのが印象的
ここでしかできない話を分かち合いながら、そして、「元皇族別荘」が保存継承され、地域の方々に活用されている意味、葉山のアイデンティティを見つめ直していく。春の芸術祭を舞台に、「声を聴くこと」と「建物から学ぶこと」。二つのアプローチから、葉山という地域の未来を考えました。この町への理解を深め、関わる責任を自覚しながら、「ともに育っていく関係をつくること」。それこそが、私たちが考える「まちづくり」の本質なのです。
代表の福田も、この日のイベントで「葉山の30人」のひとりとして、こんなことを話していました。「私自身、20年前に(葉山に)越してきた時は、一般的なサラリーマンでした。けれど、このまちと人との出会いが『自分でも何かやってみたい』とチャレンジするきっかけをくれました。その後、湘南を拠点に会社を立ち上げるなかで、地域のみなさんと一緒にこの街を盛り上げたいという想いをもとに、多くの方に支えていただいたという気持ちが強くあります。この場所で今日、こうしてご一緒できたことは非常に感慨深い」と。
ここでしかできない話を分かち合いながら、そして、「元皇族別荘」が保存継承され、地域の方々に活用されている意味、葉山のアイデンティティを見つめ直していく。春の芸術祭を舞台に、「声を聴く」と「建物から学ぶ」。二つのアプローチから、葉山という地域の未来を考えました。この町への理解を深め、関わる責任を自覚しながら、「ともに育っていく関係をつくる」こと。それこそが、私たちが取り組む「まちづくり」の本質なのです。
(参考)葉山芸術祭ウェブサイト https://hayama-artfes.com/

白亜の洋館を「改修継承したい」という町民の心意気が再生を導いたとも言えそうです。エントランス横の「東伏見宮」の石柱を撮影する人も多くいました