地域の風景は、ある日突然変わるものではありません。小さな実践が積み重なり、人が関わり続けることで、少しずつ輪郭を持ちはじめます。エンジョイワークスが和歌山県紀の川市で取り組んできたのも、まさにそうしたプロセスです。空き家の活用を起点に、拠点をつくり、人の流れを生み、地域の資源に光を当てる。その一つひとつの積み重ねが、「ここで何かをやってみたい」という空気を少しずつ育ててきました。
その中核にあるのが、粉河町の「紀の川三笠館」という場所です。大正期創業の旅館をリノベーションしたハコは、単なる宿泊施設(カフェ・サウナ)ではなく、人・モノ・体験が交わる“ハブ”として機能しはじめています。そんなこの場所から、もう一度、地域との関係性を編み直す取り組みが動き出します。その象徴となるのが、「つどいの実」マルシェです。
紀の川三笠館ウェブサイト https://mikasakan.com/ja/
「つなぐ」ことから始まったマルシェ
もともと2024年の終わりから、私たちは「こかわつなぐマルシェ」という名前で小さなイベントをスタートしました。地域の人と人をつなぐ。 外から訪れる人と地域をつなぐ。その名の通り、“つながり”を生み出すことを主眼に置いた場でした。実際に、昨年度は毎月開催し、顔の見える関係性は確実に増えていきました。出店者同士が言葉を交わし、来場者が何度も足を運ぶ。地域の中に、ゆるやかなネットワークが立ち上がっていったのです。

参加者も出店者も笑顔に。昨年1月のマルシェの様子(撮影:藤田智也)
一方で、続ける中で見えてきたのは、「つなぐ」だけでは届かない先があるということでした。関係性はポツポツと生まれている。けれど、その先の挑戦や経済の循環にまで踏み込んでいるかというと、まだ余白がある。つながったその先に、何が生まれるのか。もう一段の「解像度」が必要でした。そこで立ち返ったのが、紀の川市という土地の強みです。豊かなフルーツ。そこに関わる農家の存在。そして、それを活かそうとする料理人や事業者たち。この資源を軸に据え、「食べる・学ぶ・体験する」という3つの切り口でマルシェを再設計しました。

紀の川三笠館も「フルーツ染み出す地域拠点」としてリニューアルすみ。農家と連携した収穫体験イベントなども
フルーツを起点に、関わりをひらく
ただ買うだけではなく、味わい、知り、関わる。フルーツを入り口に、人と人、人と地域がつながっていく場へ。これまでの1年間で、出展者がテーマフルーツをもとに新商品を開発し、来場者がその背景にあるストーリーに耳を傾けるといった変化がすでに生まれています。農家と出展者、出展者同士の関係性も少しずつ育ち、子どもたちがワークショップを通じてフルーツに触れる光景も見られるようになりました。
この転換点で改めて向き合ったのが、「名前」でした。「こかわつなぐマルシェ」という原点を大切にしながら、その先にある価値をどう言葉にするか。現地スタッフや関係者が何度もブレストを重ねました。 つなぐ、ひらく、育てる、広がる——さまざまな言葉が行き交う中で、少しずつ輪郭を持ちはじめたのが、「つどいの実」という名前です。人がつどい、そこから何かが実る。その言葉には、「つなぐ」のその先が込められています。フルーツという“実”を扱う場であること。そして、関係性や挑戦が積み重なり、“実り”が生まれていく場であること。出展者にとっては、新しい商品や商いの挑戦。来場者にとっては、発見や学びの体験。 農家にとっては、自分たちの営みが新しい形で届いていく機会。それぞれの立場で生まれる小さな変化が、この場に蓄積されていきます。
「つどい」と「実り」を 育て続ける場であるために
さらに、「つどいの実」という言葉には、未完成であることを受け入れるニュアンスもあります。最初から完成されたものではなく、集い続けることで少しずつ実っていくもの。そのプロセスそのものを大切にしたいという意思です。実際に、これまでマルシェ運営を重ねる中で見えてきたのは、完璧さよりも“関わりしろ”の重要性でした。出展のハードル、来訪の導線、運営体制。改善すべき点は多くありますが、それらは同時に、関わる人が増える余白でもあります。
エンジョイワークスが紀の川市で目指しているのは、完成された仕組みを持ち込むことではありません。地域の中にある熱量や可能性を、場として編み直し、関わる人たちとともに育てていくことです。フルーツをきっかけに、人が出会い、関係が生まれ、小さな商いが動き出す。 その積み重ねが、「商売したいまち」「住みたいまち」へとつながっていく。
「こかわつなぐマルシェ」から、「つどいの実」へ。名前は変わりますが、目指しているものは連なっています。 ただ、“つなぐ”から、“実らせる”へと、さらに一歩踏み込んだもの。マルシェの再スタートは、単なるイベントの再開ではありません。人がつどい、実りが生まれ、その実りがまた次の誰かを呼び込む。そんな循環を、この場所からもう一度つくりはじめます。
紀の川三笠館Instagram https://www.instagram.com/mikasakan.kokawa/
EATLO KINOKAWAウェブサイト https://mikasakan.com/ja/eatlo_kinokawa/
JR粉河駅からこの一本道を北上するとたどり着くのか紀の川三笠館(写真右)。ここを、「つなぎ・つどい・実る場所」に育てていきます