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空き家・空き店舗が「まちの希望」に変わる! 鹿沼の未来を創るプレゼンテーション

Report 公開日:2026/04/14

駅の改札を抜け、広場で真っ先に私たちを迎えてくれるのは、高さ2mの巨大な赤い「いちご」のモニュメント。ここは「いちご市」…ではなく鹿沼市。舞台は、このまちの玄関口、東武日光線新鹿沼駅。このモニュメントが象徴する華やかさのすぐ傍らには、地方都市が共通して抱える「静かな課題」も横たわっています。

かつての賑わいを記憶の中に閉じ込めたまま、シャッターを下ろした店舗。時が止まったかのような民家。そんな「空き」が目立つ駅前風景を、ただの寂しい景色として終わらせるのか。それとも、まだ見ぬ誰かの「夢」を詰め込むキャンバスとして再生させるのか――。先月、これら空き家・空き店舗の新たな未来を描くイベントを実施しました。東武新鹿沼駅活性化協議会を中心に設けられたステージは、「かぬまるコンテスト」。登壇したのは、25組のチャレンジャーたち。「鹿沼の空き家をどう使い倒すか」を本気でプレゼンする。今回のコンテストがユニークだったのは、抽象的な「まちづくり」を議論するのではなく、実際に存在する「5つの空き物件」を対象にした点です。

赤いいちごモニュメントが特徴的な新鹿沼駅前(左写真)。そして、まちに点在する空き家や空き店舗(実際のプレゼン対象物件)

負の遺産を「まちの宝」に。5つのクセ強物件に挑む
戦前の風格を今に伝える重厚な「商家」、奥行きが50メートルもある、使い道に頭を悩ませる「超細長物件」、地図からこぼれ落ちそうな「路地裏の隠れ家」、駅前のポテンシャルを秘めたままの「駐車場」、生活の息吹きが残る「商店併用住宅」。事前に提示した物件はこの5つ。どれも、普通の不動産価値で見れば「扱いにくい」物件ばかり。しかし、登壇者たちの目には、これらは「攻略しがいのある宝箱」に映っていました。そのプレゼンテーションから見えてきたのは、単なる建物の修繕(リノベーション)の話ではなく、そこで「誰が、どう幸せに過ごすか」という徹底的なソフトのデザインでした。

◎街を「宿」に見立てる、新しい滞在の形
特徴的だったのは、宿泊を「施設内での完結」と考えない発想です。 例えば、あえて宿としての機能を絞り、食事は近所の定食屋へ、風呂は地元の銭湯へと宿泊客を街へ送り出す。宿がまちのコンシェルジュとなり、宿泊客が歩くことで地域の経済が回り、会話が生まれる。 「駅を降りて、いちごを見て終わり」ではなく、鹿沼の日常に深く潜り込むような、そんな「面」での滞在提案が非常に目立ちました。
◎次世代の「学び」が、街の血流を熱くする
「この街には何もないから、卒業したら東京へ行く」 そんな地方の定番のセリフを過去のものにしようとする、若者向けの拠点の提案もありました。高校生専用の放課後拠点といったアイデアは、大人が子どもに教えるだけでなく、子どもたちが自分たちでプロジェクトを企画し、地元の大人たちを巻き込んでいく「共創」の場にしたいというもの。 鹿沼の特産である「木材」をデジタル加工と掛け合わせ、遊びながら最新のテクノロジーを学ぶ。そんな「学び」を軸にしたコミュニティを作りたいー。それを「10年後の鹿沼を支えるリーダーたちを育む起点にしたい」。そんな意欲を込めた言葉からは、未来への確信が感じられました。
◎「使いにくさ」を「遊び」に変える、逆転の発想
会場を沸かせたのは「50mの細長物件」のアイデア。「重機であそぶ!つくる!なが〜い遊び場カフェ」という提案は、物理的な制約をそのまま「長さを活かしたプレイスペース」という最大の武器に変えていました。 ほかにも、児童図書館のある居場所づくり、50mのまちなかギャラリーなどなど、「部屋が狭い」「建物が古い」という欠点を、「だからこそ面白いことができる」と捉え直すプロトタイプ思考。この前向きなエネルギーこそが、停滞していた街に風を吹き込む鍵になるのだと、誰もが実感した瞬間でした。

登壇者全員のストーリーの提案を経て、会場を包んでいたのは爽快感と、そしてアイデアの多様性への驚きでした。なぜなら、すべての提案の根底には、テクニックを超えた「鹿沼への思い」があったから。築80年の商家の梁(はり)をあえて剥き出しにするデザインの提案には、先人が積み上げてきた歴史を「古臭いもの」として切り捨てるのではなく、現代のスパイスを加えて「誇らしい資産」として再生させたいという、郷土への深い敬意が溢れていました。

路地裏から熱狂を仕掛ける飲食店、フォトウエディングで地域の絆を記録する事業など。どの提案も「誰かが困っていること」を「ビジネスの種」に変えようとする、たくましさに満ちていました。

点から面へ。不動産利活用がつなぐ街の持続可能性
コンテストの最優秀賞は、雑草という厄介者をエネルギーに変える環境ビジネスのアイデアでした。特記すべきは、提案者が市内在住の中学生ということ!そして、最大の特徴は「個別の物件改修」を超え、街全体の回遊性や次世代の育成、資源循環といった「持続可能な仕組み」への視点でした。

最優秀賞を受賞した中学生の登壇の様子(写真左)。鹿沼市や金融の関係者、地元起業家が審査員に

イベント終了後、登壇者・参加者のアンケートでは、鹿沼を愛する皆さんの熱い想いが溢れていました。「自分では思いつかないアイデアに触れ、非常に刺激を受けた」「これほど鹿沼にコミットする人が多いことに驚いた」といった感動の声に加え、特に多かったのが「アイデアを形にするための継続的な支援」を求める声。「提案を単発で終わらせず、実現に向けて伴走してほしい」「異なるアイデアを組み合わせて、より強固なプランを練り上げたらどうか」といった具体的なアドバイスも多数寄せられました。登壇者からも「自分の事業を見つめ直す貴重な機会になった」という声があり、このコンテストが単なるイベントではなく、街の未来を創る「ハブ」や「きっかけ」として、大きな期待を背負っていることを再確認しました。また、審査員からは「まちづくりに最初から用意された『正解』はなく、自ら選んだ道を、努力して正解にしていくこと」の重要性、原点の「思考」に関する講評が多く集まっていました。さらに、今回生まれた多くのアイデアの「原石」を磨き上げるため、今後は異なる案同士を融合(ミックス)させる視点や新しいことにチャレンジする姿勢を激励する声もありました。

かつては負債と捉えられていた空き家の物理的制約を、逆に街のアイデンティティや遊び心へと変換するプロトタイプ思考は、停滞する地方都市の現状を打破する大きなヒントとなり得るもの。今回のコンテストは単なるアイデア募集ではなく、鹿沼の未来を担う「事業者候補の顕在化」の場でもありました。今後は、この熱狂を一時的なものに終わらせないための、次のステージへ。「点」のアイデアを「面」の賑わいへとつなげたいー。いちごのまち・鹿沼が、挑戦者たちの手で「持続可能な創造都市」へと進化していく物語は、まだ始まったばかりです。

鹿(のツノ)と丸で「かぬまる」のポーズ。会場内は不思議な一体感に包まれていました

◼️かぬまるコンテストウェブサイト
https://enjoyworks.jp/kanuma/

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