ENJOYWORKS TIMES

旧社宅を“共に育てる”拠点に!呉線・須波駅前で始まったJR西日本の新たな挑戦

Interview 公開日:2026/03/10

高度経済成長期、日本の多くの企業は、福利厚生の一環として社宅を整備してきました。特に1970年代から80年代にかけて、地方拠点や工場立地とともに大量に建設されています。その多くがいま、用途を終えつつあります。人口減少に加え、社員構成の変化や単身赴任の減少など企業側の事情も影響。老朽化した建物の維持管理、将来的な解体費の上昇といった現実的な課題も重なり、「空き社宅」は全国的な経営テーマになっています。

一方で、それらの建物は地域の中に立地しています。駅前や住宅地にあり、長年まちの風景を形づくってきた存在です。「社宅のこれから」は、企業の課題であると同時に、地域の問題でもあります。その前提に立ち、具体的に動き始めた事例があります。広島県三原市・須波(すなみ)。西日本旅客鉄道(JR西日本)では初の未利用社宅の地域活用プロジェクトです。
(取材:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)

「解体ありき」ではなく、活用の検証へ
現場は、瀬戸内海を望む広島県三原市、須波駅。JR呉線の駅から徒歩数十メートルという立地にあるのが旧須波社宅です。1974年に国鉄の宿舎として供用開始され、2020年に用途休止となりました。通常であれば、老朽化した社宅は解体・撤去し、土地ごと売却するのが一般的です。しかしこの物件は、道路が狭く線路に近接していることから、解体には相応の費用が想定されていました。

「処分する前に、活用の可能性を検証できないか」。そう考えたのが、今回のプロジェクトを担う内藤真也さん。元運転士として現場を知り、「せとうちDMO」に出向して、瀬戸田エリアなどで地域活性や地元プレイヤーの連携を手がけており、「地域プロデューサー」の肩書を持っています。今回の現場は、老朽化し、入居予定もない社宅。当初は解体・売却も含めた整理の対象であり、企業として合理的な判断が求められる局面でした。しかし内藤さんは、地域の人たちと対話を重ねる中で、別の可能性を感じ始めたといいます。ちょうど、三原市内では、移住者や若い世代による小規模な活動が始まっていました。「拠点があれば、挑戦が広がる」という声も聞こえてきた。「旧社宅は単なる余剰資産ではなく、活用次第で地域の拠点になり得るのではないか」――その視点が芽生えたそう。

車窓から穏やかな海の風景が広がる呉線・須波駅ホームの向こうに見える建物が社宅(写真左)。ここから見えるのが瀬戸内海の多島美(写真右)

対話から協働へ
そこでJR西日本が実施したのは、地元メンバーと自社の若手社員が同じテーブルにつくワークショップ。建物の使い方や管理のあり方、リスクの考え方まで率直に議論しました。企業が完成案を示すのではなく、地域の構想に社員が耳を傾ける。議論を重ねる中で、この場所は“処分対象”ではなく“共に育てる拠点”として検討する価値があるという認識が共有されていきました。机上の検討段階にあった社宅は、対話を経て実装段階へと移行していきます。

実装に向けて不可欠だったのが、受け皿となる主体の存在です。そこで地域側は、プロジェクトを継続的に担う組織として「まちづくり須波」を立ち上げました。代表を務めるのは、三原市の地域おこし協力隊員である三原一哲さん。設計士として関西地方で実務経験を積み、まちづくりや地域活性に携わりたい、と同じ苗字の三原市の協力隊に。旧社宅との出会いが自身の志向と重なったことを語ってくれました。まちづくり会社では、三原さんをはじめ、設計実務者や地元プレイヤーらが中心となり、建物の管理体制や事業スキームを整理。アイデアにとどめず、責任を持って運営する体制づくりを進めているところだとか。

今回立ち上がった「まちづくり須波」の構図。これも実践的な試み

須波エリアでは、若い世代や移住者による小さな起業が生まれつつある一方、活動拠点や交流拠点は十分ではないという課題があり、駅機能の縮小やローカル線利用の減少など、地域の“たまり場”が減っているという声もあります。旧社宅は駅至近という立地を活かし、クリエイターやアーティストの滞在拠点、若手プレイヤーの挑戦の場、地域イベントの開催拠点など、交流機能を持つ拠点化を目指しているそう。

検証という選択肢
ただ、建物の管理責任や将来的な撤去リスクは現実的な課題です。JR西日本は売却や無償譲渡ではなく、同社と約5年間の貸付という形態を採用。その期間中にサブリース(転貸)やイベント開催等を通じて事業性を検証し、継続性が確保できれば将来的な譲渡も視野に入れる仕組みです。企業側は即時処分をせず、一定期間を地域と「協働」する立場。地域側は事業化の責任を担いながら挑戦する。共同で検証しながら将来を考える――そのプロセス自体が、このプロジェクトの特徴です。

ワークショップにはJR西日本の若手社員も参加。新しい動きのなかで内藤さんが強調するのは、組織内の変化だったとか。鉄道会社には鉄道の安全を担う技術系社員が多数いますが、主な業務は鉄道インフラの維持管理です。こうしたスタッフが「まちづくりの現場に直接関わる機会はほとんどありませんでした」と振り返ります。人を運ぶことをなりわいとする企業が、「まち」への視点をどう持つか。今回の取り組みは、「企業の保有する不動産をどう扱うか」というテーマであると同時に、「社員が地域とどう関わるか」という問いを開いていくきっかけにもなったようです。

ワークショップのブレストを経て集まった地元の「仲間」たち。旧社宅を「ワクワク」に変えるプロジェクトがスタートしています

全国には用途を終えた社宅が数多く存在します。多くは解体・売却という「処分」が選ばれています。しかし立地や構造によっては、「活かす」という選択肢が合理的なケースもあります。須波の事例は、即時処分はせず、地域主体で事業性を検証する。一定期間を設け将来の譲渡可能性まで視野に入れる――その具体的な実践例でもあるのです。

東に西に、「社宅問題」に立ち向かう
私たちエンジョイワークスも、企業や自治体が抱えるストックを“処分”ではなく“事業資産”として再編集する取り組みを進めています。千葉県木更津市では、東日本旅客鉄道の旧社宅団地を舞台に、住まい機能だけでなく「たまり場」としての役割を組み込んだ再生構想を進行中です。こちらも、建物を直すことが目的ではなく、その場所にどんな機能を重ね、どんな関係性を生み出せるかを検証しています。社宅は企業だけの問題でも、地域だけの問題でもありません。企業と地域がリスクを共有し、ストックをどう次世代につなぐか。これらの事例は、その一つの挑戦となるでしょう。

須波と木更津で進む取り組みは、「企業の遊休不動産」を地域とともに検証しながら活かすという選択肢が現実に動き始めていることを示しています。こうした実装が各地へと波及すれば、社宅というストックの未来も、確実に変わっていくはずではないでしょうか。

JR西日本によるリリース(2/19付)https://www.westjr.co.jp/press/article/2026/02/page_30229.html
まちづくり須波Instagram https://www.instagram.com/share_tak_sunami/

エンジョイワークスがJR東日本と手がける木更津社宅のプロジェクトはこちら

全ての記事 Column (48) Feature Project (76) Interview (28) New Topics (74) Report (26) 数字で読むエンジョイワークス (11) 自治体共創 (35)

ENJOYWORKS TIMES

Follow us