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「空家等管理活用支援法人」制度は使える? “空き家対策を官⺠連携で取り組む”イベントをリポート

Report 自治体共創 公開日:2025/03/04

少しシンプルで、ストレートな質問です。「空き家」は誰のものですか?
その問いに正しく答えるとすると、登記上の所有者。でも相続などで所有者が不明な空き家も少なくありません。持ち主が適切に管理できないケースが多く、放置される空き家が増えています。この課題に対して、ほとんどの自治体が何らかの対策を講じています。もちろん、個人の所有物はあるのですが、例えば、老朽化による倒壊や放火のリスクがあり、地域における防災・防犯上の問題となります。また、景観の悪化や地価の下落は、地域経済にも影響を与えます。所有者不明や管理放棄のケースも多く、個人の対応だけでは解決が困難なため、行政が適切な管理を促進し、活用を進めることが必要となっているのです。

ただ、空き家問題の解決には、不動産取引や相続、税制、建築基準法・都市計画法など幅広い知識が必要です。そして自治体が専門知識を持った人材を十分に確保するのは難しいという課題もあります。そんな中で2015年に施行された「空き家対策特別措置法」によって、空き家の活用・流通促進のために民間のノウハウが不可欠となり、不動産会社やリノベーション企業と連携し空き家を再利用して市場に流通させる取り組みが進みました。「空き家バンク」などの仕組みが全国に広がったのもこの時期です。以降、空き家対策に関わるさまざまな法律が施行されていますが、そのひとつが、空家等管理活用支援法人の創設(2023年)。自治体が指定した法人(団体や民間事業者)が、所有者に代わって管理・活用を支援する制度です。

空き家の再生に関して、全国各地で自治体と連携した取り組みも実施しているエンジョイワークスは、国土交通省の「空き家対策モデル事業」の採択を受けて、の「空家等管理活用支援法人」について今年度、活用実態をリサーチしました。自治体がこの制度を導入するには、国の基準に基づいて適切な法人を選定し、指定する必要があります。ただ、適切な法人が見つからない、選定基準を設ける自治体側の負担が大きいといった新たな課題もあるようです。

制度開始から1年、「使える?」実態は…自治体と事業者からのレポート

私たちは、日本全国の市町村約110自治体からのアンケート結果やヒアリング結果を踏まえ、2月28日に先行事例や全国の自治体が抱えるハードルや悩みを共有するオンラインイベント「空き家対策を官⺠連携で取り組む〜空家等管理活用支援法人は使えるのか?〜」を実施しました。そもそも官民連携で空き家対策に取り組むにあたって、先進自治体は、官民でどのような役割分担をしているのか? イベントでは静岡県藤枝市(自治体)と岐阜県岐阜市(空家等管理活用支援法人)の事例を紹介しました。藤枝市では、空き家対策に意欲的な民間事業者を「藤枝市空き家ゼロにサポーター」として登録する事業を行っており、この発展形としてサポーターの2社を「空家等管理活用支援法人」に指定、相談から活用に向けて連携を始めたところ。今後は、市の実施計画策定にも事業者の知見を参考にしていく予定だと言います。また、事業者側の報告として登壇したのは、岐阜市にあるネクスト名和。同市で指定されている3法人のうちのひとつで、中古住宅の診断(ホームインスペクション)の実績も多い企業。市からは「空き家の所有者の掘り起こしをしてほしい」という要望(目的)を受けていて、シャッター商店街で所有者が手放す前にどのような活用手法があるのか提案をしていく――そんな事業に一緒に取り組んでいるそう。

第2部は紀の川市の「MIKASAKAN」から中継、同市職員とエンジョイワークスの彼末茂樹らが登壇

事例報告のあとは、ずばり「支援法人(制度)は使えるのか?」をテーマにディスカッション。ここからは、自治体から和歌山県紀の川市、民間事業者として、NPO法人空き家コンシェルジュとエンジョイワークスの担当者も参加。「自治体によって不動産が流通しづらいエリア、民間プレイヤーが動きづらいエリアにとっては選択肢になる」「(法人に指定する際)何に対して業務をするのか整理が必要」「指定したからと言って、機能するかは未知数」「空き家の種類や状態を仕分けする役割もある」といった意見が上がりました。また、どのような法人がいいのか?という質問では「プレイヤーとなる企業団体なのか、中間支援組織なのか、地域に合わせてカスタマイズしていくことが必要」と言った声もありました。

総務省統計局の2023年度調査によると、全国の空き家率は13.8%。地域による差はありますが、単純計算で7戸に1戸、向こう三軒両隣を見渡せば、必ず空き家があるということになります。一旦は空き家の状態になっても、有用に活用できる道筋があればいいのですが、単なる「放置」ではなく、経済的・法律的・心理的な要因が絡んでいるため、解決が難しくなっているのです。今回のイベントでも「所有者不明の空き家」「特定空き家」についても話題に上がりましたが、自治体だけではこれらの課題を抱えきれないのは事実。今後もこのようなセッションイベントを通して、自治体と民間事業者をつなぐ取り組みや実践事例などを発信していきたいと思っています。

(写真は)和歌山県内でエンジョイワークスが行った空き家視察の様子

参考:
□イベント告知ウェブサイト
https://hello-renovation.jp/news/detail/25767
□国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html

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