近年、近現代の建築物の解体や取り壊しが多く話題に上がっています。一帯の開発の余波を受けたもの、建物そのものの老朽化、相続で手放す…など、その要因はさまざまですが、そういうニュースを聞くと、「保存してほしい」「なんで取り壊すの?」と思うことも少なくありません。著名な建築家が手掛けたものだけでなく、地元に親しまれていた場など、地域の文化の一端を担ってきた建物を今の世代の人の手で終わらせてしまう。もちろんそれは避けたいでしょうが、「遺したい」という気持ちだけでは前に進みません。次のアクションが必要なのですが、そこには、大きく分けて「お金」と「制度」の問題があります。
近代の貴重な建築物が安易に取り壊されないようにするため、1996(平成8)年に国は有形文化財の登録制度を導入しました。再現することが容易でなく、社会的な評価を受ける間もなく消滅の危機に晒されている文化財を守るためのもので、今年9月の時点で14,141件の建物が登録されています。ただ、そういう制度がありながらも、修復費用の負担などもあり解体などを余儀なくされて登録を抹消したケースは、累計約280件にのぼっています。補助金など国や自治体の制度や優遇措置は各種ありますが、助成には割合があり(全額助成ではなく)、所有者(管理者)による資金調達が必要になります。通常の運営管理に加えて、維持するための計画策定など「これから」の現実にも向かい合わなければいけません。
寄付や出資…「お金」まわりの課題の解決策
神奈川県葉山町にある旧東伏見宮葉山別邸。築110年、近郊で唯一残っている皇族の旧別荘です。戦後、宗教法人によって修道院(研修所)として使われており、最近では演奏会などの会場として公開。白い外壁や緑青の屋根、海を臨む回り廊下などが特徴で、設計は宮内省内匠寮出身の木子幸三郎。館内には、東伏見宮や小松宮家の家紋を持つ家具も残っていて、2017年に国の登録有形文化財にも登録されました。幼稚園の敷地と隣接しており、園児や保護者、地元の方にも馴染みが深いのですが、「これから」を考えた際、宗教法人には維持管理の荷が重く、かつ建物の老朽化にも直面していました。解体と言う選択肢が浮かぶ中で、建築の専門家や地元のまちづくりNPOなどの有志が集まり、今年9月に一般社団法人La Casa Blanca Hayamaを設立。保全活動がスタートしたのです。
一社の活動の柱は、改修計画の策定とそれにまつわる「お金」の調達。そして、「守り継ぎながらどのように活用していくのか」というプランの構築です。エンジョイワークスは地元企業として、地元住民として、一社の事務局としてこのプロジェクトを動かす立場。建物の改修工事に入っており、肝となる「お金」の部分は、観光庁の補助金申請と併せて寄付の呼びかけをスタートさせました。すでに「改修の一助にしてほしい」と、地元の方から少しずつ寄付が集まっています。
さらに、私たちが手掛ける不動産クラウドファンディング「ハロー! RENOVATION」を使った「出資」による調達も始めています。出資を頂いた方は「投資家」となり、運用期間中、出資額に合わせて宿泊や終日利用の特典を用意しています。こうした建物改修の支援にクラウドファンディングを使う例は他でもありますが、私たちの「ファンド」には、「これからを見守り応援する」という深い意義があります。自分が投資した建物を(オーナーのひとりとして)改修後に利用することができますし、出資者に定期的にお送りする運営レポートで、どのような使われ方をしているのか知ることができます。「継続して施設に関わる人」を増やすこと、巻き込むことが大切だと思っています。
代表の福田もこう話します。「事業や場所、建物に思いのある人、応援したい人、企業でも個人でも共感のある『お金』のほうが、ずっと重みがあるし、意義もあると思う」。ある建築物の再生プロジェクトの発信に、こんな記述がありました。「建築の再生は、人の歴史・記憶・愛着・コミュニティを引き継ぐこと」と。今の価値を見出して、地域の人が「その後の未来」を見つけられる。改修後の利用開始は来年春。私たちは、「これから」のためにできることに、邁進していきます。
■「旧東伏見宮葉山別邸」に関する寄付の取り組みに関する紹介ページ
https://hello-renovation.jp/topics/detail/25022
■別荘文化や「葉山のこみち」などの継承や発信に取り組むNPO法人へのインタビュー記事