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“葉山らしさ”を見守る目線。「混ざりあい」のその先にあるまちづくり

Interview 公開日:2024.06.18

2005年に出版された『葉山のこみち』。“葉山らしい景観“を探して2000年代初め、町のなかをくまなく歩いて調べて、分布地図と写真と冊子にまとめたもの。2006年春には、町内にある戦前の建物の調査と聞き取りによる記録『葉山の別荘時代』も発行。これを手掛けたのが、NPO法人葉山環境文化デザイン集団だ。活動目標は「葉山に眠っているポテンシャルを見つけだし、それをリバリューすることで新しい葉山の魅力を創造する」――。同法人の5代目理事長を務める高田明子さんは、私たちも「あっこさん」と呼ぶ、葉山のお母さん的存在です。かつての葉山の原風景への想いや「これから」について聞きました。(聞き手:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)

――NPOの発足(2001年)から、23年経ちます。スタートの経緯と活動を教えてください。
きっかけは、2000年に葉山町が町民と協働で進めるプロジェクト「くれ竹の郷葉山」という構想でした。部会の活動として、歴史的建造物の保全と活用に関する調査・研究のほか、建物巡りツアー懇談会やシンポジウム、実験的な活用など、町民を巻き込んだワークショップを実施していました。その活動の終了後に、参加メンバーがこれを引き継いで、「葉山環境文化デザイン集団」を立ち上げました。私自身は葉山芸術祭のお手伝いをしているときに、この活動を知って仲間になりました。

さまざまな年代が参加する「こみちツアー」。同NPOがガイドし、運営はエンジョイワークスと大学生などのインターンが務めている

『葉山の別荘時代』という冊子を作った際は、とにかく町を歩きました。特にマップがある訳ではないので、外から見て、歴史的な建物だな、とか、戦前に建てられたものだろうとか、まさに足を使って調査と分析をしながら資料を作っていきました。そこで感じたのが、「別荘らしき建物に行きつくためにできた道」にも特徴があるな、と。別荘に住んでいる人しか使わないから名前もなく知られていない。でもそんな道を一歩入ると本当の葉山が見えてくる。これをまとめたのが2005年に出版した『葉山のこみち』なのです。裏道とか細い道…だけでなく、別荘文化に付帯する葉山にしかない景色。実は、この本の発行を喜んでくれたのは町の人たちでした。これは3版を重ねて、ひそかなベストセラーとなっています。ただ、その当時から20年経とうとしている今、開発もあって緑も減って、かつて歩いていたポイントもなくなっています。そこで「こみち」の魅力や町の姿をもっと若い人にも知ってもらうため、3年前に「こみちツアー」を改めて始めました。来年あたりにリニューアル版の『葉山のこみち』も出版できたらなと考えています。

――自然に囲まれていて、今も穏やかな印象の葉山町ですが、町民としてどんな変化を感じますか?
もともと東京の郊外で生まれ育ったのですが、湘南には幼い頃に親戚と貸し別荘に来たりしていて馴染みがあって。次女が学校に上がるタイミングで、子育て環境を求めて逗子に移住して、その後、葉山にやってきました。もう40年近くになります。当時は別荘建築もたくさんありましたし、今より棚田も広がっていて水脈も豊か。これが、私の記憶に残る葉山の原風景でした。ちょうど移住して住み始めた頃から、海に近い一色あたりの環境が変わってきて、緑が削られて分譲になっていって。ただ住んでいても周りの変化はあまり感じないかもしれませんが、こうしてまち歩きをしていると、気付きも多くあります。最盛期に500件近くあった別荘も企業の保養所になったり分譲開発されたり、多くが消えていきました。森山神社の近くにあった大きな別荘も料亭になった後、売却されて大規模開発が計画されていました。町の鎮守の森を守りたい、と地元の有志などが集まり、「音羽楼跡地開発を考える会」が立ち上がり、署名活動を展開。さまざまな尽力の末、参道沿いの緑を維持した賃貸住宅プロジェクトに変更されました。その際、敷地にあった小さな庭木を近所に配ったのですが、「土地の想い」を町の中に広げることも大切だと思っています。

もちろん、開発が悪いわけじゃないけど、マンションでも、もっと光と風が入るような設計ができるはずだし、土地を細分化しない開発にも可能性があると思います。この町で楽しく暮らしたいなっていうアイデアや相談を行き交わせて、つながって輪になる。私自身は、移住してきた「よそもの」なのですが、ここ最近は、この町で育った方が一旦外に出て、戻ってくるという現象もあります。とはいえ、もともとの「地の人」よりも「よそもの」のほうが増えていて、町の良さを外から来た人が発掘していってくれることも。地元の人も「そうだったよね」と再発見して広げていくという循環が生まれています。

葉山はもともと地産地消の食文化や地域コミュニティによる互助の文化が根付いている町。6つの村(地区)の特性やプライドみたいなものはしっかりあって、移住者が増えるとそれが薄まってしまうところもあるかもしれないけど、新しい切り口で評価されているんです。そんな、おもしろい「混ざりあい」が生まれていて、私もそのおかげで、若い世代の人たちと一緒に活動できているんだなと思っています。

――今、力を入れているのが葉山町にある旧東伏見宮葉山別邸(国の登録有形文化財)の保全ですね
ここは、活動の初期からまち歩きの調査でよく訪れていたのですが、この敷地にある幼稚園(あけの星幼稚園)の園児や保護者にしか知られていないような建物です。東伏見宮依仁親王の別邸として1914(大正)3年に建てられたもので、今年で、ちょうど築110年。関東大震災以前にさかのぼる町内の皇族別荘はここだけです。所有者のイエズス孝女会から、管理を続けるのが難しく解体もやむなし、という話を聞いて「私たちが守ります」と思わず口に出ていました。

白い壁がはっと目に入る通称「別邸」。エメラルドグリーンの屋根も特徴のひとつ

以前から老朽化を心配していたのですが、この白亜の洋館は、細部に当時のヨーロッパで最先端だったモダンデザインが施されていて、備品も残っています。その時代はどんなふうに暮らしていたんだろうとか、周辺はどんな様子だったんだろう、と思い浮かぶのではないでしょうか。宮廷洋風建築の雰囲気を保った唯一の遺構。町の中ではひとつの「点」にすぎないけれど、別荘文化という「面」で丁寧に伝えていくことが私たちの大きな役割だと思っています。

嬉しいことに、保存や保全を口に出していたら、さまざまな方面から関心の声を頂き、昨年10月に、保存利活用を目指す発起人会が立ち上がりました。どのような団体にするのか悩んだのですが、一般社団法人化して、所有者のイエズス会と賃借契約を結ぶ予定です。「組織を作って守っていく」という動きの中で、卒園生やその保護者、地域の方々にも声をかけていて、多くの人を巻き込んだ大きな動きにしたいと思います。

品の良い「日本の洋館」の佇まい。外廊下からは葉山の海が臨める

今はちょうど、今年の「湘南邸園文化祭*」の企画を練っているところで、大人も子どもも楽しめるイベントを考えています。葉山町も来年、町制100周年の節目。「こみち本」の改訂版の発刊など、やりたいこと・やらなきゃいけないことがたくさん。葉山はちょっと歩くと知り合いに会うし、良いコミュニティがある町。それをいろんな形でお伝えしていきたいなと思っています。

*湘南邸園文化祭は、湘南に残る邸園(邸宅・庭園、歴史的建造物等)を舞台とした、各地域のNPO等による催し。葉山でのプレイベントを経て2006年から始まり、今年で19回目。毎年9月から12月に開催されている
http://shonan-teien-festival.org/

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もともと、空間デザインの仕事をしていたという高田さん。学生時代からインテリアやファッションが好きで、バイヤーとしてイタリアへ行き来していたこともあったとか。娘さんも料理人としてイタリアで暮らしていたそう。「住んでいる人の暮らし方とかまちづくりが葉山と似ているな、と思って。三浦半島もイタリア半島と気候も形も似ていると言われていますし」と、話してくれました。「子どものころ、葉山公園から相模湾を見渡して、『地球が丸い』というのを実感したんです」。そんな葉山でのエピソードも。数々の葉山の「原風景」の記憶を辿りながら、「自分もまわりの人も楽しく幸せに暮らせるまちにしたい」と語る姿が印象的でした。

NPO法人葉山環境文化デザイン集団ウェブサイト
https://www.hayama-design.org/

旧東伏見宮葉山別邸LINEページ
https://liff.line.me/1645278921-kWRPP32q/?accountId=213jwejr

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