2019年、SNS分析会社による「インスタ映えスポットランキング」の全国3位になったのが、福岡県糸島の「#ジハングン🄬」。開設した2018年から2022年までの5年間で延べ150万人が訪れ、何もない駐車場に人を集める観光地に変えたのが、株式会社ブルースカイの貞末真吾さん。この春、横須賀市の野比海岸にて再び、「#ジハングン🄬」が始まろうとしています。そのアイデアのきっかけや、「シーサイドビジネス」の可能性について聞きました。(聞き手:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)
―そもそも、「アート建造物を海辺の駐車場に」というアイデアはどのように生まれたのですか?
実は、ジハングンの前に、福岡で「泊まれる立ち飲み屋」(ゲストハウス)をやっていたのですが、人は来るけどあまり儲からなくて(笑)。そんな時期に、福岡県西区と糸島市の境界に位置する「糸島エリア」で海に面した漁業組合の土地の活用について相談されて。昔、祖父母が地元(鎌倉)で海の家を営んでいて、自分も「海辺で仕事をしたいな」と何となく頭にあったので、喜んで手をあげたけれど、上下水道が通ってなかった、という顛末でした。そこで、友人のアドバイスもあってまずは駐車場にしようと。ちょうどその頃、マツダのライトバスを改造した「動くスナックアポロ号」というプロジェクトがあって、九州をこれで一周する中で仲間たちと(飲みながら)出てきたアイデアが自動販売機の設置でした。
ふと思い出したのが、地元の由比ガ浜で道路沿いに15台くらい並んでいた自販機。(糸島のこの場所は)何もない駐車場だから、いくつか並べれば「小さい商店」になるのではないかな、と考えたのです。ネーミングも自販機が立ち並ぶ「群れ」だから「ジハングン」で。これに「大きなブランコ」も加えて、かわいいスポットにしたい、と。福岡の作家さんに協力してもらって、自販機用の黄色い枠と南京錠を掛けられるフレーム、ブランコを設置することにしました。
そうは言っても、そもそも、ここを目的に来る人がいない中で、「自販機の需要があるのか?」と、業者の反応は思わしくなく、最初は付き合いで2台。2018年7月にオープンしたのですが、待てど暮らせど人は来ない。それが翌年の春休みになると、平日でも数十台の駐車で賑わう状況になっていたのです。5台の予定で自販機の黄色いデザイン枠を作っていたけど、空いてしまった3つの枠が、絶好のフォトスポットになっていました。
――まさに、アイデアの勝利ですね
鎌倉育ちなので、観光客がカメラを首に下げてさまざまな場所で写真を撮っている様子をよく見ていて、場所さえ作れば面白がってくれるだろうというイメージはありました。カフェのなかに写真スポットを作ってもそれほどインパクトはないし、「スケールの大きさ」で言えば、こんな自由にできるフィールドはない。「ホームランか?三振か?」という大勝負でしたけど、前例を作れたかなと思います。
――次の場所は、横須賀市の野比海岸です。出会いのきっかけは?
糸島の現地は5年の定期借家契約だったのです。会社にとっては駐車場運営の収益事業だったので、期限が来て「分かりました、じゃあ終わりにしましょう」とも言えない。続けるためにあれこれ動いていた時に福田さん(株式会社エンジョイワークス、福田和則代表取締役)に出会って、「福岡の面白い場所」として糸島を紹介して。僕は鎌倉出身、エンジョイは鎌倉の企業というつながりや、地域の自治体とさまざまな取り組みを実践しているということもあって、新たな設置場所として一緒に視察に向かったのが横須賀でした。
横須賀市内のさまざまな場所に足を伸ばしたのですが、その一つが野比海岸。やはり海見えは良い。鎌倉育ちから見ると海は当たり前の景色だけど、「海なし」の人から見ると大きな魅力になるのだな、と。改めて、横須賀を巡ってみて、「海見え」の可能性をビシバシ感じました。僕たちが、フットワーク良くスピーディに進められる場所を求めていたことに加えて、横須賀市さんがこの事業について面白がってくれているのも、大きかったのです。
――「シーサイドビジネス」の可能性がさらに広がっていますね
日本の海岸線を足したら、どれくらいの長さになるのだろう。過疎と言われる場所でも、コンテンツを作ることでそこが目的地になる、世界から人を呼び込めるスポットとなる可能性があります。ジハングンは無人で、地域を盛り上げることができる「仕掛け」の一つ。糸島のデータを取って見ると、実は大阪から訪れる人が多かった。「このロケーションを写真で残したい」「自分だけの“映え”写真を作りたい」。そう思わせるコンテンツ。そんな「わざわざ」行ってみたい場所を作るという可能性は、無限に広がっていると思います。
今回、海岸沿いにある駐車場の指定管理と一体で運営することになりますが、PFIやPPP(民間による公営施設の維持・運営・管理)に携わっている自治体職員(福岡市)の仲間にもアドバイスをもらいました。僕たちの事業はいつも、さまざまなプレイヤー・専門家が支えてくれていますが、そのアイデアの掛け合わせもまだまだ可能性があります。
――「遊休資産を使う」というアイデアは、ブルースカイさんの他の事業とも重なっています
今の事業に至るまでの道のりは、かなり「山あり谷あり」。大学卒業後、転職して父の会社に入社して、海外拠点づくりを進めていたところ、方向性が違ったのか追い出されてしまって(笑)。家も仕事もなく、以前、支店を作るために行き来していた福岡に流れ着いたのです。
ひとまず、生活していくために起業したのですが、きっかけは神社のお手伝い。自分が子どものころの神社は、遊び場だったし地域の人でもっと賑わっていたはず。でも今は、人付き合いが希薄になって、人が寄り合う神社が置いてけぼりになっている。そんなことを考えるうちに、「参拝のついでに写真を撮る」ではなく「写真を撮るために神社に行こう」となれば、賑わいもできるのではないか。そうして2014年、鳥飼八幡宮(福岡市中央区)の境内にスタジオを開設しました。福岡ではフォトスタジオの運営という本業があるのです。「写真」を起点に、新しい人の流れを古い場所や使われていない場所に作っていくという文脈は、ジハングンにもつながっていると思っています。
――「全国展開」の第一号がこの春、いよいよ横須賀で始まります。この先に描く展開は?
「海沿いの場所づくり」はまだまだ可能性があります。自治体を巻き込んだ公共の場の再開発や海沿いの宿泊施設など、次の展開も考えています。
糸島のジハングンは、もともと地元の漁協が所有する土地で「魚に関してはプロだけど、土地の使い方は専門外」という人からの依頼。プロダクトアウト型ではなくて、課題解決につながることを、とスタートしました。僕は自社を「リスクを取る企画屋」と表現しています。アイデアを一緒に考えてくれる、面白がってくれる仲間とともに、今後も、地域を盛り上げる仕掛けを作っていきたいです。
株式会社ブルースカイ ホームページ
http://bluesky2012.com/
「#ジハングン🄬」開設についての横須賀市リリース
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/5820/nagekomi/20240130jihangun.html