近年、「フィールドワーク」を取り入れている大学が多くあります。教室での「机上」の講義だけでなく、学校外(現場)での経験を通じて、学生が問題解決能力や応用力を身に着ける機会となり、実際の事業に携わることも。学校の「外」(民間事業者や団体、地域の人など)と大学生の「協業」は、学びのコンテンツとして貴重なものとなっています。
「まちづくり」に関わる私たちのいくつかの事業にも、参考になる題材があります。その一つが実際にこの夏、大学の授業としてスタートしています。2018年に神奈川県葉山町で始まった「泊まれる蔵」のプロジェクト。「The Bath & Bed Hayama」として開業して今年で6年、外国人にも人気の宿になりました。2022年からは、広告代理店の電通とタッグを組んで「The Bath & Bed Team」として全国展開。富山県や長野県、愛媛県、栃木県…とその土地ならではの「泊まれる蔵」が生まれています。これは単に「宿泊施設を作る」という事業ではありません。使い道がなく解体されることの多い蔵の有効活用から、宿を起点にした観光活性、日本独自の建築文化の発信…など、事業の持つ役割は大きいのです。
「町とつながる観光ビジネス」…地域活性×観光人材の育成も
これをテーマにした「観光プロジェクト演習」を開講したのが、国立大学法人の金沢大学。今年度から観光デザイン分野の定員を増やし、観光人材の育成を強化しています。その題材として取り上げられたのが、「泊まれる蔵」のプロジェクトでした。石川県では、観光関連業が重要産業として位置付けられており、演習の場を通して、地元経済の活性化への循環など、実践の場を通して学べる場を提供していきます。
演習のテーマは「町とつながる観光ビジネス」。観光事業や宿泊施設のフランチャイズの仕組みやコンセプト設定、資金調達といった知識から、教室を飛び出して、宿泊施設に適した「蔵探し」へ。私たちは「The Bath & Bed Team」の一員として、“先生”になって学生とともに、新たな「泊まれる蔵」を作っていきます。開講日の6月12日には、エンジョイワークス代表の福田和則も登壇して、街とのつながり方やファンドを活用した資金調達の手法などを解説しました。翌日は金沢市内で「蔵探し」のフィールドワークを実施。“加賀百万石”の城下町で、歴史のある町家や茶屋街が並ぶ金沢。歩いて巡って…魅力的な蔵にもたくさん出会えたようです。
今回の演習を担当する同大の堤敦朗教授は2023年に開設された先端観光科学研究所の所長。同所の設立の目的は、移動・共感・共有に関するサイエンスとしての観光科学を確立して、国内外の観光科学研究の国際的拠点とすること。北陸・金沢の地域資源を最大限に活用して観光のイノベーションを促進しながら、地域とともにサステイナブルな観光の実現に貢献する――という循環を描いています。その中で「蔵再生」は、絶好の教材。同大では、この講義以外にも、廃校を拠点とした観光まちづくりにも参画しています。
アイデアやテーマの提供など「外」からの参加で終わらせるのではなく、働き手・担い手不足という課題に対して、学生や研究者などさまざまな分野の人が運営にも携わることに意義がある――。このプログラムが、金沢で、さらには国内外で活躍する次世代の観光人材を発掘し成長させる機会となることを期待しています。
The Bath & Bed Teamウェブサイト
https://bathandbed.team/
株式会社電通によるリリース(6/12付)
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0612-010738.html
メールマガジン過去記事、「泊まれる蔵」はこうして始まった
https://enjoyworks.jp/times/025/
金沢大学観光デザイン学類
https://innov.w3.kanazawa-u.ac.jp/tourism_design/t_philosophy/