あなたが投資先を選ぶとき、何を見ますか。利回り、運用期間、リスクの低さ。判断の材料は数字に集約されることが多いと思います。わかりやすく、比べやすい。それは至って合理的な選び方。では、唐突ですが、横須賀市の丘の上にある廃止された旧市営住宅の再生プロジェクトに、269人が投資した理由は何だったと思いますか?しかもその投資家は、全国各地に散らばっています。
数字だけを見て選んだのであれば、もっとわかりやすい選択肢が他にもあったはず。華やかな観光地でも、利便性の高い都市部でもないその団地に、計2期のファンドで1億3600万円を調達しました。その「なぜ」を解くと、投資という行為の別の顔が見えてくるのではないでしょうか。
お金が集まる前に、人が集まっていた
横須賀市田浦。JR田浦駅から徒歩約10分、小高い丘を登った先に「旧市営田浦月見台住宅」はあります。平屋建て22棟58戸。かつて人々の暮らしを支えた公営住宅は、役割を終えて廃止となり、居住者がいない状態、つまり自治体の「空き家」でした。そして、この場所を所有する横須賀市と官民連携で再生に取り組んだのが「月見台住宅プロジェクト」です。ヴィンテージ&クリエイティブをコンセプトに掲げた「なりわい住宅」。住むだけでなく、商いをしながら暮らせる店舗兼住居として組み替える、新しい団地の姿を示しました。ただし、ものを動かすには資金が必要。リノベーションをするにしても、人が集まる仕掛けを作るにしても。ここで注目したいのは、「お金が集まった経緯」よりも前にある話です。
ファンドの募集が始まる前から、月見台には人が来ていました。2024年7月に初開催となった現地見学会以降、マルシェイベントなど、それらの参加者は延べ1,300名以上。ポツポツと入居の仮申し込みが入り、見学をしたいという人も続きました。荒れた状態のまま、まだ何も始まっていないこの場所に、です。ファンドへの投資は、この流れの延長線上にありました。見学会に来た人、メディアで知った人、誰かのSNSで見かけた人。それぞれが「この場所のことが気になっている」という状態から、「投資という形で関わる」という選択が生まれたのです。(利回りなどの)数字を評価して選んだというより、関わりたいと思っていたら、投資という入口があった。そういう方も、もしかしたらいるかもしれません。

場としての価値の組み替えによって求心力を0から生み出す。そんなプロジェクト
「参加型」の設計が、投資家を仲間に変える
1期ファンドは募集額1億円に対し131.3%の応募。入居申込率も、ファンド募集と並行して100%に。数字だけ見れば「人気プロジェクト」の一言で済んでしまったかもしれません。それよりも私たちが月見台で設計したかったのは、数字の先にある「関係」。それは、投資家特典の内容を見ると分かるでしょう。共用部の壁塗りや土間づくりのDIYワークショップへの招待。月見台オープニングフェスへの参加。1週間の無料お試し出店。横須賀市の歴史的建造物を巡るVIPツアー。そして、月見台のプロジェクトイラストをパッケージにした「よこすか海軍カレー」の提供。どれも「横須賀に来る理由」になるものばかり。多くの投資家にとって、ここはもともと縁の深い場所ではないかもしれません。市民でさえ知る人の少ない旧市営団地。だからこそ、物理的にその場所と接点を持てる機会を、特典として設計したのです。

DIY参加からイベント案内、そして月見台特製パッケージの「よこすか海軍カレー」といった投資家特典
DIYのイベントを例に挙げると、「投資した場所」が「自分も(つくることに)関わった場所」になる体験は、通常の金融商品では起きないかもしれません。これがエンジョイワークスの言う「参加型」のファンド。投資家は資金の出し手であると同時に、場所が育つプロセスを一緒に歩む仲間。特典は「おまけ」ではなく、その関係をつくるための設計なのです。
もう一つ、少し違う見方もできるかもしれません。月見台が「横須賀の問題」ではなく「日本中の問題」として受け取られたということ。廃止された公営住宅、使われなくなった建物、縮む地域。こうした課題は、特定の地域の話ではありません。どこかのまちで起きていることが、自分のまちでも起こりうるかもしれない、あるいはすでに起きている。月見台の再生に賛同するということは、このプロジェクトの手法に「意味がある」と感じたからではないでしょうか。
ハロリノの7年が積み上げてきたもの
エンジョイワークスが地域活性化クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION(ハロリノ)」を立ち上げたのは2017年のこと。最初のファンドは2018年、葉山の古い蔵を宿として再生する「泊まれる蔵」プロジェクトでした。当時から問い続けてきたのは、「資金調達」だけを目的にしないという考え方。プロジェクトが生まれた背景、地域の文脈、その先に描いている風景まで含めて共有したい。投資家とは、お金を投じる人であると同時に、その想いに共感し、ともに歩む仲間である——。その考え方は、最初の蔵のプロジェクトから変わっていません。
それから約7年。ハロリノに参加した投資家の数は、現在3,800人を超えます。月見台の269人には、この考え方が最も鮮明に体現されています。いま、不動産投資の選択肢は増えています。数字だけで比べれば、より効率的な選択肢は他にもたくさんあります。それでもハロリノを選ぶ人がいる。その理由を私たちはこう考えています。「何に投資するか」だけでなく、「なぜこのプロジェクトなのか」。誰が、どんな想いで地域に向き合い、どんな変化を生み出そうとしているのか。そのプロセスが見えることが、ハロリノならではの投資体験をつくっているのではないだろうか、と。
共感型ファンドとは、プロジェクトの時間を一緒に生きること。269という数字は、今もそこにある丘の上の場所と、全国に散らばる人々の間に、静かに張り巡らされた「共感の地図」の、現在地を示しているのです。

昨年10月に行われた「月見祭」の様子。人が行き来するだけで、まちの色も変わっていきます
月見台住宅*ウェブサイトhttps://tsukimidai.com/