唐突ですが、「文化庁」って何をするところでしょうか。現長官は、作曲家の都倉俊一氏(任期はこの3/31まで)。文化財の保護、芸術の振興、日本語や宗教に関わる行政……なんとなくそんなイメージはあっても、「まちづくりやビジネスとは少し遠いお役所」という印象を持っている方も多いかもしれません。ところが最近、この分野で文化庁が動き始めています。しかも、私たちの仕事ととても近いテーマ…日々向き合っている「空き家」や「遊休不動産」の価値の捉え方そのものに関わる話でもあります。
その経緯を少し遡ってみましょう。2023年3月に閣議決定された「文化芸術推進基本計画」の中で、「建築文化の振興」が重要施策として新たに位置づけられました。建物やまち並みを「地域の文化資産」として捉え、手を加えながら使い続けることで地域の魅力と経済活力をつなげていくーそういう取り組みを「建築文化」と呼び、国として推進していこうという方針です。建築を「守る」だけでなく「活用」する。国立建築文化センター(仮称)の整備、戦後建築の積極的な文化財登録、リノベーション推進を通じ、社会資産としての価値向上を図っています。そんな流れの中、3月6日に東京の国立新美術館で開催されたのが、「建築文化サミット〜まちづくり×ビジネス×デザインのシナジー〜」。まちづくり・ビジネス・デザイン、それぞれのテーマで実践者が登壇し、建築文化振興の「これから」を議論するイベントです。このサミットの「ビジネス」パートに、弊社代表・福田和則が登壇しました。
「お金に色がある」という視点
冒頭、「お金の話から始めましょう」という言葉で会場の笑いを誘った福田。「前のパート『まちづくり』の講演を聞きながら、ずっとお金のことが気になっていました。あれだけの取り組みを、どうやって実現されているんだろう」と実直な感想を述べるところからスタート。「対象が『建築文化』である以上、儲ければいいという話でもない。そして、お金に色はないとよく言われますが、実はあるんじゃないかと思っていて」と。この「お金に色がある」という視点が、今回の登壇の核心でした。
エンジョイワークスでは、遊休不動産の再生にあたって、地域住民や自治体と対話しながら「どう使うか」と「どうお金を回すか」を同時に考えるプロセスを大切にしてきました。さまざまな対話の積み重ねが事業計画になり、共感した人々が仲間として集まってくる。そんな受け皿として立ち上げたのが、自社運営の地域活性化ファンド「ハロー! RENOVATION」です。プロジェクトの企画から資金調達、再生工事、運営まで一気通貫で手がけるこの仕組みが、各地での実践を支えています。
エンジョイワークスの実践事例が示すもの
講演では、これまで手がけてきた事例を紹介しました。まず地元密着の小さなところから。鎌倉市が遺贈を受けた能舞台のある古民家(景観重要建築物)の利活用では、市のプロポーザル採択前から住民と「どう使うか」「どう稼ぐか」を一緒に考え続けた結果、企業利用や地域活動拠点として活用が進んでいます。改修にはこれらのブレストに関わった人たちが「投資」にも参加。4年5ヵ月のファンド運用期間を経て、運営も順調に進んでいます。
また、同じ住民参加型でも、少し異なるアプローチをとったのが葉山町にある、築90年超平野邸Hayamaです。「日本の暮らしを楽しむ実家」をコンセプトに対話を重ねる中で、「昼は集いの場、夜は使わないから宿に」というアイデアが地域から自然に出てきました。こちらもファンドを活用して資金調達して運営フェーズへ。当初のアイデアに沿って多くの方に利用されています。実は、相続で受け継いだ建物をどうすればいいか…という相談から始まったプロジェクト。開業後の2024年には国の「有形文化財」にも登録されましたが、知恵と投資で守り継いだ成果とも言えるでしょう。
一方で、建物の規模や歴史背景が変わると、巻き込む顔ぶれも変わります。平野邸と同じ葉山町の旧東伏見宮葉山別邸は、皇族ゆかりの建物ということもあり、建築家・地域団体・有識者を交えた一般社団法人を設立してチームを組成。補助金・ファンド・寄付を組み合わせた約1億円の資金調達を達成し、昨年6月から宿泊施設や記念日の場として稼働しています。スケールが大きくなったのが横須賀・田浦の市営団地(78戸)。築60年超、住民ゼロの廃墟状態だった丘上の平屋団地を「ヴィンテージ&クリエイティブ」のコンセプトで再生し、店舗兼住宅の集積「なりわい住宅」として復活させました。こちらもファンド・金融機関・自治体・国交省補助金という多層的な資金調達で事業化しています。
さらに、地元・湘南エリアを飛び越え、地域をまたいだ大きな仕組みづくりにも発展しています。香川県三豊市では、地元事業者が集まって「育てた」宿泊施設の建物をファンドが買い取ってリースバックする「ローカルIPO」を実現。個人投資家と大手企業であるJAL・JR西日本が同じファンドに並んで出資するという形が生まれました。
福田はこう語っています。「事業や資金の計画は、誰と、どういう思いの方と一緒に事業を実現するかの設計にほかならない。だから、お金には色がある」と。登壇の最後に紹介した大分県別府市のプロジェクトも、同じ思想の延長線上にあります。同市内に眠る1万2000軒超の空き家という課題に対し、「新湯治・ウェルネス」をテーマに空き家を中長期滞在施設として活用しながら、大手企業・地域金融機関・地元住民が小口で投資するファンドの新しいスキームによって「面的再生」を目指す構想です。文化財に限らず、「遊休不動産」をどのような視点で使い継いでいくか。そのための知恵や仕組み・仕掛けが求められているー。今回の登壇はその「実務者視点」を伝える場となりました。

私たちのプロジェクトには特典も。投資家が物件再生のDIYや改修後見学ツアーに参加したり。また、企業を巻き込んだ「IPOサミット」なども実施
パネルディスカッション――「建築文化振興法」という未来図
3分野の講演を締めくくるように行われたパネルディスカッションには、東京大学教授の加藤耕一氏、工学院大学教授の後藤治氏、株式会社オープン・エー代表の馬場正尊氏、READYFOR文化部門長の廣安ゆきみ氏が登壇しました。議論の下敷きになったのは「建築文化振興法」の制定といった、省庁横断的な法的枠組みの整備について。議論の焦点は、「建築文化をどう社会システムとして支えるか」にありました。
加藤氏は「再生によって不動産価値が上がることこそ建築文化の核心」と述べ、スクラップアンドビルドとは異なる都市の蓄積モデルへの期待を語りました。馬場氏は山形での旧小学校活用事例を示しながら「デザイン・マネジメント・ファンドレイジングの三位一体が重要。法的な枠組みがあれば行政も動きやすくなり、大企業の社内承認も格段に通りやすくなる」と指摘。廣安氏は「ステークホルダーのピラミッドとして資金調達モデルを組み直す必要がある」と提案しました。後藤氏は「一つの省庁だけでは絶対にうまくいかない。国交省・経産省・農水省が一緒に絡まないといけない」と締めくくり、建築文化の振興が文化の枠を超えた横断的な政策課題であることが浮き彫りになりました。
この「場」がある意味を考える
建築文化サミットのような場が持つ意義は、単に事例を共有することだけではありません。建築家、大学教授、自治体、金融機関、企業、そしてエンジョイワークスのような実務者・プレイヤー。それぞれが別々に動いていた点が、こういう場でつながり、「建築文化」というキーワードをもとに、共通言語が生まれていました。その最前線に、エンジョイワークスの「仕掛け」も確かにある。そのことを、静かに、でも確かな手応えとともに感じた一日でした。

当日は文化庁の「建築文化フェロー」の方々が登壇。当日の聴講は申込開始すぐ満員になる注目度でした
開催告知リリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001125.000047048.html
当日のイベントに関する「BUNGANET」による記事 https://bunganet.tokyo/summit2026/
*文化庁が今年度版として発行した「文化財保護のための資金調達ハンドブック」に、今回の登壇でも触れた「旧村上邸(鎌倉)」の再生事例が紹介されています。
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