日本有数の温泉地、別府。このまちは、観光都市として国内外から人を集め続けています。その一方で、「まちの暮らし」に目線を変えるとどうでしょうか。全国の多くの自治体が抱える課題、住宅ストックの老朽化(空き家)と人口減少に直面しています。詳しい数字を見ると、別府市の空き家率は約18%、その数は約12,000軒。空き家率の全国平均は約13%ですから、数字だけを見ればネガティブに映るかもしれません。しかし私たちはこれを、未活用資産の総量と捉えています。都市の中に既に存在しているストックであり、適切に再編集すれば機能を転換できるポテンシャルです。
エンジョイワークスはこれまで、歴史的建造物や遊休不動産を再生し、宿泊機能を組み込むことで地域経済に循環を生むモデルを各地で実装してきました。その中で体感してきたのは「宿は単なる滞在機能ではない」ということ。宿という拠点は、関係人口を育て、地域内消費を生み、まちに外からの接点をつくる装置です。短期の観光消費にとどまらず、地域との接触頻度を高め、再訪や二拠点化、さらには移住へとつながる動線を設計できる点に意味があります。
とくに重要なのは、それを一棟単位で終わらせないこと。点の再生ではなく、面的に広がるネットワークとして設計することに価値があります。単発の成功事例では都市構造は変わりませんが、一定数が連続すると回遊動線や消費行動が可視的に変化するのではないか?そんな仮説を立てました。これには、地域の動きも影響しています。別府市が推進する政策「新湯治・ウェルネスツーリズム」は、短期消費型の観光から滞在型への転換を示しています。この方向性は、私たちが実践してきた「空き家×宿泊」の分散型モデルと高い親和性があります。

まちを歩けば湯けむりがまとい、公衆浴場が点在する別府。温泉のある日常のポテンシャルを「まちづくり」にも活かすー自治体の施策も後押し
まちに点在する住宅ストックを滞在拠点へ転換し、温泉や商店街、飲食店、公共交通、日常の生活動線と接続させる。宿泊施設を特定エリアに集中させるのではなく、既存の市街地の中に分散配置することで、滞在者の行動は自然とまちへ広がります。結果として消費は面的に拡散し、特定スポットへの過度な集中を避けながら、既存の商圏に新たな需要を流し込むことができるのではないか。こうした考え方のもとで、その再生目標を、空き家総数の1%、「120軒」と掲げました。
宿展開のプロジェクト名は「TOJIHAUS」。娯楽も仕事も削ぎ落とした静寂の中で、ただひたすらお湯を浴び、身体の回復を待つーという、かつての湯治のイメージを現代的に再構築。中長期滞在を想定したリトリート型の宿として設計しています。この3月には、1号目の「TOJIHAUS」が開業。空き家をリノベーションした一棟貸しの宿泊施設が誕生します。改修では2階の一部を吹き抜けにして、1階の明るさを確保するなど滞在の快適性も考えた間取りに。今年中にあと数軒の開業を計画しており、2棟目ももう少しでお目見え。「海見え」「平屋」「広いお庭」「四方向、緑が見える」などなど、TOJIHAUSそれぞれに光るポイントが。空き家の持つ可能性、ポテンシャルに挑戦を始めたところです。
TOJIHAUS Instagram https://www.instagram.com/tojihaus_official/

1棟目は「柴石温泉」の近く。「普通の空き家」を中長期滞在の宿に
点から面へ。120の玄関がまちに開き、120の拠点が分散して機能することで、滞在の広がりが可視化されていくはず。120という数字は12,000軒のうちの1%に過ぎません。たかが1%とも言えます。でも、それは大きな1%になると確信しています。都市の構造は、全体を更新しなくても動き始めます。一定の転換点を超えたとき、滞在文化や経済の流れは質的に変化します。空き家が可視的に活用され始め、周辺物件の活用検討が進む。民間投資が呼び水となり、行政施策や金融の動きも連動していく。120軒は課題解決の完了を意味する数字ではなく、都市の流れを変えるための起点。12,000は別府の現実であり、120は私たちが設定した実装目標。空き家を問題として固定するのではなく、滞在インフラへと再編集する。その「されど1%」に向けて静かに積み上げていくことが、やがて大きなまちの動きにつながる。そんな未来をこのまちからも、発信していきます。
2026/02/24
2026/03/03