かつて、子どもたちの弾けるような歓声が響き、地域コミュニティの中心だった場所。そんな日本の原風景とも言える学び舎(学校)が、今、静かにその役目を終えようとしています。文部科学省の調査によると、全国で毎年約450校もの学校が廃校となっています。2023年までの20年間では約8850校(公立小中高)。都道府県別では多い順に北海道、東京、熊本、岩手と続きます。加速する少子高齢化という社会構造の変化に地域事情も重なり、学校の統廃合は避けられない現実となっています。
そんな「廃校」に近年、熱い視線が集まっています。文科省も「~未来につなごう~『みんなの廃校』プロジェクト」を立ち上げ、全国の廃校情報の集約・発信やイベント開催、事例紹介を通じて施設の有効活用を推進しています。地域の思い出を守りながら、いかに持続可能なビジネスモデルとして成立させるのか。今回、私たちはそのヒントを探るべく、先進的な再生事例を視察してきました。現場で目にしたのは、発想の転換と、地域における「場所の価値」のつくり方でした。
文部科学省~未来につなごう~『みんなの廃校』プロジェクト
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1296809.htm
「コスト」から「資源」へ——福知山市の決断
私たちが訪れたのは、京都府福知山市。人口は約74,000人、府北部の内陸に位置する北近畿最大級の商工業都市です。明智光秀が築いた城下町の歴史を礎に、現在は交通の要衝として工業団地や商業が集積しています。そんなまちの「廃校事情」ですが、2012年から2020年までの9年間で小学校16校が廃校となりました。1校あたりの年間管理費(除草、清掃、設備維持)は100万円単位。使われていないのに、市のお財布からは費用が出ていく状況。そこで同市では2019年を転換点に、廃校を「コスト」から「資源」と定義し直し、民間視点によるスピード感ある経営へと舵を切りました。現場で市長と事業者が直接対話する「マッチングバスツアー」を実施し、企業の投資意欲を喚起。さらに、行政が窓口を一本化し、事業者のニーズに合わせて無償貸付や用途変更などの規制緩和を柔軟に行ったことも大きな後押しとなりました。通常、行政の公募は「この施設でこれをやってください」という条件提示型ですが、「潜在的ニーズ」を掘り起こし、「やりたい」を「できる」に変える支援へと“攻め”に転じた結果、10校(10施設)が新たな場としてスタートしています。
福知山市の「廃校Re活用プロジェクト」
https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/soshiki/10/28852.html
そのうち、私たちが見学したのは3つの施設。最初に訪れたのは、THE 610 BASE。いちご農園とクラフトビール工場です。いちご栽培と体験農業を核に、「地域に人を呼ぶ事業をつくりたい」というアイデアが採用され、活用に至ったそう。山々に囲まれ、田畑が広がる自然豊かな環境の中にある旧中六人部小学校。校舎にはカフェや地域交流の場、校庭にはビニールハウスが。事業者は地元の電気設備資材卸会社で、地域農業の活性化やIT技術を活用した栽培など、さまざまな挑戦が詰まった場所となっていました。小学校の雰囲気を残しながら、今っぽくリノベーションされた空間はおしゃれで写真映えします。カフェでは生クリームたっぷりのいちごパフェやかわいいパッケージのクラフトビールなど、目でも楽しめる工夫が盛りだくさん。人口約700人の町に、多い年には1万人以上が訪れる観光スポットになっているそうです。

外から見ると、学校校舎だけど、室内はこんなクリエイティブな空間に。天井が高い学校施設だからこその開放感
続いては、旧佐賀小学校。この地で創業した菓子メーカー・足立音衛門が手がけるのは、オープンファクトリー(製菓工場)とカフェ、ショップです。創業地への回帰と里山の風景がブランドの世界観と重なることから、この地を選んだとか。製造・販売・交流が交差する拠点「里山ファクトリー」へと再生され、雇用と来訪者を生む場へとバリューアップしています。ショップには、空クジ無しで絶対に損をさせないというガチャガチャも。当たりクジには最高1万円のケーキも含まれていて、里山ファクトリーの名物となっているそうです。平日にも関わらず、カフェにはお客さんが途切れることなく訪れていました。

「里山ファクトリー」という名称がぴったり。地元企業の事業拡大に廃校という場所がスムーズに作用した形
そして最後は、旧天津小学校を地元の建設会社が公募を経て再生した「S-LAB」。校舎はコワーキングや研修機能を備えた拠点に、校庭は人工芝のサッカーグラウンドとして整備されました。イギリス・プレミアリーグのチェルシーFCが採用している人工芝を導入。小野伸二さんら元日本代表のサッカー選手もサッカー教室で度々訪れるなど、世界水準の環境で次世代のプレイヤーを育む拠点になっています。「地域に本格的なスポーツ環境を」という思いを起点に、スポーツ合宿や大会、企業研修も誘致し、“働く・学ぶ・鍛える”が交差する場へと転換されています。

グラウンド機能をアップデート。土地を探して造成して…というハードルはナシ。ここから未来のJリーガーが生まれるかも…
視察の様子はInstagramで発信中 https://www.instagram.com/p/DVQW0IUjAhc/
いずれも、市外や府外ではなく、地域の事業者が「思い」を持ってアイデアを市に提案し、実現した事例です。廃校がそうしたチャレンジの求心力の場となり、市外から人を呼び、新たな人流を産んでいることも印象的でした。
それでも、廃校には可能性がある
好事例をいくつか見てきましたが、実際のところ、いざ廃校の「その後」を考えようとすると、そこには非常に高い壁が立ちはだかります。単なる空き家やビルとは異なり、学校は地域の方々にとっての「心のよりどころ」であると同時に、広大で特殊な公共資産です。その圧倒的なスケールゆえに維持だけでも多額のコストがかかる一方、教育に特化した造りであるため民間への転用が難しく、法規制の制約も少なくありません。いわば、地域への愛着という「重み」と、遊休不動産としての「活用の難しさ」を併せ持つ、国内でも舵取りが困難なカテゴリーの一つと言えるでしょう。
また、立地条件も活用を難しくさせます。住宅街の中心にある場合は近隣への配慮が不可欠ですし、駅から離れた郊外であれば「人を呼び込む」という壁に直面します。まさに「活用を望まれながらも、活用を拒む条件」が並ぶストック。それが廃校です。ただ、これらのネガティブな条件も、見方を変えれば期待と希望が詰まった場所になり得ます。学校はもともと、地域住民にとって馴染みがあり、集まりやすい場所。特有の広さや設備、強固な構造は都市部のオフィスビルにはない魅力です。福知山市の事例のように「元学校」という非日常性や転用のおもしろさは、新たな話題性を生む可能性もあります。
地域に眠る大きな公共遊休不動産「廃校」。私たちエンジョイワークスもその「ストック活用」に関わり始めています。各地域の再生ストーリーに注目しながら、学校施設の第二章…この場所にしか生まれない可能性を、丁寧に形にしていきたいと考えています。
今回訪問した旧学校施設
THE 610 BASE https://fields-the-base.jp/
足立音衛門里山ファクトリー https://www.otoemon.com/satoyama-factory/
S-LAB https://www.s-lab.kyoto/