和歌山県紀の川市。この街の歴史を支えてきた老舗旅館「三笠館」が、いま、新しい役割を持って動き出しています。エンジョイワークスが、この場所を関係人口の拠点として再生させるプロジェクトを始めたのは2023年のこと。地域内外のプレイヤーが集う場として再定義し、翌年生まれた「紀の川三笠館」。宿泊とカフェ、サウナ、マルシェ拠点として、さらに昨年(2025年)秋、このまち最大の資源である「フルーツ」を軸に据え、その魅力を深化させるリニューアルを行いました。単なる「農産品」としてだけでなく、人々の生活や体験にフルーツを深く「染み込ませる」。その可能性を実際に肌で感じるための「モニターツアー」を1月下旬に開催。フルーツという資源が持つ真の価値の再見となった2日間の様子をレポートします。
畑と食卓をつなぐ2日間
Fruits to Table。「農場(畑)から食卓へ」を意味する「Farm to Table」のコンセプトを、特にフルーツに特化させた言葉です。今回のイベントはまさに、畑と食卓をリアルにつなげる体験。私たちが湘南で展開する「EAT+LOCAL」=EATLO(イートロ)。これにEducate(フルーツに関する知識を育てる、学ぶ)・Experience(フルーツにまつわる体験をする)を混ぜ合わせたプログラムを実施しました。初日のテーマは「はっさく(八朔)」。紀の川三笠館に集合後、赴いたのは、まつばら農園。柿やこれ以外の柑橘類も育てているそう。まずは、はっさくの特徴をレクチャーいただき、いざ収穫。丁寧に一つひとつ「袋づけ」されている柑橘は、まさに大事なお宝。こういう細やかな栽培が、おいしさ・美しさを守り続けているのです。もちろん、採れたてをその場でパクリ。「はっさくってこんなに甘いんだっけ?」、まず真っ先に思ったこと。雪がちらつく気候でしたが、皆さんの笑顔がそれを物語っていました。

農家さんのレクチャーを受けながら農園へ。収穫体験では自然と笑顔に。試食してさらに「いい顔」
ちなみに、皮剥き器の「ムッキー」の使い方の伝授も! 和歌山や愛媛などの柑橘類の産地ではメジャーな道具だそう。はっさくの分厚い皮もこれを使うと簡単に剥けて感動。こういう「産地ならではのコツ」とか、食べ方を知れるのも、特別な体験です。近くの粉河寺やフルーツを使った発酵ジュースのお店にも立ち寄り、歴史を学んだり地域の方との交流もできました。
今回のツアーは収穫体験だけではありません。「table」もしっかり用意。湘南で私たちが展開する「EATLO」のシェフ、avec café&deli HAYAMAの馬庭仁美さんを招いて、はっさくのフルコースを提供しました。柑橘と相性の良い魚料理を中心に5品。主役も脇役も務められるマルチタレントのような存在感に、私の中のはっさく感(!!)がガラッと変わりました。馬庭さんに聞いたところ、ジュース状に絞った残りの「かす」がまだ瑞々しくて、捨てるには惜しくなって、タルトの素材にも入れ込んだとか。余すことなく使ってまさに「まるごと」のフルーツ体験でした。
2日目のテーマ食材はいちご。こちらも生産者のハウス、川口ファームへ足を伸ばして収穫体験。今回は「まりひめ」と「よつぼし」という2つの品種を収穫させてもらいました。ハウスの中には甘い香りで満たされていて、それだけで幸せな心地に。「赤い宝石」を一つひとつ大切に採ってその場で口へ。甘みが強く、かつジューシー。まりひめは香りが甘く、味も優しい甘さ。よつぼしは濃厚で野菜みのある印象で、品種によってこんなにも味や香りが違うことに驚きました。濃厚ないちごがどんな料理になるのか試食にワクワク…!甘酸っぱさとフルーティーな香りがお肉との「マリアージュ」に最適とのことで、生ハムやカツレツに添えられたいちごたちを楽しみながら、さらにお酒との相性など想像も膨らむコースでした。今回は両日とも、農家さんも一緒にお食事をしましたが、お魚やお肉とフルーツを組み合わせた料理に驚きと刺激があったようです。デザートだけではないフルーツの可能性を感じられる時間となりました。

主役を引き立て、時にはメインに。ビタミンカラーに食欲もそそられます!
フルーツを「食べる」だけで終わらせない
両日とも、農家さんから素材(果物)の話だけでなく、紀の川の土壌や「ポテンシャル」までレクチャーいただき、参加者の「フルーツ解像度」も、ぐんと高まったようです。何よりも、地元の食材を余すことなく使った料理を囲んで、この場(紀の川三笠館)を楽しんでもらえてほっとしました。もちろん「食べる」だけがフルーツの醍醐味ではありません。収穫の体験もそうですが、香り、色、手触り、そして生産者の想い。それら全てが一体となって、心と体を満たしてくれる。これこそが、フルーツを生活に「染み込ませる」ということであり、私たちがこのまちで目指す新しい日常の姿なのだと確信しました。
日本におけるフルーツの位置づけ
「あなたにとって、フルーツとは何ですか?」
そう聞かれたら、何と答えるでしょうか?欧米諸国においてフルーツは「日常のビタミン源」であり、野菜の延長線上にある生活必需品。でも、日本人の感覚は大きく異なります。古くは「水菓子」と呼ばれたように、食後の口直しと言った存在。これは数字でも明らかで、日本人のフルーツ摂取量は、1日約93g(厚生省HPより)で、国外を見渡すとイタリアは約400g、アメリカの約300gと比べると、確かに存在感は違うのかもしれません。一方で、独自の進化もあります。季節を五感で愛でる「工芸品」、ハレの日を彩る「嗜好品」。緻密な糖度管理や「秒」単位の旬を見極め、宝石のように仕立て上げる。生産者が心血を注いだ「作品」とも言えるでしょう。近年の特徴は、断面の「映え」が特徴のフルーツサンドや大福、趣向を凝らしたパフェなど単なる素材としてではなく、まさにエンターテインメント。
そんな「フルーツ文化」が最も純度の高い形で結晶している場所。それが、和歌山県紀の川市。単なる「よく採れる産地」ではありません。10種類以上の主軸フルーツが一年中途切れることなく実を結び、柿の生産量では日本一を誇る、いわば「フルーツ王国」の心臓部。例えば、ふるさと納税の返礼品ラインナップを見れば一目瞭然です。紀の川市のリストは、まるで四季を網羅した果実のカタログ。初夏の「あら川の桃」を皮切りに、真夏には瑞々しい「シャインマスカット」、秋には「黒いダイヤ」と称される紀の川柿、冬から春にかけてはいちごやはっさくなどの柑橘、キウイフルーツ。その価値を一番知っているはずの場所で、それはあまりにも当たり前の存在として鎮座していました。
私たちは、この「当たり前」を「紀の川ならではの付加価値」へと再定義したい。そんな思いから企画したのが「Fruits to Table」のツアー。そして、これから”もっとフルーツが染み込む”体験を提供する「EATLO KINOKAWA」をスタートさせますl。この地で育まれる「作品」たちの輝きを、より多くの人に、より深く届けていきたいと思っています。ぜひ、紀の川×フルーツが気になった方は、紀の川三笠館へ遊びにきてください!

大正期創業の旅館の「味」を残しながらリノベーションされた紀の川三笠館。室内にも「フルーツ」の存在感
紀の川三笠館ウェブサイト https://mikasakan.com/ja/
当日の様子(Instagram)
https://www.instagram.com/p/DUFuS8qElTO/
https://www.instagram.com/p/DUIIte_kne3/
EATLO協力:avec café&deli HAYAMA Instagram https://www.instagram.com/aveccafedelihayama/
(レポート&撮影:エンジョイワークス コミュニケーションデザイン部・染川祐佳里、編集:佐藤朋子)

無人の「粉河駅」からとんまか通りを北に向かうと紀の川三笠館に。ですが、この大通りは日中も静かなシャッター街。ここをフルーツで染めたい!そんな野望も