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【めぐる、団地③】大阪・茶山台団地を歩く——“編み直す”から始まる、団地の再生

Report 公開日:2026/02/17

昨年11月、私たちは大阪を訪れました。目的は、全国各地で動き始めている「団地の今」を自分の足で確かめるための視察です。高度経済成長期に整備され、日本の暮らしを支えてきた団地はいま、大きな転換点を迎えています。老朽化や高齢化、空き住戸の増加といった課題が語られる一方で、「暮らしの場としての団地」を再定義する動きも少しずつ広がり始めています。

今回の目的地は、大阪南部の堺市南区・泉北ニュータウンにある茶山台団地。1971年に大阪府住宅供給公社によって建設・供給された賃貸住宅団地で、敷地には29棟・約987戸もの住戸が広がっています。5階建ての建物が並ぶこの団地は、最寄り駅(泉北高速鉄道「泉ヶ丘」駅)から歩いて10分ほど。同じエリアにはURの「泉北茶山台団地」もあり、一帯は丘陵地の地形を活かしたゆったりとした環境です。

外観や案内板…まさに「THE団地」。街区にはこんな手作りの道しるべも

はじまりは「団地はどのような場所であるべきか?」の問い
駅から団地へ向かい、住棟のあいだを歩き、広場を抜ける。そのプロセスのなかで感じたのは、過度につくり込まれた「開発された場所」ではなく、暮らしの延長線上にある自然な人の気配でした。そんな茶山台団地も全国の団地が抱える課題と縁がないわけではありません。この団地の次のステップとなったのが、竣工から40年を超えた2015年、大阪府住宅供給公社が設立50周年を迎えた際に立ち上げた「コーシャミライカイギ」。これからの50年を見据え、「何のために団地を運営するのか」「社会にどんな役割を果たすべきか」を改めて議論し、問い直す中で、ここが目指す「在り方」を整理できたと言います。

この議論から生まれて実現したアイデアの一つが、「茶山台としょかん(まちライブラリー)」。使われなくなっていた集会所を、本を介した交流の場として再生する試みでした。運営は住民主体、公社はサポートする立場で伴走。団地という空間で地域コミュニティを編み直す第一歩となりました。「茶山台としょかん」をきっかけに、団地内では次の動きが連鎖的に生まれていきました。使われなくなっていた住戸や共用空間が、単なる空きスペースではなく「何かを始められる場所」として捉え直されていったのです。原状回復義務を免除したDIY可能住戸の導入や、工具やノウハウを共有する「DIYのいえ」は、住民が自らの手で住まいをつくり、互いに教え合う関係を育ててきました。さらに、空き住戸を活用した「やまわけキッチン」では、食を通じた日常的な交流が生まれ、団地の中に自然な居場所が点在するようになっていきます。2戸を1戸として使う「ニコイチ住戸」など、住まい方そのものを更新する試みも進み、団地は「与えられた住環境」から「関わりながら育てていく場」へと変化していきました。

大阪府住宅供給公社による広報誌。クリエイティブからも明るさが滲み出ています

「主役は住民——“やってみたい”から始まった運営のかたち」
これらの取り組みが“特別な人たち”だけのものになっていないのが、ポイントでもあるでしょう。企画し、動かし、場を使いこなしているのは、まさに住民たち。「茶山台としょかん」では、本の管理やイベントの企画、日常の運営を住民が担い、誰かが来れば自然と声をかけ合う関係に。「DIYのいえ」や「やまわけキッチン」でも、使い方を決めるのは運営側ではなく、そこに集う人たち。必要に応じてルールをつくり、試し、また変えていく。そのプロセス自体が、この団地らしい自治のかたちになっています。公社や運営事業者は前面に立つのではなく、環境整備や調整役として関わるのみ。主役が住民であるという前提が、団地の日常として根付き始めているようです。

取り組みを発信する「新聞」も定期発行。住民やこの団地に関わる人たちのコミュニケーションの温かみが伝わります

仕組みよりも関係性——続いている理由が見えた現場
視察のなかで印象的だったのは、これらの取り組みが「特別な活動」として語られていないこと。運営や仕組みについても、完成形を目指しているというより、その都度話し合い、少しずつ調整しながら進めている様子が伝わってきました。うまくいったこともあれば、やってみて合わなかったこともある。それでも立ち止まらず、団地の中で対話が続いていること自体が、この再生における現在地なのだと感じています。団地再生は「プロジェクト」ではなく、「暮らしの一部」として息づいていました。人と人が交わり続ける限り、この団地はこれからも更新されていく——そんな確かな手応えを持ち帰る視察となりました。

団地の再生は、建物を新しくすることだけではありません。現代のライフスタイルに合わせて、暮らしのなかにある関係性を、どう育て、どう次につないでいくのか——。茶山台団地は、その問いに対する一つの、静かで力強い答えを示しているように感じています。

壁にアートを施した集会場(写真左)、お惣菜屋さんの「やまわけキッチン」はコミュニティの場に、さらにDIYに使える資材が集まった一室も

茶山台新聞ウェブサイトhttps://chayamadai.com/
大阪府住宅供給公社団地再生プロジェクト 響あうダンチ・ライフ

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