千葉県の木更津市。県の中西部に位置し、東京湾を横断するアクアラインの東の玄関口として知られる港町です。そんな町の中心部にあるJR木更津駅東口から徒歩5分。内房線と矢那川が交差する場所にあるのが、JR東日本木更津社宅。老朽化によって利用されていない1棟を、「住む・働く・支える・育てる」を一体化した複合住宅「なりわい住宅『KISS』」として活用する計画が進んでいます。昨年10月に続いて、2回目となるワークショップが1月18日に開催しました。この建物をどんな場所にしていきたいか?ー地域のリアルな声を出し合い、未来の駅前の姿を考えたイベントをレポートします。
(取材・撮影:エンジョイワークス コミュニケーションデザイン部・染川祐佳里 )
今の社宅のリアルを見て、妄想を膨らませる!
まず、最初の私の「驚き」は、想像以上に人が集まったこと。そして、集まった人たちの「木更津愛」とも呼べる熱量。「リアル」な現場から何が生まれるのか、その「芽」を感じるワクワク感から始まりました。ワークショップ会場はJR木更津駅東口にある駅の図書館「FLAT」。一箱本棚オーナー制で運営されていて、高校生や子どもたちが自習室や待合室として利用している施設です。当日集まったのは、大人から子どもまで幅広い年代の方々。木更津の地域おこしや空き家再生に関心のある方だけでなく、「誘われておもしろそうだったから」とフットワーク軽く、顔を出してくれた人もいました。
プログラムは、今回の「舞台」であるJR木更津社宅の見学からスタート。内房線の線路沿いを歩き、現地へ向かいます。この日はよく晴れていて陽射しも温かく、ちょっとした遠足のような気持ちになりました。参加してくれた子どもたちも楽しそう。駅から徒歩5分、まっすぐな道のりなのであっという間に到着しました。現地…は、いたって普通の社宅団地。現在は貸し駐車場となっている広場の片隅には、使用禁止のロープで囲われたブランコがありました。かつては、この社宅や近所の子どもたちが遊んでいたのでしょう。再び、ここに人の声が戻るといいな、と賑わいを妄想しながら社宅の建物へ。こちらは5階建て、隣り合う2戸で1つの階段を共有する「階段型」と呼ばれる造り。現段階の構想では1階に店舗、2階以上は職住一体の「なりわい住宅」として活用するプランを描いています。

外観は少し「古びた」団地ですが、中に入ってみると、意外と空間が広々。ダイニング上の天袋も日本の間取りならでは
室内は和室が3部屋に台所、風呂、トイレ、物置というベーシックな「団地」の間取り。ペンキが剥げたり、畳がたわんでいたり、天井が低かったりと経年の劣化と古さが感じられる一方で、家族で住んでも充分なゆったりとした広さです。参加者からは「レトロさに味がある」「簡単なリフォームで住めそう」と意外とポジティブな声も。子どもたちは押し入れが珍しいようで、中に入り、かくれんぼを楽しんでいました。「古くて新しい」。団地はそんな存在なのかもしれません。
そして私だけでなく、参加者がみんな感じていたであろうこの社宅の魅力は、陽当たりの良さと景観。前述した通り、線路と川に面しているためベランダからの眺めはもちろん、陽を遮るものがありません。照明をつけなくても充分に明るく、ぽかぽかしていて温かい。南側の窓からは穏やかな矢那川が見渡せる「抜け感」が気持ちよく、北側は停留している電車が見え、子どもたちも興味津々です。ただ、ここで気になるのが、階段。「エレベーターがないため上階に住むのは大変かも」という意見もありましたが、この景色なら、毎日の運動と思って頑張れそうです。参加者のみなさんは、手元の資料と実際の建物を見比べながら、改修後のイメージについて積極的に質問していました。もし自分がここに住んで商いをするなら─「リアル」を知ったことで、より具体的に妄想できたようです。

窓などの開口部が大きいので、とにかく明るくて暖かい。川や線路が目前に。「社宅」とあって立地は◎
ワークショップは大人も子どもも垣根なく意見を出し合う場に
ひととおり物件をぐるっと巡って、会場である駅の図書館「FLAT」に戻り、本題のワークショップへ。現状の課題や計画案を共有したうえで、実現の可能・不可能に関わらず自由な視点から「どんなお店があったらいいか?」を提案し合いました。
参加者のみなさんから出てきたアイデアはとても幅広く、本屋、シェアハウス、セレクトショップ、銭湯、サッカー場、うどん屋、駄菓子屋、バー、DIYスペースなどなど。場所をシェアして昼と夜でお店を変えてみてはという利用方法の提案も。大人はもちろん、子どもたちも積極的に意見を出してくれて、活発な意見交換の場となりました。利用者層のイメージもブレストしましたが、子どもが遊べる「屋内ジャングルジム」や、高齢者が映画を楽しめるミニシアターという提案も。共通していたのは、この場所を世代問わず「人が集まる場所にしたい」という想い。子育てから文化発信の拠点に至るまで、さまざまなニーズがあることがわかりました。

参加者の熱気で溢れていたワークショップ会場。間取り図面から妄想しながら、活発な意見が飛び交いました
「たまり場がほしい」。
これは、ある参加者さんの言葉です。目的がなくても“ふらっ”と立ち寄って、居合わせた誰かと話したり、交流が生まれる場所。ここだけでなく、そういった「たまり場」が駅の周りにいくつかできれば、もっと木更津が盛り上がるのではないか。参加者の多くが、共感するように頷いていたのが印象的でした。
未来のワクワクをここから
JR木更津駅東口周辺は居酒屋が多く、大人も子どもも立ち寄れる場所はそう多くありません。夜に大人がお酒を楽しめるお店はあっても、子どもが塾終わりや学校帰りに、電車が来るまでの「1時間」を過ごせる場所は少なく、寒い中、道端で時間を潰す子も多いと聞きました。実際に、ワークショップ会場の「FLAT」もそんな需要があるそう。もしも、駅近に大人も子どもも気軽に行ける「たまり場」がいくつかあれば。年代を超えた交流が生まれることで、この土地を好きになってくれる子ども、これからの世代の人たちも増えるかもしれません。
エンジョイワークスが大切にしているのは、遊休不動産そのものの再生ではなく、そこから生まれる「つながり」。箱を整えることに留まらず、たくさんの人が関わり、つながることでまちは再生していくと考えています。地域おこしや空き家再生に興味のある方だけでなく、おもしろそうだったからと気軽に参加した人たちも垣根なく意見を出している姿に、木更津という場所、そしてここに住む人の「まちへの思い」を改めて感じました。
あのブランコが遊び場であった頃のように、JR木更津社宅に子どもも大人も集い、活気が溢れる日はそう遠くないーそんな未来の「ワクワク」を感じる一日となりました。

終了後、駅前周辺から撮影散策。木更津駅の乗降客数は1日24,000人くらいとのこと。停車の時間以外、東西の駅出口はちょっと閑散とした雰囲気(ちなみに駅前に狸のモニュメントがあるのは、證誠寺(の狸囃子)が由縁だそう)
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