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【めぐる、団地②】「最も合理的なインフラ」としての団地活用——介護がつなぐ地域コミュニティ

Report 公開日:2026/02/03

国内のどのまちにも点在し、かつては憧れの住まいだった団地。しかし、開発から半世紀が過ぎ、多くの団地は高齢化の象徴とされ、物理的な老朽化とともにコミュニティの希薄化が課題となっています。いま私たちが問い直すべきは「団地の寿命」ではなく「団地の可能性」かもしれません。効率的に設計された住棟、豊かな共用スペース、そして人々の適度な距離感。これらは、現代の社会問題に対する「解」を導き出すための、最強のインフラになり得るのです。

そんな団地の「現在地」と「可能性」を探る旅の第二弾。舞台は、藤沢市の湘南ライフタウンと呼ばれる団地街区です。そこで出会ったのは、デンマークの教育学者の名前を由来とする介護福祉事業者「ぐるんとびー」。相互扶助を最大化するための「インフラ」として団地を捉え直す、彼らの取り組みと思いを聞きました。

「暮らし」の場所だからこそ、価値がある
団地は言わずもがな「住む」場所。つまり「住居専用」として契約・管理されており、個人事業主のオフィス利用や小規模な事務所利用を除けば、そこで「事業」を営むことは想定されていません。大規模な団地群では、1階・2階にスーパーや郵便局、理髪店など、住民が「お客さん」として利用するショッピングセンターや、デイサービス、地域交流拠点が設けられている例もあります。とはいえ、それらはあくまで団地内にある「施設」。住民が暮らす住区そのものに事業が入り込む形は、ほとんど前例がありませんでした。

そんな中で、重い扉を開いたのが、「ぐるんとびー」の菅原健介代表です(*冒頭の写真左、右は視察に訪れたエンジョイワークス福田)。福祉の世界に身を置きながらも、「施設の外にこそ本当のケアがあるのではないか」と考え続けてきたと言います。そして2015年、UR賃貸住宅「湘南ライフタウン・パークサイド駒寄」の居住区画の一室に、「日本の団地では初めて」となる小規模多機能型居宅介護事業所を開設しました。その背景には、意外な原体験がありました。

原点は、被災地で見た「おせっかい」
きっかけのひとつが、東日本大震災の被災地での活動。菅原さんたちは石巻や気仙沼に赴き、現地コーディネーターとして支援に奔走する中で、ある決定的な事実に直面したと言います。それは、行政や「制度」による公的支援だけでは救いきれない課題が、現場には無数に存在するという現実でした。一方で、平時から「おせっかい」をし合うような地域のつながりがある場所では、困難な状況下でも人々が自律的に支え合っている。この経験が、「特別な施設」ではなく、日常の「暮らし」の中にこそ真のセーフティネットが必要であるという考え方につながったそうです。そして、その受け皿として思い浮かんだのが、すでに人の暮らしが重なり合い、関係性の土壌がある「団地」でした。菅原さんがデンマークでの学生時代に触れた「福祉はみんなの暮らしを支えるもの」という思想も、日本の被災地での原体験と結びつき、既存の住環境を活かした新しいケアモデルの模索へと踏み出していきます。

団地全体を「大きな一つの家族」に
彼らが選んだ場所は、藤沢市の巨大なUR賃貸住宅の6階、ごく普通の3LDKの一室。通所(デイサービス)や泊まり(ショートステイ)、訪問(ホームヘルプ)を担う、小規模多機能型居宅介護の拠点です。団地の一室に介護という「機能」をインストールすることには、大きな意味がありました。それは、介護を特別な隔離されたサービスにするのではなく、日常の延長線上に置くこと。住み慣れた場所で、最期まで暮らし続けられる——団地の可能性を、この一室から証明しようとしたのです。

約300戸の団地の一室。「居宅介護施設」の入口は、普通の団地玄関でありながら利用者を迎え入れる工夫も。室内は「施設」といったよそよそしさはなく、家に居る感覚

「孤独を解消し、最後まで住み慣れた場所で生き抜くための、最も合理的なインフラ」。菅原さんはそう語りますが、「今までにない事例」であるがゆえの苦労は少なくありませんでした。前例のない事業者の参入は、既存コミュニティとの間に「勝手に入ってきた」という摩擦も生みました。それでも菅原さんたちは、スタッフや家族とともに団地に移り住み、自治会活動や地域の困りごとに、「住民の一人」として関わり続けています。さらに現在では、この一室にとどまらず、団地エリア内で放課後等デイサービスや関連する福祉事業も展開。高齢者から子どもまで、多世代を支える機能が点ではなく「面」として団地に重なりつつあります。

団地の近くの集合住宅1階にも居宅介護施設を展開。近所の子どもたちが遊ぶスペースも

「おせっかい」が境界線を溶かす
「団地ができることとは何か?」。その答えは、スマートな管理システムの中ではなく、他者の煩わしさを引き受け、時には怒鳴られながらも、つながりを諦めない人間らしい営みにありました。ゴミ拾いから祭りの運営、制度の隙間に落ちた孤独な住民への介入まで。泥臭い「おせっかい」を続けるプロセスは、いつしか事業者と住民の境界線を溶かし、「頼れる隣人」へと関係性を変えていきます。この信頼構築の積み重ねこそが、団地を単なる集合住宅から、互いに生を支え合う「地域家族」へと変貌させる鍵となっています。

この「団地×事業者」の共存モデルは、極めて現実的な社会課題への解でもあります。高額な介護施設に入るのではなく、住み慣れた団地で、必要なときだけ隣室のケア機能を利用する。事実、この場所では「団地内看取り率100%」という驚くべき数字を達成しています。顔の見える距離にケアがあり、日常の延長として関係性が積み重なってきたからこそ可能になった結果です。特別な施設を新たにつくるのではなく、すでにある住環境に必要な「機能」を重ね合わせる。ぐるんとびーの取り組みが先進的なのは、介護という社会課題を、制度やサービスの外側から捉え直している点にあります。

ぐるんとびーウェブサイト
https://grundtvig.co.jp/

ぐるんとびー代表の菅原さん(写真左)。団地×介護からスタートし、「団地のある地域」×介護へとシームレスにつながっています

問い直される、私たちの「共存」
団地を「住むだけの場所」から、人と人がゆるやかにつながり、支え合うための生活インフラへ。事業者でありながら、あくまで一人の住民として団地に入り込み、時間をかけて信頼関係を築いてきたこのモデルは、人口減少や高齢化に直面する全国の団地にとって、ひとつの希望の形と言えるでしょう。「団地に何ができるのか」。その答えは、最新のテクノロジーや大規模な再開発ではなく、日常の延長線上にあります。かつて「大量供給の住まい」としてつくられた団地は、いま再び、人が生き抜くためのインフラとして更新され始めています。団地という「ハコ」を、暮らしに根ざした「機能」で再定義する試みは、これからの住まいと福祉、そして地域のあり方そのものを、静かに問い直しているのです。

(取材:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)

「めぐる、団地」連載の第一回はこちら
住宅改良公社(あしたの賃貸)による、ぐるんとびーの取材記事
◼️寛容な社会への扉を、福祉という装置で開いてゆく 株式会社ぐるんとびーの挑戦(前編)
https://ashitanochintaipj.com/project/detail.html?id=78c12v7jnnk

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