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時代を超えて——「泊まれる文化財」を未来をつなぐ旅の主役に

New Topics 公開日:2026/02/03

旅に求めているもの。それは日常からの変化や時間を忘れて過ごせる余白、その土地ならではの空気感。観光地を巡ること以上に、「どんな場所で、どんな時間を過ごしたか」が、旅の満足度を決める時代になっています。そのなかでも、こだわりの一つとして挙げられるのが「どこに泊まるか」かもしれません。

近年、宿泊先は「寝る場所」から「旅の目的そのもの」へと、その役割を大きく変えつつあります。じわじわと広がる宿泊体験のトレンドのひとつが、歴史的建造物や古民家に泊まる「文化財宿泊」です。今年の開業で注目されているのが、旧奈良監獄を活用したホテルや京都の国登録有形文化財「弥栄会館」の一部を保存・活用したホテル。他にも「CASTLE STAY」と名付けられた城泊、古民家群を再生した宿泊施設も密かな人気だとか。単純な宿泊ではなく、建物そのものが語る時代の空気や人々の暮らしの痕跡を感じる体験が伝えるのは、「泊まることで価値を更新する」という文化財保全の次のステップでもあるのです。

文化財が「泊まれる場所」になる意味
文化財建築は、日本の風土や暮らしの思想を物語る貴重な資産です。ただこれまでは「保存すること」自体が目的とされてきました。しかしその一方で、維持管理の費用負担、使われないことによる劣化、地域との関係性の希薄化、そして次の担い手不足といった課題も抱えてきました。守るために閉ざされた空間は、人の記憶からも遠ざかってしまう。だからこそ今、「使いながら守る」という新しいアプローチが求められています。

こうした潮流を、単なるトレンドで終わらせず、地域に根づいた形で実装してきたのが、私たちエンジョイワークスです。文化財を“特別なものとして隔離する”のではなく、まちの時間の延長線上に置き直すことを大切にしてきました。その実践のひとつが、神奈川県・葉山町で手がけてきた二つの「泊まれる文化財」。いずれも国登録有形文化財でありながら、いまを生きる旅人の感性にそっと寄り添う宿泊体験として再生されています。

なかでも象徴的なのが、「旧東伏見宮葉山別邸」。かつて皇族の静養の場だったこの建物は、葉山の自然と呼応するように設えられた、気品とやさしさを併せ持つ姿。竣工110年余、宮内省内匠寮(たくみりょう)の技師だった木子幸三郎が手がけ、ドイツ下見板張りという工法の白い外壁と緑青色の屋根が特徴の洋館です。海と山に抱かれたこの場所には、時代を超えて受け継がれてきた“過ごし方の美学”が、今も息づいています。ただ、数年前までは、老朽化と運営継承の課題を抱えており、取り壊しも止むなし、と言われていました。そこで、地域の方々と相談しながら再生と継承の計画を策定。ファンドや補助金で資金調達し、意匠を守りながら改修。昨年夏、「宿泊施設」「記念日・パーティ・ウェディング」「企業イベント」などの用途に対応できる場に生まれ変わったのです。

旧東伏見宮葉山別邸は、当時のしつらえを守りつつ、「泊まれる」仕様に

菊の御紋が入った家具や照明、余裕のある周り廊下(サンルーム)、そして葉山の町と相模湾を遠望する立地。どれを取っても「ここだけ」の存在。葉山が育んできたかつての別荘文化を、現代の旅のかたちとして引き継ぐ“復活”とも言えるでしょう。また、もう一例、「別邸」から徒歩2分、昭和築の古民家も、地域の方の声を受けて利活用を手がけています。それが「平野邸Hayama」。相続で建物の保存継承に悩んでいたオーナーからの相談を受け、「みんなの実家」として地域活動拠点と宿泊施設という複合利用の場に再生した事例です。2020年に開業し、その後2023年に国登録有形文化財に指定されました。未来につなぐために再生した結果、(登録の)評価につながったという形です。

旧東伏見宮葉山別邸ウェブサイト
https://bettei-hayama.com/
平野邸Hayamaウェブサイト
https://hiranoteihayama.com/

「泊まれる公民館」「みんなの実家」との表現もされる平野邸。多世代家族や大学生グループの宿泊も多いそう

旧東伏見宮葉山別邸と平野邸Hayama。成り立ちも時代も異なる二つの建物ですが、共通しているのは、「建物を残すこと」ではなく、「時間を重ね続けられる場としてひらくこと」を選んだ点です。保存のために閉じるのではなく、使いながら価値を更新していく。その実践こそが、文化財を未来につなぐもう一つの方法であり、別荘地として栄えた葉山という土地が育んできた過ごし方の思想とも重なっています。

どちらの施設も、まだ広く知られているとは言い難い「知る人ぞ知る宿泊体験」。国登録文化財という希少性と、葉山というロケーションの心地よさが組み合わさることで、滞在自体が“体験”として記憶に刻まれます。歴史ある建物に宿泊することは、単に寝泊まりする以上の価値を持ちます。そこには過去と現在、そしてこれからの関わりを感じる時間があります。「文化財を未来へつなぐ旅」として、この特別な体験をぜひ多くの方に味わっていただきたいと思っています。

旧東伏見宮葉山別邸の企業利用例記事
◼️特別な場所でチームビルド ―― 旧東伏見宮葉山別邸を「企業」で使う
https://enjoyworks.jp/times/248/

エンジョイワークスが手がけてきた「文化財再生」事例
◼️【数字で読むエンジョイワークス⑨】地域の宝を「愛すべき未来」へ。文化財再生の現場から私たちが考えていること
https://enjoyworks.jp/times/256/

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