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「ストック活用」が切り拓く、地域と不動産の新しい価値。エンジョイワークス代表、新春インタビュー

Interview 公開日:2026/01/06

近年の不動産業界では、都心部の不動産価格高騰が続く一方、全国の空き家率は過去最高を更新し、既存ストックをいかに有効活用するかが大きな課題になっています。これまでの大規模開発中心の発想から、地域の文脈を活かした持続可能なまちづくりへと価値観が移りつつあることは、社会全体の潮流とも言えるでしょう。

こうした状況を踏まえ、エンジョイワークスが全事業の根幹に据えているのが「ストック活用を通じて、地域と不動産に新しい価値を生み出す」という考え方です。時代はいま、既存のストックを舞台にポジティブな変化を起こす挑戦へ。――地域住民から大企業、行政まで、多様なステークホルダーと共創で取り組むエンジョイワークスの“新たな仕掛け”について、代表の福田に話を聞きました。「収益性や安全性だけでなく、どれだけ多くの人が関わり、輪が広がるか」「なぜ今、新築ではなくストックなのか」、2026年の展望とともに紐解きます。(聞き手:ENJOYWORKS TIMES・佐藤朋子)

――国土交通省の「住生活基本計画」では、ストック価値の最大化という切り口にも重点を置いています
まず、私たちエンジョイワークスがストック活用を重視するのは、それが極めて自然な流れだと捉えているからです。現在、国内には多くの遊休不動産(ストック)があり、その数が増え続けている状況を鑑みると、既存の資源をいかに活用し、新しい価値を生み出していくか、という流れは必然です。

その中で、不動産や建物の価値の捉え方を変える必要があると感じています。従来、不動産の価値は、収益性、安全性、財産的価値といった視点で語られがちでした。もちろんこれらは重要ですが、私たちはそれに加えて、「関わりやつながりの価値」にも視点を広げています。それは、「どれだけ多くの方がその場所に関われるか」「一緒に楽しい時間を共有できるか」「そこから人の輪がどれぐらい広がるか」ということ。単なるモノとしての価値を超え、建物がコミュニティや社会的なつながりのハブとなる。これこそが、私たちが目指す新たな価値だと考えています。一方で、ストックを選ぶのは、別の理由もあります。既存の建物には、すでに何らかの「記憶」が刻まれている可能性が高いからです。目の前に実物があることで、活用されていない状態に対して「じゃあ、一緒に使おう」と呼びかけたとき、イメージがしやすく、多様な人の発想や共創のエネルギーが生まれやすいという利点があります。

昨年8月、田浦月見台でのインタビューの様子

――なぜ「共創」を軸にした事業が求められていくのでしょうか?
エンジョイワークスのビジョンの一つとして掲げているのは、「自分たちで考え、主体的に関わる人」が増える世の中を実現すること。そして、ストック活用は、このミッションを達成するための「舞台」なのです。地元の住民の方々はもちろんのこと、「関係人口」と呼ばれる地域外の方、個人投資家、そして企業、金融機関、時には行政まで、多様なステークホルダーと「一緒に作っていく」ということが大切だと思っているからです。

この多様な関わりを実現するためのツールの一つが「ファンド」。事業の企画段階だけでなく、資金面でも参加いただくことで、関係性がより強固になる。単に「建物を作って終わり」ではなく、「作ってからも一緒に事業を見守り、育てる」という長期的な関係性を築くことが可能になります。こうした取り組みは、現在、北海道から沖縄まで100を超える遊休ストック活用事例を積み重ねてきた経験から生まれてきたもの。その最大の成果は、「仲間」や「同志」といった人々のネットワークが拡大したことです。多様な参加者との共創により、地域に根ざした宿泊施設やエリア再生など、さまざまな業態に挑戦しています。

――国が「住宅ストック活用」を押し進めるのは心強いですが、これだけでは具体的な展開は難しいと思います
事業を推進していく中で、不可欠だなと感じるものはいくつかあります。それは私たちの「ビジョン」「ストーリーテリング」と「自治体や企業の本気度」。まず、私たちは事業を始める際、「こんな場所ができたら、みんな楽しくない?嬉しい?」といった、感情に訴えかけるビジョンを分かりやすく提示し、関わりたいという気持ちを引き出すことを最優先します。よく「妄想会議」と題したブレストイベントを実施しているのですが、そこで出たアイデアをビジョンとして「ストーリー」を作っていく。そんな手法です。

ストック活用は、新築の事業のように、あらかじめレールが敷かれていて出てくる結果が限定されているものとは違います。だからこそ、「こうなったら楽しいだろう」「嬉しくないか」という自由な発想(妄想)から入ることが極めて重要です。もちろん、妄想の結果、法律や規制といった現実に直面することもあります。ですが、最初から「現実的にできること」や「規制」ばかりを意識して考えると、楽しくないものになってしまいます。一旦、全てを取り払い、ゼロベースで「どうなったら最高に楽しいか」を考えること。発想の転換によって、住宅ストックがいくつもの輝きを放って見えてくるのではないでしょうか。

さらに、昨年手掛けた大きな事業のひとつ、田浦月見台住宅プロジェクト(横須賀市)で顕著だったのは、行政のコミットメントです。「旧市営住宅の再生を本気でやる」という決定後のスピード感、民間の考え方を理解し、財政支援も含めて、担当者から市長に至るまで一体となって動いてくださいました。この官民連携が非常にうまくいったことが、成功の鍵となりました。一方で、私たちが過去100以上の事例を重ねてきた中で、反省点もあります。それは、空き家を1軒や2軒「点」で活用するだけでは、残念ながらまち全体を大きく変えるほどのインパクトを残せなかった、ということです。

この反省から、私たちは今、「面的なアプローチ」へと舵を切っています。もちろん「点」での再生もそれぞれ意義あるものですが、遊休ストックをエリア(面)で捉え、あるいは「束」として集中的に着手していくことで、地域全体に大きな変化を生み出せることを実感しています。今後は、この「面」的な取り組みが、どういう社会的なインパクトを得られたのか、その定義と評価をきちんと行っていくことが重要だと考えています。

――遊休ストックの「束」と言えば団地があります。その再生への挑戦が始まっています
現在、多くの団地が急速な高齢化、老朽化、そして空き家増加という課題に直面しています。私たちは、月見台(平屋長屋団地)のプロジェクトを経て、集合住宅型の団地の再生にも積極的に取り組んでいます。団地は「古い」というイメージを持たれていますが、目指すのは「暮らしやすい住環境」「生活至便」「多世代の交じり合いがある」といった、ポジティブな選択肢となることです。団地を魅力的な暮らしの場として提供することが、結果的に現代の住宅課題の解決にもつながると信じています。

昭和のライフスタイルの象徴とも言われる団地。さまざまな「場」としての再生に挑戦中

このストック活用をより広げていくためには、社会の「垣根」を低くすることが不可欠だと考えます。建築、不動産、金融といった業界の垣根を低くし、さらに官民の垣根、都市と地方の垣根、ビジネスとアカデミックの垣根も下げていくべきです。あらゆるセクターの人々がビジョンを共有し、多様な形で連携しあう状態こそが、これからの課題解決には必要だと提言したいです。ストック活用には、用途やアウトプットの面で、新築にはない多様な可能性があります。私たちは、この可能性を追求し続け、不動産の価値を再定義しながら、主体的な人が増える社会を築いていきたいと考えています。

今年も全国各地の「現場」を訪ねていきます

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