まちを歩き、住宅街や団地の風景を眺めてみると、小さく静かな変化が確実に生まれていることに気づきます。新しい年まで数えるほどとなりましたが、2025年のエンジョイワークスを振り返ってみると、「リノベーションの1年」と言うに尽きるような気がします。それは物件やデザイン、施工の話ではなく、「このまちでどう暮らすか」という問いに直結する動きであり、リノベーションのあり方自体が静かに変化していることを感じています。
団地・公共住宅の再生から「暮らしの再編集」へ
私たちの今年の大きな挑戦のひとつ、「旧市営田浦月見台住宅」の再生プロジェクト。老朽化した団地や公共住宅の「いまとこれから」に真剣に向かい合うきっかけにもなりました。建物を直すだけでなく、暮らしやコミュニティを再編集する。今夏以降、「なりわい住宅」として新たなステージを迎えた月見台住宅では、住まい手(入居者)が、自分のライフスタイルや仕事、趣味に合わせて空間をリノベ(DIY)で整え、暮らしながら街に関わっています。また、住居だけでなく、団地全体の敷地を街として捉えたエリアリノベーションもこのプロジェクトの特徴。共有広場や通路、コミュニティスペースを整備し、入居者だけでなく投資家や地域、地元企業が関わりながら街全体を育てる取り組みが形になっています。

昨年から官民連携で進めてきた月見台住宅の再生事業。住民ゼロから「にぎわい・なりわい」のまちにリノベ
□月見台住宅*ウェブサイト
https://tsukimidai.com/
個別物件のリノベとエリア単位の再生を両輪で進めることで、住まいとまちの関係を新たに描き直す試み。今月、授賞式が行われた(一社)リノベーション協議会主催の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2025」では、無差別部門の最優秀賞を受賞しました。公営住宅の再生と小商い拠点創出――官民連携の地域再生が評価された形。選考委員からは「本件は先駆けの好事例として、広く知られ学ばれるべき存在」との講評を頂きました。
□リノベーション・オブ・ザ・イヤー2025講評
https://www.renovation.or.jp/oftheyear/award.html

(写真左)リノベーション・オブ・ザ・イヤー授賞式で(写真右)外部からの依頼でパネル展示のカンファレンスなどにも参加、「月見台」の取り組みはメディアだけでなく自治体や企業からも注目を得た1年でした
月見台は平屋長屋という特徴的な「団地」でしたが、企業や自治体の築古団地(社宅、公営住宅)再生の事業も始まりつつあります。その「団地」における取り組みでは、区分(一室)リノベーションのファンドも複数進行中。昨年始まった「愛ある団地プロジェクト」では、神戸・明舞団地の事例に象徴されるように、老朽化した団地や公共住宅の居室を単にリノベして終わり…ではなく、住まいや地域の暮らしと結びつけて再生する動きが加速しており、この「愛ある団地」では先ごろ5例目のファンド募集が終わったところです。

「愛ある団地プロジェクト」1号のリノベ居室。ライフスタイルに合わせた引き算・足し算が可能なのが、リノベの魅力
空き家が生む、新しい価値と交流の場
不動産の業界にいるとなおさらですが、空き家の話題を耳にしない日はありません。「社会課題」と言われて久しいのですが、先日の、大分市の大規模火災では、被害に遭った家屋の約4割が空き家だったとのこと。ただ「空き家」といっても、管理されていた(持ち主が定期点検していた、売却の予定があった)かどうか、そのものが延焼の原因だったかは分かりません。ただ、空き家がリスクの一因となるという現実を突きつけられたとも言えそうです。
そんな「空き家」ですが、一方で、それ自体を負債ではなく、地域に新しい価値を提供する余白として捉えられるようになってきました。私たちの手がけたファンドプロジェクトで言うと、富山・内川の「AKAMA富山」では、空き家になっていた漁師小屋(番屋)をリノベーションし港町を体験できる宿泊施設として稼働しています。この秋、スタートした別府の「TOJI HAUS」のプロジェクトは、空き家を中長期滞在型の宿泊施設に再生する新しい取り組みです。空き家の可能性とリノベーション。宿泊や滞在を通じて街の魅力を伝える「仕組み」作りが始まっています。
□リノベを終え、宿泊施設として開業したAKAMA富山のウェブサイト
https://toyama.akama-inc.jp/
□大分・別府で始まったエンジョイワークスの新しいプロジェクト「TOJI HAUS」
https://enjoyworks.jp/times/242/
こうした動きは民泊としての活用とも結びついています。私たちは「民泊」がここまで注目される前から、リノベによる空き家や空き物件を使った場の再生を手がけていましたが、数年来積み重ねてきた運営(再生)ノウハウをセミナーなどを通して発信し始めています。「空き家×民泊」の事例に関心のある事業者や個人が増えており、空き家とリノベの可能性は、来年もさらに広がっていくと感じています。
□空き家×民泊プロジェクトのリノベ済み販売物件
@掛川 https://enjoyworks.jp/kakegawa/
@周防大島 https://enjoyworks.jp/suo/

古い民家を民泊に。地方郊外での取り組みもスタート
“育てる住まい、育てるまち”の広がり
さて、少し大きな話でいうと、2025年のリノベーション業界は、「住宅の高性能化」と「多様な生活空間の創出」という二つの大きな軸で動いていました。今年は、省エネ基準適合義務化を背景に、断熱や窓改修を核とした省エネ性能の「向上リノベ」が最重要テーマとして注目。同時に、人々の働き方や暮らし方の変化から、個々の居心地の良さを追求した「多機能な居場所」を組み込む提案がトレンドです。市場全体としては、新築縮小に伴い既存住宅ストックの活用が加速しており、来年は、この需要に対応するためのDX化によるリサーチや効率的な活用もさらに活発化していくと予想されます。
個々の住宅や空き家の再生、小規模なDIY、民泊の活用に加え、町や団地、エリア全体を見据えたエリアリノベも。壊さず少しずつ手を入れる暮らしやコミュニティの積み重ねが、まち全体の風景や空気感を変えていく。 来年は、こうした個別と広域の取り組み、そして業界全体の潮流が重なり合い、住まいとまちを育てる文化としてさらに定着していくはずです。エンジョイワークスも、皆さんとともにまちの変化を見つけ、支え、育てる活動を続けていきたいと考えています。