ここ数年、二地域居住といえば「東京と湘南」というセットが典型でした。平日は都心で働き、週末は湘南で過ごす。海辺の生活を味わいながら都市のキャリアを維持する。この“程よい距離感”の住み分けは、二地域居住のハードルを下げ、多くの人にとって試しやすい選択肢でした。
ところが、コロナ禍を経て、この1〜2年で構図が大きく変わり始めています。理由はシンプル。「どこで働くか」よりも「どんな関係性をもった地域で暮らすか」が重視されるようになったのです。二地域居住は「職住近接の延長線上の近居」から、「自分の価値観に合う地域を軸に選ぶ」という、主体的なスタイルへ変化しています。例えば、湘南に住む人が北海道や関西に“第二の生活圏”をつくるケースも出てきました。これまでの“通勤可能距離”という制約は薄れ、距離ではなく関わりの深さが基準になってきています。
この変化を後押ししているのは、いくつかの社会的要因。まず、ワーケーションが観光目的から地域参加型へと進化し、地域との関わりを持つ「関係人口」という立ち位置に変わってきたこと。単に滞在するだけでなく、地域のコミュニティに参加し、持続的な関係を築くことが、二地域居住の価値として認識されるようになっています。
また、都市の刺激や仕事、地方の自然やゆとり、趣味や創作活動など、複数の居場所を持ちたいというニーズも高まっています。加えて、航空・鉄道各社による多拠点生活前提のサービスが拡がり、自治体の移住・滞在支援の自由度向上、柔軟な働き方の普及によって、距離や時間の制約も薄れています。これらが重なり、二地域居住は単なる近居の延長ではなく、「自分で関わる地域やコミュニティを選び、複数の居場所を行き来するライフスタイル」として現実的で魅力的な選択肢になりつつあります。
私たちが空き家再生事業を展開する中で、タッグを組む日本航空株式会社(JAL)も「二地域居住」に注目しています。JALの「つながる、二地域暮らし」というプログラムでは、従来の“旅”や“移住”とは違い、地域に滞在することだけでなく、「地域と関係を持ち続けること」を価値としています。移動手段としての航空インフラだけでなく、「自分のもうひとつの生活圏」にアクセスする感覚を社会的に可視化しているのです。
JALの「つながる、二地域暮らし」に関するインタビューはこちら
■地域と都市をつなぐ新たなライフスタイルとは
https://enjoyworks.jp/times/204/
一方、私たちが各地域で空き家を活用しコミュニティをつくっているのは、その場所が単なる「住む箱」ではなく、「人の関わりが育つハブ」になると考えてきたから。距離を越えて“もうひとつの地域と長い関係性を生む”という新しいスタンダードには、さまざまな業種の連携が欠かせません。湘南にはじまり、各地でプロジェクトを進める中で実感するのは、二地域居住が「どこかに家を持つこと」ではなく、「どこかの地域と関わり続けること」へ進化しているということです。距離の制約は薄れ、むしろ「地域での役割」や「参加の余白」が選ぶ理由になってきます。住まい方の選択肢が増えるのではなく、地域との関係性の選び方が増えているのです。

海や水辺に近い場所、森や緑に近い場所…その選択は「二択」ではなくシームレス。緩やかに行き来しながら複数地域に「関わる」
“もうひとつの地域とつながる”楽しさと、自分の居場所が増えていくおもしろさ。エンジョイワークスとしても、来年はそれをさらにアップデートさせ、皆さんにも体験してもらえるような機会を増やしていきたいと考えています。