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団地という新しい“長屋”――木更津「KISS MARCHE」で感じた、コミュニティ再生の予感

New Topics Report 公開日:2025/11/04

舞台は千葉、JR木更津駅から徒歩5分。昭和の面影を色濃く残す、いわゆる「THE団地」の風景。JR東日本が社員のために設けた「社宅」ですが、働き方やライフスタイルの変化に伴い、その役割を終えつつあります。2棟ある建物のうち1棟はすでに廃止となり、駅徒歩圏という好立地でありながら、遊休資産として眠っていました。しかしこの秋、その団地に賑やかな声と笑顔が溢れる一日が訪れました。

JR東日本とエンジョイワークスが共同で進める「なりわい住宅『KISS』構想」(KISS=Kisarazu Incubation for Simple & Social)。その最初の実証実験として10月25日に開催されたのが「KISS MARCHE(キスマル)」です。これは、単なるマルシェイベントではありません。この場所がどんなコミュニティになりうるのか、地域の人々と一緒に「妄想」し、その未来を肌で感じる場。完成形を提示するのではなく、場の可能性を探る対話の始まりです。

遊休社宅が、一日だけ「なりわい」の実験場に
普段は人影もまばらな社宅前の広場。それが、地域の事業者や住民、子連れの家族で賑わいました。秋雨にも関わらず、キッチンカーやコーヒースタンドのおいしそうな香り、ライブパフォーマンスの心地よい音色に包まれ、買い物を楽しむ人々が行き交っていました。この日の光景は、まさに「なりわい住宅『KISS』」が目指す日常の断片そのもの。小さな商いがあり、音楽やアートがあり、世代を超えた交流が自然に生まれる。団地という空間が、人の営みによって豊かな表情を見せていました。

雨にもかかわらず、地元の方々で賑わいました。出店者が楽しんでいたのも収穫

そして、このイベントの核心は、「なりわい住宅『KISS』妄想ワークショップ」。職住一体型の住宅にした場合、どのような場所にしたいですか? どんなお店があったら?――問いかけはシンプルです。付箋に記入していただいたアイデアは多様で、深いものでした。「子育てママや高齢の方が集まるコミュニティスペース」「放課後に子どもが使える場所」「マイナーだけど良質な映画を上映するミニシアター」「防音にリノベーションしたスタジオ」「3Dプリンターが使えるスペース」「川の見えるシェアサロン」など、この場所への期待と、同時に木更津駅周辺エリアが抱える課題への思いが滲んでいました。通勤時間帯だけ賑わい、日中や休日には人が少なくなる。空き地や空きビルが点在する中心市街地。そんな「平日・通勤偏重型」の街の姿に対して、内容は違えど、みんなで使える集える場所・シェアできる「何か」があれば――という声が多かったのが大きな特徴でした。

団地という新しい「長屋」が紡ぐもの
「なりわい住宅『KISS』構想」が目指すのは、「住む・働く・支える・育てる」が一体となった、現代版の”長屋”です。住宅機能だけでなく、住民自身が担い手となる小商い、子育て支援、高齢者ケアといった福祉サービスまでを統合できれば――。誰もが孤立せず、日々の暮らしの中で自然と「なりわい」を生み出し、お互いを支え合うことができる。生活の中に「生きがい」と「つながり」が包含された、新しいライフスタイルの実験場。この壮大な構想を、いきなり完成形として示すのではなく、地域の人々と一緒に育てていく。この日の「KISS MARCHE」は、その共創のスタートラインとなるものでした。

外から見ると、よく見かける「団地」の佇まい。中のスペースを「どう使えるか?」妄想を育てる第一歩を踏み出したところ

イベントが終わり、テントが片付けられても、確かに何かが生まれていました。それは、コミュニティの「芽」。この日社宅前広場に集まった人々の笑顔や対話、小さなつながりは、これから育まれるであろうコミュニティの種子です。都市課題を希望に変える――その第一歩。木更津駅前の「THE団地」が見せた、新しい可能性。「なりわい住宅『KISS』」の物語は、地域の人々の声と共に、ゆっくりと、でも確実に動き始めています。

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