「里山」というワードは世界的な大都市「東京」とは対極にある、地方の、それもさらに郊外の風景を指すものだと思っていました。でも実は、東京にも里山があるんです。新宿から西に1時間ちょっと、山梨との県境の「奥多摩」に。その「里山」にどっぷり浸ることのできる「Satolouge滝島邸」に、神奈川からプチ旅行。「沿線まるごとホテルプロジェクト」の第1弾宿泊施設を体験してきました。(レポート:エンジョイワークス・コミュニケーションデザイン部 小沢拓己)
首都圏の方はJR中央線に馴染みがあると思いますが、立川から奥多摩を目指したことがある人は、実は少ないかもしれません。立川駅から12駅先、青梅線の青梅駅からは「アドベンチャーライン」と呼ばれていて、終点の奥多摩駅まで無人の駅が多数。つまりは乗降客数が少ないということなのですが、車窓に目を向けると、少しずつ緑が深くなり、空気も澄んでくるような気がしてきます。そして、視界に入ってくるのは、涼しげな川の景色。多摩川水系の川とそれを囲む谷がここの原風景を形作っている気がします。「これも東京か…」と思いながら、なかなか耳にしない興味深い名前の駅をいくつか過ぎながら到着したのが鳩の巣(はとのす)駅。
敢えての「電車旅」もいいな…と思わせるローカル線の情景
今回の旅の目的は、「沿線まるごとホテル」を体感すること。「沿線まるごと」とは…JR青梅線沿線(奥多摩地域など)の地域活性化を目指す取り組みです。無人駅の駅舎をホテルのフロントやロビーに、空き家・古民家を客室に見立てて改修し、地域全体を一つのホテルとして運営しています。これは単なる観光振興を超えた、持続可能な地域再生のモデルケースと言えるでしょう。
切り替えスイッチが心地いい!
私が降り立った鳩の巣駅はホテルの「フロント」。駅には、なんと「沿線まるごとホテル」の暖簾やSatologue滝島邸のポスターがあり、もうそこは「ホテル」の入口で、期待感が増します。Satolougueに向かう道のりにある国道411 号(青梅街道)は幹線道路なので車通りも比較的多いのですが、一歩奥まった道に入りSatologueに近づくにつれて、一気にふわっと空気が変わります。ローカル・故郷・農村・里山…どの言葉も当てはまりそうで、収まりきらない。どこか懐かしい原風景を感じながら歩くのも、都会のまち歩きとは全く違う。五感の開放感ってこんなに気持ちも優しくしてくれるんだ、と自然と入った「スイッチ」に嬉しくなりました。
そうしてたどり着いた建物の扉を開くとやさしい光と緑の色、そして木の香りに全身が包まれます。想像以上に木材がふんだんに使われていて空間の優しさと相まって、室内なのに深呼吸したい気分になるほどです。建物の設計は建築家の堀部安嗣さん。茨城県の「牛久のギャラリー」や瀬戸内のクルーズ客船「ガンツウ」などを手掛けてきた堀部さんが考案されたSatologue滝島邸のコンセプトは「繭」。柔らかにカーブした天井から、川を眺めながらリラックスできるテラスエリアに向けて段差になっていく空間設計が特徴的です。建物の佇まいからして、周囲の自然環境に溶け込むような設計思想を感じ取ることができます。こじんまりしているのに閉塞感を感じない落ち着きがあるお部屋。早くも冷蔵庫に入っていた地元のクラフトビールを開けちゃいました。
これらの看板や「パスポート」が気分を上げてくれます。館内には、「人の“ふるさと”」をテーマにした選書も
まさに「Garden to table」!土と人と食と。
今回、楽しみにしていたのが「食」。Satologueのコンセプトに強く共感したシェフが提供してくれる「沿線ガストロノミー」に期待を膨らませながら併設のレストラン「時帰路 TOKIRO」へ。Farm to tableどころかGarden to table、敷地内の畑で取れた鮮度抜群の野菜、地域の作り手たちの食材を活かした目にも楽しい一品が並びます。中には、庭を案内していただいた時に私たちが採った野菜も入っていて、つい思い入れを持って口に運んでしまうのもまた、心躍る体験でした。全国どころか世界各地の選りすぐりの食材を集めた食事体験ができるのが、東京のフードシーンとして目立つ部分ではあるものの、同じ都市の中で対極のアプローチでローカル食材、地元の食文化と向き合いながら丁寧に作られる食事。単なる伝統的な「キュイジーヌ」ではなく、令和の時代性も感じる食体験として豊かに味わえることに、とても感銘を受けました。
窓からの景色、温かみのある木のしつらえ。そして食卓。「自然の色に浸る」と言う表現がぴったり
もうひとつの目玉であるサウナは、予定が合わず残念ながら体験できなかったものの、翌朝も朝特有のきらきらした光を浴び、川のせせらぎを聞きながら、ゆっくりと朝食を食べ、後ろ髪を引かれながらSatologueを後にしました。帰路の電車で都心に近づくにつれ、少しずつ“お仕事モード”になっていく自分の意識の変化を確認しながら、心のどこかに残る里山の記憶が、きっと日常生活に新しい彩りを添えてくれるのだろうな。そして、ふっとまたここを訪れたくなるんだろうな、と予感するのでした。季節が変わったら、また違った表情を見せてくれるこの場所に、必ず戻ってきたいと思います。
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「沿線まるごとホテル」Satologeウェブサイト
https://satologue.com/
これから始まる新しいプロジェクトにも注目!
【10月も開催】「沿線まるごとホテルファンド」説明会
https://hello-renovation.jp/news/detail/27504
2025/10/07
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