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【小林伸行町長インタビュー】小さな港町から始まる、大きな共創 ― 真鶴町×エンジョイワークスのスモールコンセッション

Interview 自治体共創 公開日:2025/10/07

人口約6000人、東京駅から約1時間半、横浜駅から約1時間と、都心からの恵まれたアクセスにも関わらず、都心にいちばん近い「過疎地域」とも言われる真鶴町。相模湾に突き出た真鶴半島に位置する風光明媚な港町ですが、人口減少と高齢化、老朽化した公共施設などの課題を抱えています。これらの解決を目指し、町民が主体となり、古い建物を活用する新たな仕組みづくりを推進するため昨年9月、真鶴町とエンジョイワークスは包括連携協定を締結しました。今年度は具体的なアクションとして、町民参画型の施設活用を進めています。2023年に同町長に着任し、町民対話と情報公開をもとに町づくりを進める小林伸行さんに、公共施設問題への取り組み、スモールコンセッションによる官民連携、町の将来像などについてインタビューしました。(聞き手:ENJOYWORKS TIMES・佐藤朋子)

――そもそも……町が抱える課題や公共施設管理(ファシリティマネジメント)の考え方についてお聞かせください。
少し「数字」で説明したいと思います。住民ひとり当たりの公共施設の保有面積は、全国平均で約3.6㎡。それが真鶴町では約7.0㎡。その維持管理は税金でまかないますから、町民の負担は大きくなっています。これをどのように減らしていくか。現役場庁舎については廃止を予定していますが、他の公共施設に機能移転すれば町民サービスは維持できます。一方で建物自体に価値があるような施設もあります。「旧土屋邸」のように、町民の思いもあり、文化財的な価値もある施設がそうです。総量は減らしていくけれど、活用できる施設に関しては住民ニーズにも応えながら選択していくのが大事だと考えています。

また、未来への投資の観点も重要です。町では今、小中一貫校を新しく建てようとしており、これはまさに将来への投資。子どもたちへの教育に投資できないと町が沈むと思っているので、やはりそこには十分な投資をしたいと思っています。そうすると、他の施設を整理しなければいけない。町の立場で言うと、こういった部分はニーズだけでやってはいけない部分かな、と感じています。住民の声は大事ですが、「今の声」だけを判断基準にするのではなく、町政としては「未来の声」、つまり将来世代の負担とニーズを考えてやらなきゃいけない。ある意味で、これは嫌われても進めていく必要がある部分だなと覚悟しています。

その中で、いまエンジョイワークスと取り組んでいるのが「旧土屋邸(旧町立民俗資料館)」の利活用事業です。持ち主だった土屋家は町民とりわけ子どもたちに関わるところで多額の寄付をしていただいていました。「将来の町を支える人材を育てる」という部分で“投資”をしてこられた方です。だから、恩恵を受けてきた町民の中には「残すための汗をかく」意識の方も多いと思っています。民俗資料館として閉鎖した際に、多くの町民のみなさんから、ご意見やご心配を頂きました。これは、それぐらい「愛着がある」ということが可視化されたとも言えるでしょう。だからこそ、町民も一緒になって残すための枠組みが始まったというのは、とてもいい姿だと感じています。口も出し、手も出し、お金も出す……という形で関わっていただけるんじゃないかと期待しています。

――エンジョイワークスとの「旧土屋邸」の取り組みは、国土交通省の「スモールコンセッション事業」という柱のもとで進めていますが、町にとってどのようなインパクトがあるでしょうか。
これはおそらく、うちの町だけじゃないインパクトがあると感じています。一般的にコンセッション方式は空港や水道事業など大きな案件に用いられます。真鶴のような小さい町との公民連携には、利幅も小さいためなかなか目を向けてもらえません。「経済合理性だけではない価値」を大事にしてくださるパートナーに出会えたというのは、真鶴町にとってはとても幸せなことだったと思っています。

小規模の施設であっても、こうやって公民連携によって再生するというモデルを作ることができれば、全国の多くの小さい町に希望を与えられると思っています。光が当たりづらいけれど、確かな価値を持つような施設とか建築物の再生が進むようになったらいいですね。
*コンセッションとは公共施設の所有権を公的機関に残したまま、その運営権を民間事業者に委ねる官民連携(PPP)の一種。身近で小規模な遊休不動産を対象にした事業を「スモールコンセッション」と言い、その推進のため国土交通省は「スモールコンセッションプラットフォーム」を設立しています
https://www.mlit.go.jp/smcn/index.html

――今回、エンジョイワークスは「旧土屋邸」のスモールコンセッション事業として、事業者育成型公募で公募案件を町民と一緒に考えるというスタイルを打ち出しています。このような方式は、真鶴町の町民意識にフィットしそうですか?
まさに真鶴町のためにあるような枠組みだと思っています。真鶴は、32年前に日本で初めて「まちづくり条例」を作った町。さらに景観や町のあり方に対する住民の哲学と、それを守り育てるための共通認識を「美の基準」として成文化しています。「自分たちの町は自分でつくるんだ」という気概があるので、こういう地域だからこそ、その手作り感のあるまちづくりはできるんじゃないかな。

昨年3回に渡って実施したワークショップの様子。旧土屋邸への思いや「できること」を意見交換

普通は官民連携というと自治体と大手企業が組むのが一般的ですけれど、エンジョイワークスの枠組みで面白いのは、いろんな人を巻き込んでいますよね。担い手も住民も巻き込み、お金も「大資本からまとめて」ではなくて、ファンドを作って、みんなからお金を集めて、循環させていくというモデル。これはとても真鶴の町民性に合っていると思うし、きっと多くの人が手も出し、お金も出してくれると思います。

真鶴町の「美の基準」についてはこちら

――町長に着任以来、「対話」のコミュニケーションに力を入れていると聞いています。そのなかで、公共施設の利活用については、どのような段階ですか?
今まさに町民対話の真っ最中です。公共施設の再編は、痛みを伴うので、量は減らしても機能は減らさないように工夫しなければいけない。町民の財産なので、どこが落としどころか、納得できるポイントを作りながらやっていくのが、行政の仕事だと思っています。これまでの町民対話の中で、「確かにこの財政じゃ全部は残せないね」というのは、ご理解いただいたと思うので、「じゃあ、個別の施設をどうするか」に着手するところです。今後、使わなくなる資産の売却や貸し出しの際にも、公民連携の枠組みを使っていければと考えています。町としては手放すけれど、それを使ってもっと収益が得られたり、町民の価値が得られたりするようことができないか。包括連携協定を結んでいるエンジョイワークスさんにも、ご相談していきたいです。

(写真左)インタビューに答える小林町長。ワークショップにも自ら参加(写真中央)、町とエンジョイワークスは、昨年9月に包括連携に関する協定も締結(写真右)

――おそらくこの町らしさ、真鶴らしさというものを、より活かしていくという視点だと思うのですが、その中で大切にしていることはありますか?
すでに「美の基準」という形で町のデザインコードを作って、大切にしたいことを明示しているので、その基本は変わらないと思っています。美の基準で描いている「小さな人だまり」とか「実のなる木」とか、今回の枠組みとの親和性がある部分はたくさんあるかなと思っています。「家は自分だけのものではない」「町に住む」という考え方もそうです。

まちづくり条例、美の基準を作った当時ですが、外部の専門家たちと、町民とで響き合って作成しているんですよね。その文化は30年経っても変わっていないと思います。いわば“外の風”を取り入れながら町民の思いを束ねてやっていくというのが、真鶴らしさ。港町であり、常に外の風を受けて進んできたこの町らしい生き方だと思うので、そこは大事にしていきたいです。

――ファシリティマネジメントや、いま進めている「施設の適正化」を通じて、町の10年後20年後をどのように描いていますか?
町の総合計画では、「のんびりスマート真鶴」というキーワードを掲げています。この町の、のんびりゆったりした暮らしは基本的には変えないよ、と。でも、そのためにも、裏側で動いている仕組みはDXなどスマートな技術も入れていきますよ、と。変えるべきものと変えてはいけないものがあると考えています。ただ、公共施設は大幅に減らさなければなりません。一見、不便になってしまいそうですが、「減ったけど、なんか使い勝手も悪くないしちょっと便利になってるよね」。そういう目に見える工夫をしていきたいと思っています。

*****
エンジョイワークスと真鶴町の「スモールコンセッション」。町が所有する施設の利活用は、普通は町役場が考えるもの。しかし今回はさまざまな方を巻き込んで“企画会議”を進めています。今年度のテーマは「運営事業者の公募要件を、みんなで考える」。そんなことをしている町は全国初かもしれません。どのような利活用がこの場所に合っているのか? 建物を活かした場づくりに最適な事業は何か? どんな事業者に活躍してもらいたいか? そんな「これからの姿」を描く場にしていきます。真鶴町が好き・旧土屋邸に興味があるという地域住民の方々、また、旧土屋邸はじめ地域の遊休不動産の利活用事業を応援したいという方々、ぜひお越しください。

【旧土屋邸の未来を考える(全2回) 〜事業者公募要件を町民自ら考える会議〜】
第2回:2025年10月13日(月・祝)10:30-12:30
場所:旧真鶴町民俗資料館(旧土屋邸)参加費:無料
イベント詳細ページ
https://hello-renovation.jp/news/detail/27537

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