「いこみな」。近鉄線生駒駅南口の通称です。ここをフィールドとした官民連携の事業者育成プログラムが「いこみなチャレンジ」。空き家や空き店舗を活かした起業・開業を、生駒市と経験豊富な専門家が全力でサポートします。これは従来の「既に実績のある事業者を募集する」公募とは異なり、アイデアの種を持つ人材を発掘し、地域ぐるみで育成していく“伴走型”であるのが大きな特徴。「プレイヤーはつくるもの」という発想転換により、地域に根ざした持続可能な事業者の育成を目指しています。
さて、話は戻って生駒駅南口。レトロなアーケード沿いの灯りが減り、マンションの窓明かりが増えつつある、新旧が交差するエリアです。そんな「いこみな」に新しい風を吹き込む「人」の募集は、今年6月からスタート。現地の「まちあるき」に続き、事業案の一次選考を経て、複数のチャレンジャーが地域に根ざしたプランを発表する「メンタリング(プレゼン)イベント」を9月13日に実施しました。
いこみなチャレンジウェブサイト
https://ikomina-challenge.jp/
多様な想いが交差するプレゼンテーション
発表された内容は実に多彩。地域の食文化を活かした飲食の取り組み、昭和の懐かしさを現代に蘇らせるユニークなサービス、家族の絆を深める空間づくり、アートを通じた世代間交流の場、暮らしを豊かにするライフスタイル提案、そして子育て世代を支える複合サービス…など、地域住民の多様なニーズに応える「事業案」が集まりました。どのプレゼンにも共通していたのは、「生駒という地域に愛着を持ち、住民の生活をより豊かにしたい」という強い思い。地元の農家や他の事業者との連携を図り、エリア全体の魅力向上を目指すプランや、世代を超えて愛され続ける価値を提供しようとする取り組み、さらには地域外からも人を呼び込み、生駒の魅力を広く発信…といった構想まで、それぞれが地域活性の担い手としての自覚を持って事業設計を行っていることが印象的でした。
参加者の発表とメンタリング。個別ではなく、公開で行うことで、「いこみな」の仲間の顔合わせにも
「どのまちにも、(地元や自分が暮らす地域に)熱い気持ちを持った人がいる。必要なのはこれを掘り起こして実践につなげるきっかけなんだ、と改めて感じました」。このプログラムを運営するエンジョイワークス事業企画部の担当者はそう話します。単に「商売をしたい」のではなく、「生駒をもっと良くしたい」という思いを込めた事業構想も大きな要素。その熱量を重視し参加の門戸を広げたことで、従来の公募では手を挙げにくかったような、アイデアの種を持つ多彩な人材がプログラムに参加してくれたことに、事業者育成型公募の可能性を改めて実感しています。
地域ぐるみで事業者を「育てる」包括的サポート
今回のプログラムで特筆すべきは、チャレンジャーを支える包括的なサポート体制。地域に精通した各分野の実践的な専門家――実際に、生駒や近隣地域で事業を営んでいる、あるいは地域の実情を深く理解している方々をメンターとして招聘。プレゼンの席では「なぜ生駒なのか」「地域にとってどのような価値をもたらすのか」という根本的な問いかけが多く、単に事業として成り立つかどうかではなく、地域コミュニティの一員としてどのような役割を果たすかという視点からのアドバイスも飛び交いました。持続可能な事業運営のための価格設定、オペレーションの効率化、ターゲット層の明確化なども重要なポイントとして挙げられ、理想と現実のバランスを取りながら事業を成功に導くための「ノウハウ」を共有する場となりました。
これに加えて、もう一つ特徴的なのは多種多様な「サポーター」の存在。これは参加者募集の際に「仕事や経験を活かしてサポートしたい人!」を募って集まってきた方々。デザイン、不動産・飲食経営、IT、写真・EC運営、広告・プロモーションなど各分野の専門家が参画。アドバイスに留まらず、場所提供やキッチンカー貸出など具体的な支援も行う地域ぐるみの協力体制が生まれているのです。自治体・金融機関・企業、そして地域の方々…と、さまざまな立場の人たちが「育成する」「継続させる」ことに関わっていく。それが事業者育成型公募の理念でもあるのです。
7月に行った空き店舗見学ツアー(まちあるき)と交流会の様子
全国の地域創生モデルに!
参加者が提案する多様な事業プランは、生駒駅南口エリアの持つ多面的な魅力を浮き彫りにしました。昔ながらの商店街の温かみと、新しく住み始めた住民のライフスタイルニーズ。地域の伝統と革新的なアイデア。日常の便利さと特別な体験。これらが調和しながら、住む人、働く人、訪れる人すべてにとって魅力的なエリアへと発展していく可能性を秘めています。
今後、11月にはマルシェなど、実際に事業アイデアを試せるテストマーケティングの機会も提供。これらは単なる実験の場ではなく、地域住民との接点を作り、事業への理解と共感を深めてもらう貴重な機会です。こうした段階的なアプローチにより、参加者(チャレンジャー)は地域に根付いた持続可能な事業を構築していくことが期待されています。この後、最終審査会や地域住民向け公開プレゼンテーションと、事業化に向けてまさに「階段」をのぼっているところ。事業開始を目標に、参加者たちは今回のメンタリングで得た知見を活かして事業計画をさらにブラッシュアップしていきます。
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全国の地域が共通して抱える「空き家・空き店舗はあるが、利活用プレイヤーが不足している」という課題に対し、「いこみなチャレンジ」は事業者育成型公募という新しいアプローチで解決策を示しています。行政、民間、住民が一体となって地域の未来を描き、実現に向けて協働する姿は、人口減少や商店街の活性化といった課題を抱える多くの地域にとってヒントとなるでしょう。いこみなの「みな」は「みなみ」であり「みんな」。生駒駅南口エリアがどのような新しい魅力を獲得し、どのように地域コミュニティが発展していくのか、その歩みをぜひ、応援してください。
事業者育成型公募についての記事はこちら
https://enjoyworks.jp/times/041/
生駒市は人口約11万4000人。「いこみな」の取り組みは、地方都市が抱える悩み、課題…「空き店舗」「にぎわい創出」「プレイヤー発掘」の参考例となりそう