私たちが何気なく呼んでいる地名や土地の名称には、一体どんな物語が隠されているのでしょうか。その場所の地形や風土を由来とするものも多いのですが、「名前を付ける」という行為は、単なる識別のためではありません。特別な何かを、たった数文字の中に刻み込んでいるとも言えるのです。
横須賀市の「月見台」。これは正式な地名ではありませんが、旧市営住宅の名称です。ここは単に高い場所(台)というだけでなく、月を愛でるための特別な場所として選ばれ、名付けられた…と想像します。ただ、そんなロマンチックな名前を持っていても、時代に逆らえず、市営住宅としての役割を終えて、住み人(ここだけの景色を楽しむ人)が退いた団地は、時が止まったような佇まいでした。そこから5年。今年の夏から「なりわい住宅」として新しい命を吹き込まれ、小さな商いと暮らしが共存する魅力的なまちへと生まれ変わっています。そこで私たちは10月5日(日)、この再生の節目を祝う「月見祭」を企画しました。
標高約50mの小高い丘、眼下には東京湾。月が良く見える「台地」。月見台は、まさにそのものの名称
なぜ「月見祭」なのか──歴史と現在をつなぐ特別な意味
中秋の名月で月が最も美しく見えるこの時期に「お月見」のお祭りを。「ヴィンテージ&クリエイティブ」をコンセプトにした、横須賀市との官民連携プロジェクトの節目も合わせて、“みんなで”お祝いしたい――。そんな思いを持ってプログラムを構成しています。
月見台住宅の特徴は、住むことと働くことが地続きである暮らしを実現する「なりわい居住」という概念。平屋建て22棟58戸の建物を、店舗兼住居として活用し、入居者自らが店主となって小商いを営む──これまでの空き家活用とは一線を画すアプローチです。プロジェクトの根底に流れるのは、「みんなで場をつくる」という理念。入居者の多くは、ほぼスケルトンの状態で引き渡された住戸を、自分たちの手でDIYしながら店舗へと作り上げています。さまざまな「月見台らしさ」が生まれつつあるこの場所でのお祭り。企画にあたって重視したのは、単なるイベント開催ではなく、地域コミュニティとのつながりを深める機会とすること。自治体と事業者、入居者、投資家、そして地域住民が一体となって新しいまちづくりに取り組む。おそらく国内に例のない「まち再生」の手法と現地のリアルを感じられる1日にしたいと思います。
個性豊かな店舗がずらり。サイクリングの休憩地として、ここでの1点を探して…訪れる人も増えています
当日の目玉のひとつは、地元のプロジャズバンド「横須賀オールドボーイズ」によるライブ。渡辺貞夫カルテットのリズムキーパーだったドラムの守新治さんをはじめとする実力派ミュージシャンによる演奏は、月見台の新しい文化的価値の発信を体現する企画といえるでしょう。実は横須賀は「戦後ジャズ発祥のまち」として、市内でも毎秋、ジャズイベントが開催されています。7月の「スターマーケット」に来訪した上地克明市長も、ここに音楽があれば…との話をしており、節目のセレモニーとしてジャズの演出はピッタリなのです。
また、入居者によるマーケットは、各店舗の魅力を直接体感できる機会に。月見台住宅全体の多様性と魅力を感じてもらえると良いなと思っています。そしてお餅つきも。「中秋の名月」に「月見台」で「餅つき」――ここでしか叶わない組み合わせが大きなポテンシャルとなることでしょう。鎌倉時代から愛され続ける月見の名所で、令和の新しいまちの誕生を祝う特別な日。多くの方に楽しんでもらえると嬉しいです。
月見台住宅*ウェブサイト https://tsukimidai.com/
【イベント概要】
月見台住宅*月見祭
開催日時:10月5日(日)12:00~19:00予定
天候:小雨決行(雨天時中止)
参加費:無料
会場:
月見台住宅*(横須賀市田浦町1丁目54)
*JR横須賀線「田浦」駅 徒歩約10分
プログラム:
•入居者によるマーケット(12:00~)
•JAZZバンド「横須賀オールドボーイズ」ライブ(15:30頃~予定)
•来賓及び関係者挨拶
•餅つき企画
共催:株式会社エンジョイワークス・横須賀市
アクセス注意事項:
国道16号から月見台住宅へは道路が狭隘で、すれ違いが困難なため、お車でのご来場はお控えください。公共交通機関または自転車(ハローサイクリング利用可)でのお越しをお願いいたします。
ランドスケープも着々と前進。色を失っていた場所に、再び光と彩りが宿っています