日本全国の多くの自治体が今、公共施設の「これから」という重要な課題に直面しています。人口減少と高齢化が進む現在、その存在意義と運営方法について根本的な見直しを迫られています。税収の減少により維持負担が重くなる一方で、建物の老朽化、施設そのものの役割など、立ち止まって「どちらの方向に進むのか(進むべきか)」。さまざまな選択肢を検討せざるを得ないのです。機能の集約・複合化、民間への移譲、用途変更による新たな活用の手法はありますが、単純に効率性だけを追求すれば済む問題ではありません。長年地域に愛され、住民の思い出と歴史が刻まれた建物に対して、「残してほしい」「取り壊さないで」という切実な声が上がるのは当然のこと。利用者の想いと将来にわたる運営負担の両方を理解した上で、地域にとって最適な解決策を見つけ出すこと——これこそが、現代の地域づくりに求められている本質的な課題なのです。
神奈川県真鶴町にある旧土屋邸。石材業で栄えた土屋家の住まいだった歴史ある建物です。町営の民俗資料館として長年親しまれてきましたが、建物の老朽化や来館者数の減少から昨年9月に閉館となりました。「残したいけれど、今の形では難しい」——。昨年度、真鶴町とエンジョイワークスが国土交通省所管の「民間提案型官民連携モデリング事業(スモールコンセッション)」に採択されたことを機に、ここでの共創プロジェクトが始まりました。町とは公的不動産の利活用に関する包括連携協定を締結。昨年度は3回のワークショップを開催し、自治体所有の遊休資産を官民で連携して活用するにはどうすればいいかを考えました。この場所の「好きなところ」から「(施設に)どのような価値があるか」「何を未来に残したいか」をブレインストーミング。「これからも真鶴の歴史を伝える場として機能させたい」「現実問題の老朽化に対して、維持させるためには今の形では稼げない」「多世代を巻き込みながら皆に使ってもらえる場にしていく必要がある」――そんな声が集まりました。
旧土屋邸は民族資料館として1980年代に開館、2019年に市が運営を引き継いだ。ワークショップではさまざまな意見や「思い」が寄せられました
「思いを聞く」だけでは前には進めません。その次のステップの土台となるのが、国土交通省が推進する「スモールコンセッション形成推進事業」。私たちエンジョイワークスは今年度、この事業における真鶴町のパートナー専門家として選定されました。地域の遊休公的施設等を官民連携で利活用する「スモールコンセッション」の円滑な形成に向け、初期段階における課題の整理や事業構想の立案を支援する専門家を地方公共団体へ派遣するもので、前年度の動きから一歩進んで、もっと顔の見える「共創体制」を築いていくことになりました。
今年度の事業は、3回のワークショップを踏まえた次のアクションへ。旧土屋邸を対象に、地域資源の活用や官民連携の手法を活かしながら、実現可能な利活用計画の検討・構築を町とともに進めるためのイベントを開催します。題して「旧土屋邸の未来を考える〜事業者公募要件を町民自ら考える会議」。この“会議”は机上の意見交換だけを目的とするのではありません。地域住民が主体となって実際の公募条件を設定する、画期的な取り組みです。「こんな事業者に来てほしい」「こんな活用をしてほしい」という具体的な要件を自分たちでまとめ、それが実際の公募条件に反映されるという仕組みを考えています。これまで地域で数多くの“会議”(アイデアを形にする「きっかけ創出の場」、実際の事業化につながる「実践的なブレインストーミング」、オープンな「議論の場」)を催してきたエンジョイワークスならではの「仕掛け」なのです。
「こんな場(施設)になったらいいな」という理想を語り合い、その思いを実際に運営する事業者を募る際の公募の条件に反映させる。行政が一方的に条件を決めるのではなく、地域の皆さんが主役となって形にしていく。性急に何かを決めるのではなく、「どうやって大切な場所を守り継いでいけるだろう」と一緒に考える時間を持つ。これが、「新しい公募のかたち」なのです。
昨年来、真鶴町での取り組みを通じて見えてきたのは、参加される皆さんの「旧土屋邸を大切に守り継いでいきたい」という温かい気持ち。その想いを大切にしながら、現実的な課題も一緒に乗り越えていく——それが私たちエンジョイワークスの役割だと考えています。答えを押し付けるのではなく、地域の皆さんと一緒に歩きながら、住民が主役のまちづくりを実践していく。真鶴町での経験は、きっと全国の似たような課題を抱える地域にとっても参考になるはず。公共施設の未来を考えることは、地域の未来を考えることそのもの。歴史や文化、そして何より住民の想いも含めて、みんなで納得できる道を見つけていく。そんな新しい地域づくりの形を、真鶴町の皆さんと一緒に実現していきたいと思います。
【 「旧土屋邸の未来を考える」〜事業者公募要件を町民自ら考える会議〜】
第1回:2025年8月9日(土)10:30-12:30
第2回:決定次第お知らせいたします
場所:旧真鶴町民俗資料館
参加費:無料 ※詳細は別途お知らせいたします。
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人口約6000人。神奈川県西部の穏やかな海辺の町・真鶴。そんな環境から移住希望者からも注目されている