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「まちとくらしのトリセツ」で紐解く、“葉山らしさ”って、何だろう

Feature Project 公開日:2025/07/15

海と山に抱かれた自然、風にゆれる緑、視線の先に広がる空の広さ。日々の暮らしの中で当たり前のように見えている葉山のこの景色は、「制度」と「住民の意識」によって支えられているものだった――。住民が声をあげ、手を動かし、考えて作られた「まちのルール」もあります。でも、これからもずっと今の姿が続くとは限らないのです。制度の隙間や時代の変化によって、まちは少しずつ姿を変えていきます。つまりは「まちの景観」は、“誰か任せ”では保たれないのです。

“葉山らしさ”って、何だろう。あらためて「町のいま」について学び、住民同士が対話する場が必要ではないか——そんな思いで私たちが企画したのが、「まちとくらしのトリセツ」と題した勉強会。毎月1回、全6回のプログラムを計画しています。第1回のテーマは「葉山の景観はどう守られてきた?この先どう守っていく?」。6月の最後の土曜日、地元住民を中心に、多様な世代が集まり、「わたしたちのまち」の未来について語り合いました。

まずは、葉山の景観を形づくる要素と、それを支えてきた制度について体系的に説明。この町で特徴的なのは、建物の高さや用途地域の制限のほか、建物の配置や緑地の確保などを細かく規定し、隣地とのゆとりを確保する「風致地区」の指定面積が広いということ。これは、「緑が目に入るまちなみ」の基盤となっていて、敷地の細分化防止や、宅地の20%を緑地として残すなど、町独自のルールも定められています。特に、町独自の「まちづくり条例」は、法律の枠組みではカバーしきれない開発・景観・住民協働について条例形式に明確にしたもので、制定は約20年前(2003年)と比較的最近のもの。住民主体のまちづくりを推進するための枠組みを制度化した、全国的にも注目される条例だと言われています。

葉山まちづくり条例(町ウェブサイトより)
https://www.town.hayama.lg.jp/soshiki/toshi/4/2/1720.html

ただし、これらの法律や条例があるからといって、景観が「永続的に守られる」わけではありません。建築基準を満たせばマンションは建つし、開発事業に当たらなければ土地の細分化も進んでしまいます。つまり、“制度”に頼っているだけでは、思い描く景観を保ち続けることはできないのです。参加者の中には、「葉山の景観を守ろうと活動したが、開発されてしまったことがある」といった経験がある方も。「いま、開発が進んでいる場所が気になる」「町のルールをもっと分かりやすく知る機会があるといいな」といった声もあり、制度と現実のギャップへの関心が高まっていることがうかがえました。

会場の平野邸Hayama(写真左)は昭和築の古民家を「泊まれる地域活動拠点」として再生した例のひとつ。写真右は当日の様子

後半のディスカッションでは、「この先、どんな葉山であってほしいか」「個人として何ができるか」などをテーマに、参加者それぞれが感じていることを共有しました。「葉山初心者だけど、もっと知りたい。葉山が大好きだから」「ディスカッションが活発で驚いた。私も少しでも葉山を良くする活動に関われたら」「こうした勉強会を開いていただけることが、とてもありがたい」―そんな言葉も。制度や景観の話にとどまらず、「まちに愛着を持つこと」「住民同士の対話を続けること」が、景観保全の根っこにあるという共通認識が見えてきました。最後に、葉山町の「景観計画変更の提案制度」に関する話題や、住民による「地域まちづくり推進協議会」などの仕組みも紹介。まちの「今」を立体的に学ぶ機会になったようです。

次回は7月27日(土)。「葉山のこみち」がテーマです。今回、参加者から「(町内で)道が狭く車が通るのが危ないと感じる」との声がありました。確かに、車社会の現代に、町内の道路事情はあまり良いとは言えないかもしれません。そもそもなぜ、葉山は細い道が多いのか?「こみちとは?」…そんな切り口から「葉山らしさ」を学びます。

こみちのあるまちの情緒、こみちからの風景…私たちも地元NPOと協働で「こみちツアー」を長年にわたって実施しています

そして、8月以降も「水とくらし」「相続」「民泊」「町有地の活用」など、暮らしに根ざしたテーマを予定。まちの未来を“他人事”にしない。制度でも、誰かの善意でもなく、「まちづくり」は、私たち一人ひとりの手の中にある――。そのことを忘れずに、葉山の「いまと未来」をともに考えていこうと思っています。

■まちとくらしのトリセツ
第2回「葉山のこみちがなくなる日が来てしまう…?」
日時:7月26日(土)13:00〜
会場:平野邸Hayama(葉山町堀内1833)
参加無料、問い合わせ・申し込みはこちらから
https://enjoystyles.jp/index.php?c=news&id=592

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