「地域おこし協力隊」。なんとなく耳にしたことはあっても、実際にどんなことをしているのかはよく知らないという方も多いかもしれません。2009年に総務省によって創設された制度で、都市部から地方へ移住し、地域に新しい風を吹き込む役割を担っています。赴任は最大3年間。地方自治体に雇用または委嘱され、地域の課題解決に取り組む「仕事」です。
「隊員」の活動は実に多種多様。観光資源を活用した企画運営や情報発信のほかに、農業や漁業といった一次産業の現場で担い手として汗を流す人もいます。空き家を改修して移住希望者向けに紹介したり、地域行事を盛り上げたり、新たなイベントを立ち上げる人もいれば、地元の企業やNPOとタッグを組んで事業開発に取り組む人も。自治体からのミッションに取り組むだけでなく、自ら課題を見つけ、地域の人たちと一緒に解決策を模索していく。そんな「自走力」や「共創力」が求められる制度です。地域の「おこし方」はさまざま。“入り込んでいく力”が試されるまさに実践型のフィールドワークでもあるのです。
地域おこし協力隊(総務省)Instagram
https://www.instagram.com/mic_chiikiokoshikyouryokutai/
「ニッポン移住・交流ナビ」ウェブサイト
https://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/
協力隊が地域にもたらす価値の一つは、「外からの視点」を持った人が入ることで、地域の空気が変わること。コミュニティに風を通すような存在になり、地域に眠る資源や可能性を見つけ出す役割も果たしています。自治体にとっては、人材不足のなかで新たな担い手を確保する手段であると同時に、「一緒にまちをつくる仲間」を迎え入れるという意味も。同時に、(協力隊人材への)ミッションの明確化やサポート体制の整備、地域住民との関係性づくりなどの視点も必要で「地域の未来に関わる人材投資」でもあるのです。
エンジョイワークスが自治体と連携してエリアリノベーション事業を手掛けている和歌山県紀の川市。民家を改修してシェアハウスに、大正期の旅館を再生して地域交流拠点と宿泊の複合施設「KINOKAWA MIKASAKAN」に。これらの運営を担当しているのが、2人の「地域おこし協力隊」です。もともと、総務省の別の制度「地域活性化起業人」を使って、社員1人を和歌山県紀の川市に派遣していたのですが、空き家・遊休不動産を対象に事業を作り出していくなかで、一緒に再生プロジェクトや施設運営、SNS発信・イベント企画運営などの業務を担う人材として、「協力隊」を募集。20代の若い2人が来てくれました。
地域交流拠点として2024年6月に開業した「KINOKAWA MIKASAKAN」。昨年末から月1回のマルシェを定期開催、人の集まる場所に育てているところ
一人は大阪市出身の三宅慧。実は高校生の頃から「地域おこし協力隊」の存在を知っていたそうで、移住関連のウェブサイトからここでの仕事を見つけたとのこと。家具職人の見習いをしていた経験を活かして、「KINOKAWA MIKASAKAN」では改修工事で出た古材を使ってテーブルやスツールなどの家具製作やDIYもしています。このほか、施設の運営業務やSNS発信など業務は多岐にわたるのですが、ここでの経験を「(初めてトライすることが多いけど)将来できること=手札が増えているのは間違いないと思う」と前向き。これに加えて「自分が“好きなこと”ではなくて、“出来ること(得意なこと)”が分かっているなら、それを仕事にしていくステップのひとつとして、協力隊制度を活用してチャレンジするのはいいかも」と話します。その三宅に誘われて協力隊の一員になったのが、小川凛子。施設の運営業務として、飲食関連の作業や発信なども手掛けています。
写真左から三宅と小川、右の写真は三宅の作業の様子(マルシェ用テーブルのDIY)
運営スタッフ3人とも20代の若者。施設の動かし方や人のつなげ方…と言った部分も手探りでしたが、定期マルシェの開催や地域拠点としての認知度アップなど少しずつこの町に種を撒いています。「ひとつの施設を立ち上げから携われたという事はかなり大きな経験。これから何か挑戦する際にもこの過程で学んだことが活かせると思う」と小川。「自分がやりたいことや、やれることを見つけて、自信をつけるきっかけになるんじゃないかな」と協力隊の制度を活用した挑戦を振り返って話してくれました。
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協力隊の任期は原則1〜3年。その後の進路が気になる方も多いと思いますが、実はこの制度は“キャリアの分岐点”としての役割もあるようです。任期終了後には、そのまま地域に残って「地域と関わる仕事」や「地方でのビジネス」を新たな軸に据えて再スタートする人が多いのも特徴。“地域に移住して終わり”ではなく、むしろ「そこからどう関わり続けるか」。3年間で終わる一時的な取り組みではなく、長期的に地域との関係性を築き、自分らしい働き方・暮らし方をつくっていける制度なのです。
地方には、まだ埋もれている資源や、光が当たっていない魅力がたくさんあります。けれども、それを掘り起こし、育て、伝えていくには、外の視点と情熱を持った人の力が必要。「地域で働くなんて考えたことがなかった」「自分に何ができるか分からない」。そんな人でも、協力隊の制度を通じて地域に入り、出会い、学び、自分自身を試すことができる。これからの暮らしや働き方を見つめ直している人にとって、その一歩を踏み出すヒントになるのではないでしょうか。
エンジョイワークスでは彼ら2人に続く「協力隊」の仲間を募集中。
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家具の再生事例。施設運営の傍らDIYや制作に勤しむ。「MIKASAKANらしい」再生と循環の共有のカタチ