ENJOYWORKS TIMES

地域から新しい経済のかたちを生み出す、「ローカルIPO」への期待

Report 公開日:2025/05/20

地方創生の新たな未来を切り開く――。私たちエンジョイワークスは、地域に根差した新たな資金循環と企業成長をテーマにした「ローカルIPOサミット」を5月9日に開催しました。「ソーシャルプロジェクトファンド1号」として資金調達した香川県三豊市での「URASHIMA VILLAGE」の取り組みを話題に、地域の事業者や起業家、大手企業や地方金融機関など多様な立場の人々が集まりました。会場の3×3 Lab Future(大手町)は満員の100名超、オンライン視聴参加も常時100名以上となった注目のイベントをレポートします。(取材:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)

――国土交通省が語る「ローカル×FTK」とは?
今回は4つのセッションを用意。冒頭では国土交通省不動産市場整備課の担当者が登壇し、「不動産特定共同事業法(FTK)」について解説していただきました。なぜ国交省?なぜFTK? と思うかもしれませんが、この法律自体、地方の不動産を活用した投資を促進するために設立されたもの。私たちが手掛ける地方活性化クラウドファンディング「ハロー! RENOVATION」もこの制度が土台になっています。現状としては、FTKを使った約2割~3割のファンドが地方物件とのことなのですが、国としては、この仕組みを活用して地方経済への資金流入をさらに活発化させていくことを期待。「こうした制度が地域事業に活用されることで、地方の経済に新しい循環が生まれる」と話していて、所管官庁としても、地方活性化の実現に向けて、今後の規制整備と健全な市場運営の重要性も強調。資金調達だけでなく、投資家が地方とつながる手段としての可能性を含めて「地域活性や地方創生で繋がっていくといいなと思う」と結びました。

――改めて考える「なぜ今、ローカルIPOなのか?」
そして、ここからが本題。「なぜ今、ローカルIPOなのか?」をテーマに、URASHIMA VILLAGEを手掛ける瀬戸内ビレッジの古田秘馬さん、エンジョイワークスの福田が登壇しました。冒頭でまず語られたのは、「ローカルIPO」という概念に込めた想いと、その背景にある課題。もともと、地域で事業をつくりあげ、それを次のフェーズへ移行させていく次の手段として、「EXIT(イグジット)」という言葉を使っていたという古田さん。ただ、周囲からは「事業からの撤退」と捉えられることが多く、地域の人々から「結局、事業を売り払って終わるんでしょう?」という声が上がったとか。「私たちは不動産部分の売却を通じて資金を回収するけれど、事業自体は継続して地域に在り、新しい担い手にバトンを渡していく仕組み。でも、それが伝わらなかった」。そこで、“売却”よりも“上場”に近いニュアンスとして「ローカルIPO(Initial Public Offering)」という言葉を再定義したのだという。「地域に根ざした企業やプロジェクトが、個人の力で“上場”するように、みんなで支えながら育てていく」──そんな願いが込められているのです。

イベント主催者の瀬戸内ビレッジ・古田秘馬さん(写真左)と、エンジョイワークス・福田

そして、違う目線でエンジョイワークスの福田が強調したのは、個人金融資産と地域のあいだの距離。「日本の家計金融資産は1500兆円以上ある。でも、そのほとんどが眠っていて、地域には回っていない。もし1%でも地域のプレイヤーに流れるような仕組みがつくれたら、地方の事業はもっと可能性を持てるのでは」と語りました。都市から資本を呼び込むツールは少しずつ広がっているものの、既存の融資や投資の仕組みだけでは間に合わないという現状も。古田さんはこう語ります。「ローカルにしか見えない“価値”を見極めて、その価値を信じて投資してくれる人とつながる必要がある」と。つまり、ローカルIPOとは、地域資本の再編成であると同時に、既存の資本主義では動かせていない価値をすくい上げる仕組み。個人が地域プロジェクトに資本参加することで、場所の価値を育て、暮らしと経済をつなげる。これらの言葉には、そんな「もう一つの未来」を切り開く可能性が込められていました。

――共に地域をつくる仲間になる。投資企業、事業者の「まざりあい」
次は、三豊のプロジェクトに投資した西日本旅客鉄道(JR西日本)と日本航空(JAL)、地元地銀の中国銀行の担当者の声を聞くセッション。なぜ企業が地方のプロジェクトに?という部分を聞いてみたい人も多かったようです。その理由や背景について、JALの中下広基さんは「これまでは“人を運ぶ”のが仕事だったが、これからは“関係やつながりを運ぶ”会社でありたい」と語ります。地域との関係性を深める取り組みを進める中で、今回の三豊市での本気の姿勢に共鳴し、出資を決めたとのこと。JR西日本の南條兼人さんは、三豊を訪れた際の印象として「若者たちが町を自分たちでつくろうとしている姿に衝撃を受けた」と話します。出資は単なる経済的支援ではなく、「地域の挑戦に企業としてどう関わっていくか」という問いへの答え。さらには、鉄道会社として地域に貢献できる可能性に改めて考えるきっかけになっていると言います。また、金融機関の立場で「これまでは“貸す”ことで地域を支えてきたが、今は“出資”で共に挑戦する時代」と話したのは、中国銀行のお二人。「金融機関として、これからの時代、地域に並走する姿勢がより重要になっている」と言います。このセッションを通じて明確になったのは、出資は単なる金銭的支援ではなく、「共に地域をつくる仲間になる」という視点。ローカルIPOという新しい仕組みは、行政や補助金に依存しない、地域自立のためのひとつの解で――。そしてそこに企業が関わることは、社会的責任の延長線ではなく、自らの変革と可能性を広げる“機会”なのかもしれません。

三豊のプロジェクトに投資した企業が登壇。「なぜ三豊に?」「ローカルIPOの仕組みの魅力は?」など参加企業にとっても興味深いセッション

そして、次のセッションは今後「ローカルIPO」の実現を目指すプロジェクトの事業者が登場。地元の観光資源を活用した宿泊施設、地域産品をテーマにした製造業、空き家をリノベーションして展開する地域内流通型の商業拠点など、多様な取り組み。登壇者たちは共通して、「資金調達のためだけでなく、投資を通じて関係人口や共感者を増やす」という視点を重視しており、数字だけでは測れない「地域とのつながり」を主軸に事業を組み立てているのが特徴的でした。

「NEXTローカルIPO候補!」の地域プレイヤーがずらり

予定していた2時間を越える熱気あふれるセッションが続き、地域での挑戦に共感する多様なプレイヤーが横断して語り合う、貴重な機会となりました。「ローカルIPO」という言葉が示すのは、単なる資金調達の手段ではなく、地域の想いと都市の資本がつながる新しい経済の在り方。ここから、未来の地域経済のエコシステムが立ち上がる兆し――「ネクストローカルIPO」の動きにも期待が高まった1日でした。

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イベントを終えて、代表の福田はこう語ります。「正直(ローカルIPOは)、テーマとしては難しく、分かりにくさもあったと思います。それでも多くの方にイベントに参加いただき、地域活性に関わる大手企業やプレイヤーとの共創に関心が集まったことに、大きな手応えを感じました。これは『三豊だからできた』ではなく、他の地域にも広げていけるスキーム。この出会いや対話が、これからの共創の積み重ねにつながっていくことを期待しています」

当日プログラムはこちら
https://enjoyworks.jp/news/31186/

プログラムの最後は「ネットワーキングタイム」。自然と相談やつながりの輪ができていました!

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