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「持続可能な場」と人の循環とは? ダウンインターンを通して旧村上邸で考えたこと

New Topics 公開日:2024.11.05

SDGsという言葉が生まれたのは2015年ごろのこと。日本語で置き替えると「持続可能な開発のための2030アジェンダ」となります。未来に向けて守り育てる…環境保全などの取り組みは分かりやすいのですが、「持続可能」という言葉はいま、生活を取り巻くどの分野にも必要な視点です。これは、私たちも建物や「場」に関わる中で頭に置いている言葉。その実践例が「旧村上邸―鎌倉みらいラボ―」にあります。

茶室や能舞台もあり、まさに「鎌倉のお屋敷」という佇まいの旧村上邸

旧村上邸は、所有者の故・村上梅子さんが鎌倉市に遺贈した昭和初期築の日本家屋。市のプロポーザルを経て、この邸宅を利活用する事業者としてエンジョイワークスが選ばれたのが、2019年のこと。事業コンセプトなども地域の方やこの施設に関心のある方と一緒に考え、改修などの資金は“共感型”の不動産クラウドファンディング(当社運営の「ハロー! RENOVATION」)で調達。地域の方だけでなく企業研修(オフサイトミーティング)の場として多くの方に利用いただいています。歴史のあるお屋敷を保全しながら使い継いでいく。「鎌倉みらいラボ」と名付けているのは、開業するずっと前の企画の段階から、未来のこと、維持や運営の循環を考えてきたことから。

ここでの取り組みで特徴的なことがあります。それは、ダウンインターン。中心になっているのは、一般社団法人IKKA(代表・久保雅美さん)。ダウン症の子どもたちが持つ強みや良さを活かして活躍出来る場を広げることを目的に、彼・彼女らの親たちが2017年ごろに立ち上げた団体です。支援学校などを卒業した子どもたちの「“働く場所”の選択肢を増やしたい」と活動されています。そんなIKKAさんが旧村上邸で続けているのが、「仕事を通じて社会と交わることのできる」就労体験。これを「ダウンインターン」と呼んでいるのですが、プログラムの会場となるのは、IKKAさんの理念に共感する企業の職場など。安心して働くことができるよう、ダウン症児を育てた経験を持つジョブメイト(訪問型の職場適応援助者)がインターン活動をサポート。「社会と交わり、働くことを体感する機会を作りたい」―という親の思い実現させる場の一つとなっているのが旧村上邸なのです。

できることを伸ばす、選択肢を増やす―チャレンジできる世界

インターンのミッションは、邸内の清掃活動。拭き掃除や掃き掃除だけでなく、エンジョイワークスのスタッフが付き添いながら、庭の除草をすることも。当初は月1回だったのですが、ここ数年は月2回に回数を増やしており「普段の掃除では行き届かないところまできれいにしてくれるので、とても助かっている」と旧村上邸の運営を担当する、エンジョイワークス社員の小林徹也。1回きりの「お仕事体験」に留まらず、「役割を与えられて、しっかり取り組む」――。参加者も小さな(大きな?)責任感が生まれていて、「得意な作業はすごく集中して丁寧にやれる。掃除は成果が見えるし、なにしろ気持ちいい。達成感があるみたいで、ここに来るのをみんな楽しみにしています」と久保さん。他にも動物病院の掃除で同様にインターン事業を展開しているそうで「できることに注目してもらって、彼らそれぞれのスキルを活かせるということが分かったのは、大きな収穫」と話します。

最近では、旧村上邸でのインターン経験を経て有名ホテルに採用された方もいるそう。清掃の作業を身に着けるだけでなく、働く自信が生まれているのです。ほかにも、時間や日数に限りはありますが、保育園の保育補助や企業のコーヒーショップで働いている人も。「周りが“(彼らが)できることはこれくらいだろう”と、選択肢を狭めているという現状もあります。働きたいという意欲を実にしていくのも大切なのだ、と気付きになりました。もちろん、性格や個性もあるのですが、ネガティブ要素から考えるのではなく、止めないでやらせてみることも、本人の大きな一歩になるのです」。久保さんも、経験の積み重ねの大切さを改めて感じているようです。

掃除の中でもそれぞれ「得意な作業」を伸ばしてサポート。能舞台のある日本家屋という異世界での体験も刺激になっているそう

この取り組みの基盤になっているのは、「ソーシャル・インクルージョン」という視点。社会的包摂と訳すことができるのですが、社会的に全ての人を包み込み、誰も排除されることなく、全員が社会に参画する機会を持つことを意味しています。つまり、社会的に弱い立場の人も、自分らしく生きる地域を作っていくということ。そんな場を多様な人が混ざりあって循環させる。それが旧村上邸の「持続可能」な視点なのです。

エンジョイワークスが運営するカフェHOUSE YUIGAHAMAでのサロンで。写真左から2人目が当社の小林、一番右はIKKA代表の久保さん

施設運営という立場としても、この邸宅を丁寧に掃除してくれるダウンインターンの方々の活躍に助けられていますし、私たちも「ソーシャル・インクルージョン」を深く考える機会を与えてもらったと思っています。「ホテルに就職決まったよ!という知らせは、本当にうれしかった。一緒に掃除をしていて“仕事”のスイッチが入ったようで、表情も変わってきました」と話すのは、取り組み当初から関わっていて、インターンの身近な“お兄さん”のような存在の担当・小林。IKKAさんは活動のミッションに「一人一人が持つ『花』をみつけて、咲かせる」と掲げています。旧村上邸での活動が「花」の成長のきっかけになり、また、さまざまな「花」が咲いていく。私たちは、そんな循環をこの場所でこれからも一緒に描いていけたらいいな、と思っています。

■一般社団法人IKKAウェブサイトはこちら
https://peraichi.com/landing_pages/view/ikka4ds/
*ダウン症の親を中心に立ち上げた団体で「はたらく・まなぶ・くらす」をテーマに活動。メンバー10数人に、約90家族がオンラインサロンでつながっており、学齢期だけでなく、それ以降の思春期や成人期の悩みや話題も共有しています。ダウンインターンの他には、エンジョイワークスの運営する鎌倉市のカフェ「HOUSE YUIGAHAMA」ではSalon de IKKAと題して、メンバーがコーヒーを提供するリアルサロンも開催。

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