旅に何を求めるのか―? 日常で見ることのできない景色、その土地の味覚、リラックスタイム…。古民家や遊休不動産を「宿泊施設」に再生してきた私たちが、いま突き詰めて考えたい部分です。宿泊でのホスピタリティはもちろんですが、泊まった方が、どんな発見や喜び・体験を得て、帰って行かれたのか。それを実践する試みが、「泊まれる蔵」のプロジェクト―「The Bath & Bed Team」。未利用の蔵をBath(大きなお風呂)とBed(大きなベッド)を中心に据えた宿にリノベーションする事業です。いわゆる特徴の尖った「一棟貸し」の宿なのですが、ここに「泊まる」という体験に、どんな付加価値を付けていくのか。そんなところに知恵を凝らしているところです。
私たちが2018年に手掛けた「泊まれる蔵」は、神奈川県葉山町のThe Bath & Bed Hayama(ザ バスアンドベッドハヤマ)。蔵というサイズ感から、キッチンや広いダイニングが用意できないということをポジティブに捉えて、「まちに出る」ことを促しています。アクティビティは徒歩数分の海岸へ、そして葉山の町歩きも。近隣の気になるカフェやダイニングをチェックして…旅のプランを考える楽しみと「まちを知る、まちを楽しむ」がリンクする。宿には地元運営スタッフが作成した「旅のしおり」なる冊子を置いて、近くのお店やスポットを紹介しています。
The Bath & Bed Hayamaインスタグラム
https://www.instagram.com/the_bath_and_bed_hayama/
地元の人には当たり前の風景も、旅行客には新鮮…!
葉山はいわゆる都市部郊外の例。昨年~今年開業した「Bath & Bed」は、富山や長野、愛媛…と地方の郊外(の郊外)。少し戦略の趣が異なります。例えば、小布施の「The Bath & Bed Obuse」は、農園の中にある蔵。リンゴやマスカットなどの収穫体験をプランに用意しています。収穫と箱詰めを「お手伝い」してもらうのですが、採りたてを食べられることもあるし、作業をしながらの農園の方々とのコミュニケーションも貴重な体験。この地の名産・名店に限らず、近くのローカルな食事スポットを教えてもらう。そんな会話のやり取りで、エリアの「解像度」もぐっと上がるでしょう。宿ひとつだけで旅をプロデュースするのは難しいけれど…まちに視点を広げると、素材は無数にある。地元の人には日常のスポットも、旅と掛け合わせるとポテンシャルに変わっていくのです。
地方の郊外といっても、どこも同じような展開ができる訳ではありません。地域ごとの個性があり、例えば愛媛の道後(The Bath & Bed Dogo)は温泉街の徒歩圏。富山の立山(The Bath & Bed Tateyama)があるのは、地元の製薬企業が展開する健康をテーマにした現代の村「healthian-wood(ヘルジアンウッド)」の一角にあります。それぞれの立地で「何が使えるのか?」「(旅行客にとって)何が光るのか?」「その地で活かせるものは何か?」―滞在体験を盛り上げる仕掛けを考え、洗い出しているところです。
私たちが描くのは、「蔵泊」を通して、お気に入りの旅先を見つけてもらって、次の「蔵泊」に広げてもらうこと。ちなみに、泊まれる蔵のプロジェクト「The Bath & Bed Team」は現在6棟。さらに、いくつか新しい蔵の再生も始まっていて、目指しているのは全国100棟。つまり、蔵の外での楽しみ方、時間の使い方、体験コンテンツは100棟あれば100色という訳。その蔵にしかない付加価値、地域とのつながり方をどのように訴求していくのか――。地元の運営事業者と連携しながら、創り出そうと思っています。
The Bath & Bed Teamウェブサイト
https://bathandbed.team/