瀬戸内海に面していて「四国の表玄関」と呼ばれている香川県。47の都道府県でいちばん小さく、「うどん県」としておもしろい発信をしていることや、金毘羅さん、お遍路さん、アートや芸術祭などキーワードが詰まっています。そんな香川県の西部、三豊(みとよ)市で、新たな関係人口の創出で「地域創生モデル」として注目されている取り組みがあります。
三豊市は2006(平成18)年に三豊郡の高瀬町・山本町・三野町・豊中町・詫間町・仁尾町・財田町が合併して生まれた自治体。人口は約5.8万人、小さな地方郊外都市なのですが、近年、「日本のウユニ塩湖(のようなフォトジェニックな場所)」「瀬戸内の天空の鏡」…というキャッチコピーで、父母ヶ浜(ちちぶがはま)という約1kmの海岸に観光客が多く訪れています。その推移も驚異的で、2016年に約5,500人だったのですが*、昨年度(2023年)は約50万人と、数年で約100倍! そして、ここ1カ所だけでなく、観光ロケーションの魅力あるスポットも発掘されていて、その結果、市内宿泊客数も約2万人(2016年)から約3.7万人(2023年)と、「滞在型」の観光客が増えているというデータもあります。もちろん「何もせずに増えた」という訳ではなく、その仕掛けや受け皿に携わった人たちがいます。
*三豊市2023年観光データ(三豊市産業政策課/一般社団法人三豊市観光交流局)より
観光客がぐんと増え始めた2018年頃に開業したUDONHOUSEもそのひとつ。地方創生の事業に携わっていた方が移住して、地域に入り込んで立ち上げた事業です。讃岐うどんの手づくり体験ができる宿泊施設として、今ではインバウンド観光客にも人気のスポットになっています。そんな動きもあり、「大型の宿泊施設や温泉旅館などの宿泊事業が未発達な町で、観光の客足を街の経済発展に活かしたい」―と、2021年に生まれたのが絶景の一棟貸しの宿「URASHIMA VILLAGE」。浦島太郎が亀を助けた場所と言われる無人島・丸山島を眼前に、瀬戸内の「多島美」を楽しめる場所です。
これを運営するのは、瀬戸内ビレッジ株式会社。100年続く地元企業や地域に飛び込んで新たに事業を始めた企業など11社で構成されています。業種も多様で、地元のスーパーや建材業・家具製造業・工務店・建設業・バス会社・レンタカー会社・自然エネルギー業・宿泊業・地域プロデュースの会社――と、各々が持つ専門性を活かしたサービスの提供はもちろんなのですが、「地域の経済を自分たちで回す」というミッションを持っていることが特徴。宿の設計、施工だけでなく、宿泊サービス開始後の交通サービスから食の提供まで、今回の出資企業を中心に地元の企業がすべて行うモデルを構築しています。地域のリソースを発掘して、うまく組み合わせれば、経済も回るし、現状課題にも素早く知恵を巡らせることができる。つまりは、地域(の人や企業)そのものが、オーナーシップを持って事業を展開させる動きにつなげていく仕組みと仕掛けの構築が、ここで生まれているのです。
宿泊の受け皿がある(できた)ことで、確実に滞在時間や観光消費額も上がっています。それ以上に、関係人口の創出というもう一つの課題軸で、地元企業が「できること」にチャレンジする土壌を広げたことのほうが大きいかもしれません。そんな“いい風”が吹き込んできた同市は、「ローカルスタートアップ」と言われる「地方起業の町」としても知られるようになりました。すでに70近くのプロジェクトが生まれています。
関係人口の先、株主人口とは
そしていま、瀬戸内ビレッジの「次の」取り組みの下敷きになっているのが、エンジョイワークスの考える「地域エコシステム」。私たちが手掛ける「① つくるファンド(買取再販など)=人口を増やす」「② 育てるファンド(物件再生&事業運営)=事業を増やす」「③ 持続させるファンド(運用中事業のリース展開)=株主人口を増やす」の3つを地域で上手く循環させる、というスキームです。この③にあたる事業が今月スタートします。不動産をオフバランスする形で資金を回収し、次のプロジェクトに投資していく――そんな仕組みの構築に着手しています。
「株主人口」とは、あまり聞き慣れないかもしれませんが、その土地に関心のある人・応援したい人・取り組みに興味がある人…など、今よりももう少し広い範囲。プロジェクトや土地への「想い」を受け取り、大きい規模の「投資」を通じて継続した事業をさらに展開させていくイメージ。三豊ではこれら、形態の異なるファンドを組み合わせながら、お金と人、モノの循環をボトムアップさせていこうとしています。
このように、地元の民間企業の動きが活発な三豊市ですが、先進的な取り組みの「感度」が高い自治体でもあります。国の進める「デジタル田園都市国家構想」で事例を報告していますが、AI人材の育成とともに、新しい技術を活用した地域課題解決や事業創出の支援、MaaS(ICTを活用した移動支援)やオンデマンド交通の実証実験も行っています。これも瀬戸内ビレッジなど地元企業とも連携。「小さな地方都市」が秘めている、大きな可能性。元気なまちのヒントがここに詰まっています。
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香川県は(県内あちこちに“ため池”があるように)年間降水量が少ない自治体として知られていますが、日照時間もトップクラス。温暖でカラッとした気候が特徴です。私(筆者)は三豊市に合併する前の旧・仁尾町で1980年代に開かれた「太陽博」に行きました。太陽エネルギーを活用した新技術などを披露する博覧会で、太陽熱の発電所などが設けられ、太陽モチーフにしたデザインを強烈に覚えています。電気を生む(新エネルギー)という国をあげての壮大なプロジェクトだったようで、残念ながら実用化まではたどり着かなかったようですが、いまの時代に当たり前のように見かける太陽光パネルなど再生可能エネルギーの‟はしり”だったのだと、時代を超えて感慨深い……!
そんな特徴的な気候に加え、ミネラル豊富な瀬戸内の海風もあって果物の栽培がさかん。かつては製塩業で栄えていたそうです。そして現在。土地が持つ自然の恵みと「まちづくりマインド」の高い人たちが混ざりあっている三豊市。私も久しぶりに、この町に足を伸ばしてみたくなりました。