私たちの身の回りにある「公共施設」。市役所や区役所、学校、体育施設、ホール、図書館・博物館、福祉の支援拠点…など多種多様にあります。住民に必要な施設…と言っても、人口構成の変化や人口減、建物の老朽化といった経年での課題も生まれていきます。よくあるのが、住民に必要な行政機能を集約して、店舗など商業ゾーンがある複合施設に建て替えするとか、(建物を)民間事業者に売却し、リノベーションや利活用をしてもらうというケース。地域全体のインフラまで巻き込んで再開発に官民で連携する例も増えています。民間の知恵や経験、ネットワークを活かして公共施設をボトムアップしていく。そんな動きが加速しています。
これらに該当するのは、少し大きめの規模。実は、自治体が所有・管理する施設(物件)は、大小さまざまで、歴史的な建造物や住民から寄贈された古民家なども含まれます。建物の(かつての)所有者が著名な人であったり、意匠に特徴があったり。「保全」の観点から自治体の所有になっているケースも少なくありません。ただ、建物である以上、維持管理は必要ですし、「何のために自治体が所有しているのか」…そんな疑問も浮かんでくるでしょう。一方で、行政側には人材や財政資源に制約があり、利活用をしたいと思ってもなかなか進められないというのが現状です。
そこで、国土交通省が今年6月に取りまとめたのが、「スモールコンセッション推進方策」。「スモールコンセッション」とは、地方公共団体が所有・取得している空き家などの身近な遊休不動産について、民間の創意工夫を最大限に生かした小規模なPPPやPFI(官民連携)によって利活用していくこと(*コンセッション=公共施設等運営事業)。つまり、「由緒のある寄贈された古民家」…のような建物も、自治体が民間事業者と連携しながら再生や利活用に取り組むべき、という方針です。スモールコンセッションを普及させることで、まちにある遊休公的不動産の「小さな再生」を連鎖させてエリア全体の価値向上につなげていこうというわけです。
先ごろ、エンジョイワークスが採択された、国土交通省の令和6年度「民間提案型官民連携モデリング事業」。スモールコンセッション分野で「まちなか公的不動産再生モデルの構築」が選ばれました。具体的には、自治体所有の旧家などの公的遊休不動産を官民で連携して活用する取り組みです。事業の特徴は、地域住民を巻き込んで(利活用のプレイヤーを掘り起こして)、持続可能な「再生モデル」を構築していくということ。具体的な実施自治体も決まっており、人材育成・実行力のある組織構築・地域ファイナンススキームの構築…といった私たちがこれまで手掛けてきた事業のノウハウを、複数年かけて、多くの人を巻き込みながら実践していきます。
実は私たち、これに似た事業を既に展開しています。それが、エンジョイワークスの本拠地、鎌倉市にある「旧村上邸-鎌倉みらいラボ-」。昭和初期前に建てられた、能舞台・茶室付き古民家で、所有者から市に遺贈された土地建物です。所有者の市は「閑静な周辺環境を守りつつ建物を官民連携で活用する」と方針を決め、私たちは、施設の利活用を考えるイベントを何回も実施し、地域住民など関心のある「仲間」を増やしながら、「地域活動拠点と企業の研修所」というコンセプトにまとめました。市から事業者に選定されて、開業から5年。同施設は官民連携によるPRE(公的不動産の活用)による土地の利用と持続的な運営の仕組み構築に評価をいただき、第17回土地活用モデル大賞(主催:一般社団法人都市みらい推進機構、後援:国土交通省)で「都市みらい推進機構理事長賞」を受賞しています。
市保有の邸宅を利活用し、地域コミュニティの場に/自治体共創CASE②鎌倉市
(メールマガジン記事)
https://enjoyworks.jp/times/012/
官民連携の大きな開発や規模の大きい施設の再生は、話題にもなりやすいのですが、まちなかの小規模の遊休不動産にもっと目を向けることも必要です。地域社会に根付いている場所も多く、住民主体での取り組みがさらに求められていくでしょう。「スモールコンセッション」はその手段のひとつ。私たちは、施設の「これから」を考えて作っていく仲間を増やしながら…「まちづくりの輪」を広げていきたいと思っています。
民間提案に基づく新たな官民連携手法の構築を図るモデル的な取組を決定!(2024年7月12日付国土交通省発表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo21_hh_000250.html