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キーワードは「民主化」!――新しい不動産「業」を紐解く

Interview  公開日:2024.07.09

「不動産業」と聞いて、イメージするのは?まずは土地や建物を売買する、賃貸の仲介をする。もう少し大きなもので言うと、分譲住宅やマンション、商業施設を手掛ける企業もあります。つまり、不動産(物件)の開発・販売・流通・管理が、一般の人に「見えている」不動産の仕事。もう少し深掘りすると、「地域」とか「人」と切り離せない業界でもあり、旧態依然のビジネスモデルから一歩踏み出そうとしている事業者がじわじわと増えています。私たち、エンジョイワークスはそんな変化の芽を育ててボトムアップする「#新しい不動産業研究所」を2022年に立ち上げました。どこが「新しい」のか―?「不動産“業”とは」――? 所長の矢部智仁さんに聞いてみました。 (聞き手:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)

――まずは矢部さん自身、「不動産業」への接点はどこから始まったのでしょうか?
「不動産業」に関わるスタートは、30数年前に就職したリクルートで。当時は「住宅情報」という雑誌の全盛期。賃貸の広告営業セールスを担当していました。始めた頃は、不動産業自体「儲けの意識が強い業界」という印象が強かったのですが、多くの事業者と関わる中で、「人の暮らしになくてはならない仕事」を担っている人たちだと思うようになりました。新しい暮らし、チャレンジをする人の場を作る(その情報を集めて発信する)。不動産の広告産業は応援する仕事で、その循環が連鎖しているのだと実感しました。

現場には20年くらいいて、社内の住宅総研(現・suumoリサーチセンター)に移り、建設・不動産業の動向調査など「業界」を俯瞰して分析する業務に就きました。その後、不動産に特化したコンサルティング会社に移り、地方を含めより多くの建設会社や不動産事業者と直接関わりを持つようになりました。

その間、公民連携 (PPP) の事例を知り、建設・不動産業界の次の時代のあり方にとって重要な分野であると考えて、東洋大学大学院経済学研究科の公民連携専攻に社会人入学しました。機会をいただき、関東学院大学建築環境学部の非常勤講師として「不動産学基礎」を担当して、2016年からは東洋大学大学院公民連携専攻客員教授も務めています。現在は合同会社RRPの代表社員として、建設・不動産業や自治体のPPP事業支援に携わっています。

――業界をさまざまな角度で見て・学んで、「不動産業とは?建設業とは?」と改めて見直すきっかけになったのですね
タテヨコ斜めに分解して、建設・不動産の業界は「人々の暮らしやそれを支えるインフラを維持するための必要な存在」だと捉えています。加えて地域の情報に精通していて、技術や(不動産や建築の)知識もある。だから売買・賃貸や建てるということ以外に「できること」はまだ多いと思います。ですが……それを活かせていないとも思うのです。

例えば地方の建設業では行政から仕事が“降りてくる”のを待っているような事業者も多く、受け身になっていると強く感じることもあります。そうではなく、これからの時代は「自分で自分の仕事を作っていく」という必要性があるのです。そんな視点もあって、コンサルティング会社から独立して、合同会社RRPを立ち上げました。その目的は「地域密着の建設・不動産業を元気に、業界・行政・地域をPPP(官民連携)的取組で繋ぎ地域を元気にする」というものです。

――その延長線上にあるのが、エンジョイワークスが立ち上げた「#新しい不動産業研究所」ですね
エンジョイさんから「何か一緒にできないか」と声をかけていただき、「新しい不動産業研究所」(https://atarashi-fudousan.jp/)に関わることになりました。根本的な考えは建設業も不動産業も同じ。旧態依然の考え方で、今までと同じやり方で仕事をしていくのは難しくなってくるでしょう。バブル期のような地価の上昇に乗っかって利益を得るいわゆる「濡れ手に粟」のようなビジネスは成り立たなくなっています。環境の変化を乗り越えて生き残るためには、事業者自らが新しい考え方や新しいやり方を開拓していかなければなりません。「#新しい不動産業」は、新しい考え方・やり方の学びの場であり、同じ考えを持つ事業者がつながる場でもあります。不動産の価値をハードとソフト両面で高め、事業やエリアの枠組みに縛られることなく、新しい事業領域へのチャレンジを後押ししています。

登壇や視察の様子

――なぜ、不動産事業者の「つながり」と「知識」が必要なのでしょう?
携わっている産業の環境が時代とともに変わっていくときに、自分を変えていけるか―? これはどの業界も同じです。研究所で使う「民主化」と言う言葉は、手法を変える象徴のようなものです。リクルート時代から、「業」の介在価値というのを深く考えることがあったのですが、例えば、過去には情報は事業者だけが持っていて一般の人はあくまで受け手という情報格差を利用して業者の介在価値を意図的に作っていたわけですが。それが今は情報がオープン化しつつある。そうなると事業者が違う価値の提供を考えなければなりません。その一つのやり方が、地域で一緒に事業を作りながらお客さんを育てていく。新しい価値を生み出すためにユーザーやそのコミュニティが不動産事業に参加できる仕組みをつくる「民主化」です。上下ではなく横並びの関係性を育てて、巻き込む人を増やしていくことも必要です。

そして「民主化」と同時に「領域拡大」への取り組みが必要です。業の領域拡大とは従来の主業以外に関わる機会や分野、タイミングを増やし、我々が関わる不動産が地域社会や地域の人々の暮らしにもたらす価値を高める提案や取り組みをすることです。そのことがまさに「新しい不動産業」の介在価値だと思います。

「#新しい不動産業研究所」のミッションは不動産価値の最大化です。さらにもう少し大きな目線で見ると「地域の価値の最大化」とも言えます。個別の不動産がよりよく使われているような場所は地域も元気です。元気な地域では個別の不動産も「よりよく」使われています。地域にある個別の不動産をどう活かすか、それは地域を元気にすることに直結すると私は考えています。だから不動産価値の最大化は地域の価値の最大化…と言い換えられるのです。

――官民連携もさらに重要なキーワードになりそうですね
実は、行政も不動産業や建築業の活躍によって不動産がもたらす価値循環にあまり気付いていません。自治体の主要な自主財源は固定資産税と個人住民税ですが、待っていても増えるものではありません。「地域活性」「地方創生」という言葉をよく耳にしますが、それは「ヒト・モノ・カネ」がうまく流れる地域に育てるということ。そのキーマンとなるのが建設業であり不動産業なのです。

例えば、こんな例があります。北九州市では、自治体や地域の方々がスモールビジネスの活性化に2010年代から取り組んでいました。家賃が安い物件で事業をスタートして、積み上げて成長させていく。小さな産業を増やすことは物件の「借り手」を増やすことにもつながります。その結果、事業者の所得を増やして税収も上がる。そんな循環の結果、近年は公示価格も上がっています。「動かない」と思っていた価値もこうしたエッセンスで変わっていくのです。つまり、自治体と不動産業には共通利益があり、タッグを組んで当たり前という見方もできます。

「建築業」の分野では、2022年に立ち上がった「新・建設業 地方創生研究会」(2023年に一般社団法人化)に、事務局長として関わっています。デザインビルド型(企画提案型)建設業という視点で、実践から得る知見を交換し合う集まりです。これは地域の建設業、地方ゼネコンにとって必要な次世代戦略。地域社会に必要とされて、尊敬される企業の在り方を考え、学んでいます。

不動産業も建設業も、ビジネス環境の変化に生き残るために必要な視点はともに民主化と領域拡大であり、その考え方を通じて地域に価値循環をもたらすことなのです。楽しく仕事をしたいなら、(どうせなら)役に立つことを創り出していったほうがいい。そこにあるのが「#新しい不動産業研究所」。私たちの提供する学びの機会が、足元の部分を掘り下げていくきっかけになれるといいなと思っています。

「新しい不動産業」に関心のある企業に向けての発信は、オンラインの講演や講座から。各界のキーマンや先駆者も多数登壇

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国内で不動産業の登録がある法人数は、約37.8万社で宅地建物取引業者数は約13万(公益財団法人不動産流通推進センター資料より)。どんな小さい町にも「不動産」の看板を掲げた事業者がいて、その数は、コンビニエンスストア(約5.56万店舗/一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会資料より)よりも多いのです。

エンジョイワークスも不動産事業者からスタートしました。不動産業ならではの「街をよく知っている」という強みから生まれたのが、地域を巻き込んだ遊休不動産の再生や場の運営という新しい事業。そのための資金調達や空き家再生を手掛ける人材育成から、さらに踏み出して「#新しい不動産業研究所」の運営に至っています。私たちは、「まちづくり」の輪と循環を広げるべく、事業者自身のアップデートに併走していきます。

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