空き家や、空き店舗の問題は、全国どの自治体も頭を悩ませているもの。「これなら解決できる!」といった万能な特効薬は、現実のところありません。空き家に至る経緯も、人的リソースも、将来のまちづくりのプランなども、その地によって異なるからです。
私たちがいま、活動拠点を置いて具体的な事業を進めている自治体の一つが、和歌山県の紀の川市。県北部に位置し、西は和歌山市、北は大阪府に隣接する自然豊かな街。それを象徴するのが、農業産出額。和歌山県内1位・全国有数の果物産地でもあるのですが、そんな「魅力」があっても、すぐに人口が増える訳ではなく…。和歌山県自体、全国で2番目の空き家率という大きな課題を抱えています(2018年総務省統計局調査)。
紀の川市は、2005年に打田・粉河・那賀・桃山・貴志川の5つの町が合併して生まれた自治体。町それぞれの状況は異なるものの合併以前の2000年ごろからすでに、エリア全体の人口は減っていて、現在では転出超過(流入よりも転出が多い)かつ世帯数が横ばい(核家族化が進んでいる)ということが特徴的です。そんな同市からエンジョイワークスに「空き家」活用の相談があったのが数年前。そこから、「できること」を探りながら、2022年には、市と地元の二つの金融機関、私たち4者協働で「事業者育成型公募 in 和歌山県紀の川市」を実施しました。
これは、国土交通省「令和4年度 官民連携まちなか再生推進事業」の採択を受けて実施したもの。空き家を利活用して地域活性化に資する事業を立ち上げる事業者を募集・育成し、持続可能な事業を作り、地域住民の参加、関係人口及び定住人口の増加につなげることを目的としています。応募のあった事業者の事業計画をブラッシュアップする目的で、研修会などのプログラムを実施。地域参加型の運営手法を学ぶ場を設けました。
巻き込んで面白がってもらう
昨年(2023年)からは、空き家活用のモデル事例を創出する目的で、エンジョイワークス事業企画部の永田大樹が「地域活性化起業人」として現地に出向。空き家を活用する事業者の人材育成、事業化に必要な物件発掘のほか、空き物件の再生事業も手掛けています。実際に、市役所に紹介してもらった空き家を改修したシェアハウスで「住みながら再生」もしており、フローリング貼りや塗装・漆喰塗りなどのDIYも地元の学生など多くの方が参加してくれました。「(学生が)家で親と漆喰の粉を練ったよ、とか声をかけてくれたり、次にDIYやるときには手伝うね、と言ってくれる地元の方がいたり。立ち上げは大変だったけど、こういう輪が広がっているのは嬉しい」と永田。地域の人とのさまざまなコミュニケーションを深める中で、「いま、町で眠っているだんじり*を次のお祭りで出せないか、という声も出てきています」と話します。人を巻き込んで、共創の仲間が自然と増えていく。小さな「地域活性」を現地で実践しているところです。
*紀州三大祭のひとつ「粉河祭」で町を渡御するだんじり。祭りの起源は16世紀ごろ
そして今、粉河エリアのメイン通り(とんまか通り)にある元・旅館「三笠館」の再生プロジェクトも進んでいます。かつて、この地域で最大規模を誇った旅館をリノベーションして、宿泊施設や地元のフルーツを使ったカフェ、サウナのほか、人が集まれるデッキテラスなどを新たに設ける計画です。立地や元の建物のポテンシャルを活かす、農産物の魅力をその場で体験できる場を作る――。この取り組みは「資源の循環」も担っています。
私たちには立ち上げに関わって「終わり」ではなく、次に「つなぐ」使命もあります。「紀の川は面白いこと・新しいチャレンジができる場所!」――と、新たな事業者や「何か関わりたい」という人が増えていくことが理想であり、野望でもあるのです。
「市内では前例がなく(プロジェクトが)具体的にどう進むのだろうと思った」と紀の川市の担当者・中豊晴さん。永田をはじめとしたメンバーが地域で様々な人々を巻き込んでいる姿を見て、それが大きな期待感に変わっているようです。そして、「(三笠館の)事業が地元の活性や商売につながっていくイメージが湧けば、これが地域の起爆剤なると思う」と話します。さらには、今回リノベーションする施設で「働きたい」という声もあるとか。私たちは自治体とともに「目的のある場所」を作りながら、地域再生の一歩を踏み出しています。
代表・福田和則が語るエンジョイワークスの「価値共創」
【地域を巻き込んだ再生】旅館再生から始まる、紀の川のエリアリノベーション
https://www.youtube.com/watch?v=8RIwXZpGxLw
紀の川市での取り組み記事
https://osaka.enjoyworks.jp/search/31