いま、どの業界でも「人材不足」という言葉を聞かない日はないでしょう。企業だけでなく自治体も。地域活性、地方創生と言われる中で、それらの知見がある人、ノウハウを持った人を見つけ出して「我が街」で活躍してもらいたい…と思っても、その街に合った人材を自治体自らが探し出すのは、相当な労力が必要です。そこで、総務省は、地域力創造のための外部専門家(「地域人材ネット」登録者、通称「地域力創造アドバイザー」)によるサポート制度を設けています。
地域独自の魅力や価値の向上に取り組んでいる自治体が、活性化に関する知見やノウハウを有する専門家を招く制度です。対象となるのは①3大都市圏外(もしくは3大都市圏内のうちでも、「条件不利地域」を有する)、②定住自立圏に取り組んでいる、③人口減少率が高い…これらのいずれかに該当する市町村。「外部の専門家を招聘して地方への新しい人の流れを作ること」を支援するため、これにかかる費用の一部を国が負担します。2023年4月の時点で登録されている「地域力創造アドバイザー」は民間が502名、先進自治体の職員26名。そのうちの一人が、エンジョイワークスの松島孝夫。「アドバイザー」として、何ができるのか。これまでの事業で培った「強み」を聞きました。(聞き手:ENJOYWORKS TIMES 佐藤朋子)
――地域力創造アドバイザーになったきっかけは?
民間企業や専門家といっても、誰でもいいわけではなく、すでに自治体と連携した実績のある人のほうが事例としても分かりやすく、信用もある…ということで、1つ以上の自治体からの推薦が必要です。私たちは、2018年に共感投資のプラットフォーム「ハロー!RENOVATION」を始めて、少しずつ全国各地で事業について相談が増える中で、福井県池田町から声をかけてもらい、町と地元の金融機関とエンジョイワークスで「事業者育成型公募」を実施しました。町が所有する空き家を対象に、事業者を募り、研修プログラムやワークショップ、アイデアの選定を行い、実際に宿泊施設として稼働しています。「地域にある人や場所の資源を活かす」という取り組みの実績を受けて、その池田町から昨年度「地域力創造アドバイザー」に推薦いただいたという経緯があります。
――どのような知見を活かそうと思っていますか?
実際に自治体として「まちづくり」の計画を立てていても、まちの中におもしろい事業をつくる人、プレイヤーが少ないという現実があると思います。空き家や遊休不動産はたくさんあるけど、「活用する人がいない」というのが、自治体が抱える課題のひとつ。そういったもの(空き家や遊休不動産)を題材にして、「事業を作る人」や「地域資源の活かし方」「実現のために必要な資金の調達方法」などの知見を提供していきたいと思います。
エンジョイワークスは「まちの人と一緒に、まちづくりを進める」ことを大切にしているので、関わる事業者だけで完結するのではなく「(地域で)一緒に何を作るか」「地域外も含めた関係人口を広げてどのように事業を進めるか」という“まちづくりのデザイン”までお手伝いできるかな、と思っています。
また、私たちは、地域の人や企業に「投資」をしてもらうことで、「お金でも事業に関わっていく仕組み」を提供しています。これは、国土交通省の「地域価値を共創する不動産業アワード」でも評価いただいたものですが、地域の中でお金を上手に回していく「事業デザイン」も併走できると考えています。事業の持続可能性は常に考えなければいけないことで、「長く事業に関わってもらう人」を増やしていくことが理想です。投資は、その事業がどのように進んでいるのか関心を持つきっかけの一つ。「関わり方の熱を持ち続けてもらう仕掛け」でもあります。実際に、これまでの事業もさまざまな方の「知恵」が集まって、良いモデルができています。そういう循環をほかにも広げていきたいです。
――具体的にどんな人材として、「使ってもらいたい」ですか?
自治体の中にもまちづくりの「フェーズ」があると思います。空き家対策の対応という段階なのか、課題が整理できていてもプレイヤーがいないとか、プレイヤーがいてもそれをマネジメントする人材がいないとか、資金は調達できてもまち全体に循環させられていないとか…さまざまな場面で、私たちの知見や経験を使っていただけると思います。空き家の再生から、ファンドを使った資金の調達や「どうやって地域の中でお金を増やしていくか」ということまで、その地域の抱える課題に寄り添いながら、幅広く対応していきたいと思っています。
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国が支援する人材登用に関しては、このほかにも「地域活性化起業人」「地域おこし協力隊」という制度があります。こちらも自治体からの要望を受けて、企業が地方で活躍する人材を派遣するもので、いわば実働部隊と言ったところでしょうか。和歌山県紀の川市ではエンジョイワークス事業企画部の永田大樹が地域活性化企業人として、昨年から現地に根を下ろして活動しており、地域おこし協力隊の若者2名と一緒に、同市内の物件再生事業に取り組んでいます。
不動産事業から始まって10数年、地域それぞれの課題に併走してきたエンジョイワークス。これまでのノウハウや経験、そこから生まれたアイデアや自社の持つネットワークを地域に還元していくことが、私たちの新たな使命かもしれません。さまざまな自治体で、「活用」いただける会社・人材であるよう、小さな実績を積み上げながら、コミュニケーションを広げていきたいと思っています。
地域人材ネット(総務省ホームページ)
https://www.soumu.go.jp/ganbaru/jinzai/