空き家の増加。今や、全国どの自治体も抱える社会問題です。有効な対策は何か―?それには、地域の特性や歴史背景など「その土地ならでは」の部分を省いて考えることはできません。この課題に関わる人材や、そもそもの「不動産需要」など、同じ問題でも、対策のアプローチは異なっていくのです。
そんななか、昨今「空き家対策」の一つとして、多くの自治体が取り組んでいるのが、「空き家バンク」ではないでしょうか。人が去り、使い手がいなくなった住居(空き家)。それを不動産市場に流通させる(活用する)機会がないと、なかなか人の目に触れることはありません。
全国の空き家・遊休不動産の再生に携わってきた私たちエンジョイワークス。自治体との連携が少しずつ広がる中で紹介されたのが、三重県南伊勢町でした。この町もほかの自治体と違わず、人口減と空き家が悩みの種。1960年のピーク時に約3万2千人だった人口が、その100年後、2060年には約3千3百人まで減少するとの推計も。現状でも1万1千人(2023年4月)。60数年で65%以上減っているということになります。
その南伊勢町も「空き家バンク」に取り組んでいましたが、掲載された「物件」の情報は、建物の築年数とか広さといった数字が中心で、地域や暮らしに紐づいたものが少ないという課題がありました。そして、そもそも町内に不動産事業者がなく、個人間での賃貸契約というケースからトラブルになることもあったとか。つまり、「不動産(空き家)流通の仕組みや体制」を整える必要があったのです。そこで、2020(令和2)年度は国土交通省の「空き家の担い手強化・連携モデル事業」の採択を受けて、南伊勢町役場と「むすび目Co-working」、エンジョイワークスの協働で「空き家対策の担い手連携による新しい空き家バンクマネジメント事業」に取り組みました。
私たちが力を入れたのが、空き家バンク運営における物件と利用者(移住者等)との「マッチングの前と後」。南伊勢町への移住やこの町での起業に関心のある層「関係人口」を創出し、この地域での生活をより具体的にイメージさせる情報・コミュニケーションを活発にすることでした。これには「人」の力が必要です。そこで、この町をフィールドに、空き家を使った利活用事業の事業計画や運営計画が策定できる人、そして地域の事業者をサポートし、参加型プロジェクトのプロデュースができる「空き家再生プロデューサー」の育成に手を挙げたのです。空き家のオーナーに向けた説明会やリノベーション物件の見学会、空き家バンカーを含めた不動産知識のある「中間組織」の構築、さらには発信サイト(「空き家から始める南伊勢」https://minamiise.hello-renovation.jp/)をリニューアルするなど、町の外と中をさまざまな手法でつないでいます。
エンジョイワークスでは、まちづくり人材を育成する「地域未来創造大学校・次世代まちづくりスクール(まちスク)」を運営しています。地域の人たちと一緒に地域課題解決と事業実践ができる人材「空き家再生プロデューサー」の資格講座もあり、その仕組みを活用。南伊勢町ですでに移住定住コーディネーターとしても活動をされていた「むすび目Co-working」の西川百栄さん、西岡奈保子さんもこの講座に参加。2人は現在、空き家バンカー、空き家再生プロデューサーという肩書の「空き家再生のプロ」として活動しています。
西川さんの活動の様子はこちら
自治体は不動産流通のプロではなく、民間事業者や個人の持つ「知恵やノウハウ、連携をどうつないで活かしていくのかを考える」という立ち位置でしょうか。私たちは、その橋渡しや仕組みづくりのお手伝いする立場。南伊勢町での官民連携の取り組みは、日本に散らばる小さな町でも参考にできる実践例かもしれません。